第42話 ダンジョンはお休みして
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正統派ファンタジー『ロドネア戦記、キーン・アービス -帝国の藩屏-』(全333話91万字)魔術と剣術の天才キーン少年の成長と帝国の再興を描く物語。
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トウキョウダンジョンセンターの本棟から外に出たら4時50分だった。
5時には家に戻りたいので、俺はダンジョンセンターの敷地内の何の建物か分からない建物と建物の間に入ってうちの玄関前に転移した。
替えの防刃ジャケットについては明日だ。
「ただいま」
『おかえりなさい』
台所から母さんの声。
父さんはいないらしい。
2階に上がって着替えた後、諸々を片付けた俺は防刃ジャケットを持って玄関に下りた。
「ちょっと出かけてくる。
すぐ帰る」
そう言って玄関を出た俺は、近くの商店街にあるちょっとお高い方のクリーニング屋に防刃ジャケットを預けた。
ここでも冒険者証が使えた。
うちに帰って部屋に戻ってしばらくしたら玄関が開いて父さんが帰ってきた。
『ただいまー』
『お帰りなさい。一郎が待ってるから早めにお風呂に入ってね』
『わかった』
父さんが風呂に入って15分くらいして上がったので俺がそれから風呂に入り、俺が風呂から上がったら夕食になった。
今日の夕食はトンカツと味噌汁。それに昨日のポテトサラダだった。
夕食の間、父さんにダンジョンのことを聞かれた。
「うまくいってるよ」
「儲かってるのか?」
「そこそこね」
「あなた、一郎はお小遣いいらないって話したでしょ?
相当儲かってるんじゃない?」
「そうだ、すっかり忘れてたけど父さんに借りてたお金返さないと。
明日銀行に行って下ろしてくるよ」
「別に返さなくてもよかったんだがな。
返してくれるなら明日じゃなくてもいつでもいいんだぞ」
「わかった。でも忘れないうちに返すよ」
自室に戻った俺はスマホを操作して俺の冒険者口座から俺の銀行口座にお金を振り込む操作を始めた。
現金もある程度手元あった方がいいので100万円振り込むことにした。
こういった操作は初めてだったから緊張してしまったが、うまくいったようだ。
父さんの口座に直接振り込めば手間はかからなかったんだけど、やはり借りたお金は現金で返さないと。
明日は銀行に行ったり、替えの防刃ジャケットを買ったり雑用をこなしておこう。
翌日。
タマちゃんとフィオナをおいて俺は銀行のATMが開く8時45分に合わせて家を出た。
さっそく口座のある最寄り銀行まで駆けていき100万円を下ろした。
家に帰った俺は100万円から10枚お札を抜き出して財布に入れ、残りを机の引き出しに入れておいた。
10万円のうち6万円は父さんに返す5万円と利息分としての1万円だ。
残り4万円はどうしても現金が必要になった時のため。
次に俺は防刃ジャケットの替えを買うためサイタマダンジョン前のダンジョンワーカーに行くことにした。
もちろん転移での移動だ。
普段着だったが、冒険者証は首から下げている。
これはもう手放せないな。
転移した先はダンジョンワーカーの駐車場。周りをざっと見たがだれかの注意を引いたようではなかった。
時間が早いせいかダンジョンワーカー内には客の数は少なかった。
俺はさっそく防刃ジャケットが吊ってあるコーナーに行った。
今のものより高級な防刃ジャケットももちろん売っていたが、そもそもBランクやCランクの相手取るモンスターで俺がダメージを受けることは想像できない。
ということで、今までの防刃ジャケットと同じものをひとつ店のかごに入れた。
将来俺がトッププレーヤーとして有名になればこの防刃ジャケットが俺のトレードマークになり、一般にも流行るかもしれない。
そういえば、以前動画で見たSランクパーティーの防具にはやたらといろんなスポンサーのマークが貼ってあった。
ああいったものも宣伝料としてスポンサーから金が出てるのだろう。
俺はそこまでする気はないが、もし是非にと頭を下げられたら考えてもいい。なんてな。
他に何か役立ちそうなものがないかと店の中を見て回ったが、これといったものはなかったので防刃ジャケットを入れたかごをレジに持っていって精算した。
これで良し。
いったんうちに戻って今度は父さん母さんの結婚記念日のお祝い用に旅行券を近くのスーパーの中に入っている旅行会社に行って買ってこよう。
結婚記念日は9月中旬なのでちょっと早いけど早めに用意してたほうが安心だしな。
うちに転移で帰った俺はあらためて近くのスーパーに歩いていった。
全国チェーンの総合スーパーなので食品の他衣料品や雑貨も売っているし、いろんなテナントも入っている。
その中に旅行会社もある。
その旅行会社に行って10万円分旅行券を買ってきた。
午前中そんな感じで過ごした俺は、午後から暇になってしまった。
部屋の中でタマちゃんは段ボール箱の中で四角く伸びたままじっとしているのだが、フィオナが暇そうに俺のベッドの端に腰かけて足をブラブラさせている。
フェアリーランドに跳んでいってフィオナをしばらくそこで遊ばせてやろうと思い、フィオナを肩に乗せて玄関に下り靴を履いた。
「ちょっと出かけてくる」
『行ってらっしゃい』
転移!
目の前が玄関のドアから一面の花畑に切り替わった。
真っ白な綿雲がぽっかり浮かぶ青空の下、花畑の上では妖精たちが飛び回っている。
俺の肩の上に止まっていたフィオナも飛び立ってそこらを飛び回り、ほかの妖精たちと紛れてどこに行ったか分からなくなってしまった。
とは言っても、俺とフィオナは固い絆で結ばれているので心配はしていない。
俺は花畑に腰を下ろしてゆったりしていたら、俺の目の前に妖精女王フェアがやってきた。
フェアは他の妖精より一回り大きいし、頭の上に王冠のようなものを着けているので区別は簡単につく。
『ゆうしゃさま、いらっしゃい』
「フィオナを連れてきたんだ。たまにはここで遊びたいだろうと思って」
『あのこをだいじにしてくれて、ありがとうございます』
「もう俺の家族だし」
『まあ。ゆうしゃさまはほんとうにやさしいんですね』
フェアは俺の横に並んで座った。
幸せだなー。
「ここって、夜が来るの?」
『いいえ、ここはいつも変わらず昼間です』
確かに空は青くて明るいけど太陽がない。
サイタマダンジョンやトウキョウダンジョンの1階層の大空洞と同じだ。
もしかしたらここもダンジョンの可能性がある。
少なくとも特殊な世界だ。
「そういえば、前回ダンジョンの茂みの中に倒れていたのはなぜ?」
『まもののためになにもできずさいごのちからをふりしぼってフェアリーランドをすくえるなにかをねんじててんいしたところ、あのばしょにてんいしたようです。
そして、ゆうしゃさまにであえました』
「ふーん」
俺の存在が発しているオーラのようなものがこのフェアリーランドに伝わっていたということなんだろうか?
ほとんどピンポイントで俺の近くに転移した結果、あの魔物の退治につながったわけだけど、かなり不思議な話ではある。
「この前の魔物っていったい何だったの?」
『わかりません。
これまであのようなものがフェアリーランドにあらわれたことはありませんでした。
このフェアリーランドのそとでなにかよくないことがおきているのかもしれません』
「うーん。
となると、またアレが現れるかも知れないんだ?」
『かのうせいはあります』
「そのときはすぐに知らせてくれ。
すぐに助けに行くから」
『ありがとうございます』
「俺のうちに転移で跳んでこられるかな?」
『いえ。うかがったことがありませんのでそのばしょにはてんいできません。
ですが、ゆうしゃさまのことをねんじててんいすれば、ゆうしゃさまのもとにてんいできるとおもいます』
「それなら安心だ」
『はい』




