第40話 トウキョウダンジョン3、対人スキル
気持ちではきれいに戦ったはずなのだが、俺の防刃ジャケットが血で汚れてしまった。
灰色なのでそれほど目立たないのだが、気になってよく見たらそれなりに汚れている。
こいつはクリーニングしないとマズそうだ。
クリーニングするとなると替えのものが必要になる。
トウキョウダンジョンセンターの近くにダンジョンワーカーってあったかな?
もしなければサイタマダンジョンセンター前に跳んでいくだけだけどな。
いや、そっちの方が確実だ。
転移さまさまだ。
タマちゃんが惨劇の坑道をすっかり掃除して俺のところに戻ってきて核を吐きだした。
核の大きさは大トカゲと同じくらい。
同じレベルのモンスターなんだろうからそんなものなのだろう。
タマちゃんが吐きだした核を拾ってリュックに放り込んだところ、核の数は10個だった。
これでサイタマダンジョンで手に入れてそのまま俺の部屋に置いている核と合わせて、大きめの核が74個、いつもの2、3階層の核が60個になったはずだ。
このダンジョンでも複数、それも10匹も一度にモンスターが現れたとなるとここでも2階層以降が封鎖になることは目に見えている。
封鎖になる前にできるだけ稼がねば。
リュックを背負い直した俺はモンスターを求めて坑道の徘徊を始めた。
今日も俺の運はいいらしく、ほとんど他の冒険者とかち合うこともなく坑道を徘徊できた。
これは俺が獲得した新しいスキルかもしれない。
名づけてボッチ・ザ・ワンダラー。なんてな。
最初のモンスターの襲撃から30分ほどボッチ・ザ・ワンダラーを発動させていたら、またディテクターに反応があった。
おそらく今度も複数モンスターだ。
ありがたや。
とはいえ、冒険者の可能性がゼロではないのでタマちゃんとフィオナはリュックの中で待機だ。
肩に止まっていたフィオナは俺の言わんとすることを察したらしく自分でリュックの外ポケットに滑り込んだ。
かわいいなー。
フィオナが人並の大きさになって、自由に会話できるようになったら俺のお嫁さんにしたいくらいだ。
反応に向かって歩いていたら、気配の方が近づいてきた。
ただ、気配には2種類ある。
というか、近い方の気配は明らかに人間だ。そしてその先にモンスターらしき複数の気配がある。
モンスターに追われて逃げてるのか?
確定ではないが、間違いなさそうだ。
逃走の邪魔になってはならないので俺は坑道の脇に寄っておいた。
そうしたら30メートルほど先の坑道の曲がりが明るくなり始め、そのうちキャップランプの明かりが曲がりを抜けて4つほどこっちに向かってきた。
彼らは俺を見つけて「逃げろ! 大トカゲだ!」と息も絶え絶えに一言だけ叫んでそのまま通り過ぎていった。
息も切れているのに警告してくれたことはありがたいのだが、その大トカゲは曲がりを抜けてすぐそばにまで来ていたので今さらだ。
冒険者たちは駆け抜けていったとはいえまだ近くにいるのでここは俺のパンチとキックで片付けることにした。
とは言ってもたかが大トカゲ。
いくら数がいようと員数合わせのモブモンスター。
大トカゲは俺のパンチとキックで瞬く間に全滅してしまった。
数は8匹。
頭蓋骨陥没か頸椎骨折、腹部破裂が死因と思う。
何も考えずあまり早くたおしてしまった関係で逃げ去った冒険者がまだ近い。
これではタマちゃん先生に大トカゲの処分を頼めないではないか。
これは参った。
冒険者たちが立ち去るのを待っていたんだけど、大トカゲが追ってくる気配がなくなったのに気づいたようで彼らは立ち止まってしまった。
そしてあろうことか俺の方に向かってきた。
素手でたおしたくらいなら武道の達人ということでごまかせるかもしれないが、核を抜き出すためのナイフまで持っていないとなるとちょっと変だ。
などと立ったまま考えていたら、冒険者たちが俺の目の前までやってきた。
キャップランプの明かりが何気に眩しい。
「きみがたおしたんだよな?」
その中の一人が俺に聞いてきた。
俺しかここにいないんだから聞くまでもないことなのだが、俺はそうは言わなかった。
なにせ俺は精神年齢26歳だからな。
「はい」
「武器を持たず素手で大トカゲ8匹も?」
ここにいるのは俺だけで、その俺が手ぶらなんだから聞くまでもないことなのだろう。
しかし、俺はそうは言わなかった。なにせ俺は精神年齢26歳だからな。
「はい」
「声が若いけど、まさか高校生?」
正直に答えた方がいいのだろうか?
大学生だと適当に答えた結果、大学名なんか聞かれたら、ノーコメントで通せはするがそれだと角が立つ。
なので正直に答えた。
「はい」
「全国にひとりだけいるとうわさになっている16歳Bランク冒険者?」
青いネックストラップも見えてるだろうし、ここはBランクプレヤーの狩場だし。
いちいち見ればわかることを聞いてくる。
だんだんうざったくなってきた。
「そろそろいいですか?
解体したいので」
俺のその言葉でその冒険者はハッととなったようで、慌てて、
「助けてくれてありがとう。
それじゃあ僕たちは行くから」と言って、4人揃って歩いていった。
フー。
俺は対人コミュニケーションスキルが不足しているようで、モンスターを相手にするよりよほど疲れた。
先ほどの冒険者たちのキャップランプの明かりが遠ざかったところで、タマちゃん先生に御出馬していただき大トカゲの核を回収した。
フィオナも俺の右肩に止まっている。
かわいいなー。
フィオナがいれば対人コミュニケーションスキルなんてどうでもいいかも。
これでトウキョウダンジョンでの成果は、少し大きめの核が18個になった。
まだまだ時間はある。
どんどん行くぞ!




