第38話 紹介。トウキョウダンジョン
部屋に戻った俺は普段着に着替えた。
俺がそういったことをしている間にタマちゃんは自分の家に戻った。
フィオナはいったん俺のベッドの端に座っていたけれど、段ボールの家がフィオナの家だと教えたら、素直にその中に入って下に敷いたバスタオルの上で横になった。
かわいいなー。
着替え終わった俺は、今日手に入れた核をリュックから取り出して部屋の中にあったデパートの紙袋に入れておいた。
その後父さんに続いて風呂に入り、俺が風呂から上がったところで夕食になった。
今日の夕食は天婦羅とソーメン、それにポテトサラダだった。
わが家の夏の定番だな。
俺はソーメンを4束食べたらお腹がいっぱいになってしまった。
幸せだなー。
俺は幸せをかみしめながら食器を台所に下げた。
いったん席に着いた俺はタマちゃんとフィオナのことを父さんと母さんに話すことにした。
「父さん、母さん、話しておくことがあるんだ。
ちょっとここで待っててくれる?
見せたいものがあるから」
父さんと母さんが怪訝な顔をしてお互い見つめ合っているところ俺は2階に上がっていった。
フィオナを起こして肩の上に乗せ、タマちゃんは俺についてくるように言った。
台所兼食堂に入っていったら俺の足元の金色のタマちゃんがまず2人の目を引いたようだ。
それから俺の肩に乗っている一見フィギュアに2人の視線が移った。
「見せたいものというか紹介したいものというか。
この金色のぐにゃっとした塊が金色スライムのタマちゃん。
そして、俺の肩に止まってるのが妖精のフィオナ。
タマちゃんとフィオナ、あっち座ってるのが俺の父さんでその向かい側に座ってるのが俺の母さん」
いちおう紹介は終わった。
父さんも母さんも口を半分開けたままじっとしている。
つかみは上々だ。たぶん。
「それで、タマちゃんもフィオナもこんなんだから、よそにはくれぐれも秘密にしてね」
そう言ったら2人とも首をカクカクと何度も縦に振った。
「それじゃあ」
俺はそう言ってフィオナを肩に乗せたままタマちゃんを引き連れて2階の俺の部屋に戻っていった。
ふー。タマちゃんとフィオナの紹介は何事もなく終わった。
よかった。
これで肩の荷が下りた。
タマちゃんが自分の家に戻り、フィオナも自分の家に戻ったところで俺はスマホをいじって2階層、3階層のモンスターの出現数について調べてみた。
やはりどのダンジョンでも2階層、3階層のモンスターが複数出現したり、下の階層から移動するといった事例を見つけることはできなかった。
どうもサイタマダンジョンだけ、それも初めての現象のようだ。
サイタマダンジョンが特別なダンジョンということなのだろうか?
埼玉って取り立てて目立つところのない県だと思っていたけれど、ダンジョンだけは特別だったんだ。
ちょっと得したような。
ありがたやー、ありがたやー。
その後少しダンジョン関連のニュースを見たんだけど、俺が知らないうちにサイタマダンジョンでエライことが起こっていた。
ダンジョン高校の生徒たちが3階層で大トカゲの群れと戦い多数の負傷者が出たようだ。幸い死者は出ていないようで不幸中の幸いだった。
生徒たちは6人のチーム20組で3階層を調査し、途中で複数のチームが大トカゲ10匹から15匹の群れに遭遇し何とか撃退はしたものの負傷者が出たということだった。
大トカゲって一度にたくさん湧いて出るからおいしいザコモンスターだとばかり思っていたけれど、そうでもなかったらしい。
いや、ダンジョン高校の連中が見掛け倒しだったということかもしれない。
いやいや、これは言い過ぎだな。
彼らは少なくとも本当の意味での殺し合いは経験していないだろう。
それにもかかわらず、けが人を出しても相手を撃退したということはほめられるべきだった。
精神年齢26歳の俺としたことが恥ずかしい。
反省はこれくらいにして。
この調子だと明日も2階層以下に潜れそうにない。
昨日の今日でさすがにダンジョン高校の連中も明日は潜らないだろうから3階層に転移で行ってみるか。
そうだ、サイタマダンジョンのサイトがあったじゃないか。
このところ全然チェックしていなかった。
ちょいちょいのちょいでサイタマダンジョンのサイト。
……。
なになに?
やっぱり明日も2階層以降は進入禁止か。
しかたない。
となると、サイタマダンジョンじゃない他のダンジョンに行ってみるか?
うちから次に近いダンジョンとなると、代々木にあるトウキョウダンジョンか。
電車で行くの面倒そうだけど、行ってみるか。
スマホにトウキョウダンジョンの2、3階層のマップデータをダウンロードしておいた。
翌朝。
机の上からごそごそ音がするので目が覚めたら、フィオナがハチミツが入った昨日の小皿の上に乗っていたカバーを外そうと悪戦苦闘していた。
すぐにカバーを取ってやったら、小皿に手を突っ込んで手の先にハチミツを付けて、その手をなめ回し始めた。
よほどお腹が空いていたようだ。
少々ホコリを被ろうがどうってことないだろうから、カバーはしないでいいな。
早めに支度を終えて家を出た俺は最寄り駅まで駆けていった。
もちろんリュックにはタマちゃんとフィオナが入っている。
フィオナには外を見ずにおとなしくリュックのポケットの中に入っているよう言ってある。
今日の俺の格好も、いつものように防具のうちヘルメットと手袋はまだ着けていないだけで、ほかの装備は身に着けている。
やってきた電車に乗り込んだところ、意外と空いていた。
そういえば今日は日曜か。
夏休みで曜日感覚を失くしてた。
スマホを見ながら電車を乗り換え、うちの最寄駅から40分ほどでトウキョウダンジョンセンターのある最寄り駅、原宿に着いた。
時刻は9時10分。
リュックやカバンを持った冒険者らしい人たちがずいぶんたくさん電車から降りてトウキョウダンジョンセンター側の改札を通っていった。
16年前代々木公園内に出現したダンジョンは紆余曲折のあと政府指定特殊空洞01と名づけられた。
今ではトウキョウダンジョンと呼ばれて、旧代々木公園全体がトウキョウダンジョンセンターの敷地となっている。
俺は他の冒険者たちの流れに乗っかって巨大なトウキョウダンジョンセンター本棟に向けて歩いていった。
ここの売店はサイタマダンジョンセンターと違い本棟内にあるようなので、冒険者証をかざして本棟に入った。
売店はすぐに見つかり、俺は他の冒険者に混ざって食料品売り場で昼食用の買い物をした。
いつもサイタマダンジョンの売店で買っていたおむすびセットは見つからなかったので初心に戻って個装おむすびを5つ。2つはタマちゃんの分だ。あとはいつも通りの緑茶のペットボトル2本。
フィオナ用に何かないかと探してみたがよさげなものは見つからなかった。
その後、マップ売り場に回った俺は念のため3階層のマップを売店のかごに入れた。
レジで冒険者証を使って支払っていたら、何だか周囲から視線を集めていた。
ヘルメットを被らず青色のネックストラップと青ラインの入ったBランクの冒険者証を首から下げてたからだろうな。
俺はネックストラップだけのなんちゃってBランクではない全国ただ1人らしい本物の高校生Bランカーだし。
おむすびなどはリュックの中、マップはリュックの脇についている物入れに入れておいた。




