第37話 2階層5
午後から暇になった俺は、2階層に直接転移してみることにした。
俺が防具に着替えていたらタマちゃんが勝手にリュックの中に入っていった。
できた子だ。
フィオナはぐっすり寝ていたが額にかるく人差し指を当てたら目を覚ました。
「フィオナ、ダンジョンに行くからリュックのポケットに入ってくれ」
そう言ったらすぐに飛び上がってリュックのポケットにするりと入った。
準備を整えた俺は、玄関に下りていき靴を履きながら、
「これからダンジョンに行ってくる。5時までには戻ってくる」
と、居間の方に向かって言ったら、
『気を付けていってこいよ』と父さんから返された。
玄関を出た俺は、門の先の道路に人がいないことを確かめて、サイタマダンジョンの2階層、1階からの階段のある空洞に転移した。
今回は武器預かり所に寄っていないので武器なしだ。
素手でも2階層のモンスターではオーバーキルになるわけだからある程度手加減した方がいいかもしれない。
考えにくいが、もしものことがあったとしてもタマちゃんもいる。
モンスターの核だって死骸をタマちゃんに食べさせればナイフは不要だ。
他の冒険者がいなかったらこのスタイルで十分だ。
冒険者の気配は予想通りなかったし、ディテクターで探ってみても周囲に何の反応もなかった。
もし移動中、誰かいても俺の方が先に見つけるはずだから、隠れてしまえばそれまでだ。
これなら大丈夫。
ダンジョン内のこの雰囲気。
落ち着くなー。
俺はキャップランプを点灯して階段下から奥の方に移動していった。
10分ほど歩いてディテクターで探ったところ、俺が進んでいる坑道の先にモンスターを見つけた。複数だ。
久しぶりの素手での格闘戦だ。
腕が鳴るなー。
そのまま歩いていたらモンスターの気配を感じ始めた。
気配は意外と大きい。
何が出てくるのかなー。
坑道の曲がりから現れたのはあの大トカゲだった。
2階層にも進出していたらしい。
こいつら何気に元気だな。
数は1匹、2匹、たくさんだ。
後で魔石を数えればいいだろ。
タマちゃん先生にも頑張ってもらおうか。
「タマちゃん、リュックから出て前からやってくる大トカゲを食べてくれ。
核だけは残しておいてくれよ」
俺の言葉でタマちゃんはリュックから這い出て坑道の路面にポトリと落ちてそこからすごい速さで大トカゲに向かって移動していった。
俺はタマちゃんを追う形で大トカゲの群れに突っ込んでいった。
そしたらフィオナがいつの間にかリュックのポケットから抜け出したようで俺の頭の近くを飛んでいた。
「フィオナ、危ないから俺から離れるなよ」
そう言っておいた。
武器を持たない俺の間合いはかなり狭くなったので、基本的に大トカゲのかみつき攻撃に対してカウンターで対処することにした。
群れに突っ込んだ俺は噛み付いてくる大トカゲをかわしてはパンチを頭蓋に叩き込み、キックを胴に蹴り込んだ。
ある程度手加減しても大トカゲは即死していった。
タマちゃんの方は俺より豪快で、当たるを幸いどんどん大トカゲを吸収していく。
1人と1匹で立ち回った結果、今回も20秒ほどで大トカゲの群れは全滅してしまった。
俺の斃した大トカゲもすぐにタマちゃんが食べてしまった。
フィオナはその間俺の頭の真上にいたようだ。
そこなら安全だし素手で戦う俺の邪魔にはならないからな。
こいつら数だけ多かったけれど、全く骨のない連中だった。
「タマちゃん、核を吐きだしてくれるか」
タマちゃんが吐きだした核を数えながらリュックの中に入れたら64個あった。
今回は改札口を通ってもいないし、2階層以下侵入禁止の今日はさすがに核を売れないが、そのうちまとめて買い取り所に持っていこう。
知らぬ間にフィオナが俺の右肩に止まって腰を下ろていたので、そっちに顔を向けたらフィオナが俺に微笑んだ。
かわいいなー。
ダンジョン高校の生徒が3階層の掃除だか点検してたんじゃなかったのか?
彼らが3階層に入る前にさっきの大トカゲの群れが2階層に来てたんなら仕方がないけど、そうじゃなかったら、連中あんまし役に立たなかったってことか?
100人以上つぎ込んで練り歩いても完璧って訳にはいかないから仕方ないところか。
俺にとってはどうでもいいけどな。
いやいや、この調子だと明日も1階層以外いけなくなるんじゃないか?
いやだなー。
俺の勘が明日も2階層以下には潜れないと告げている。
手袋をずらして時計を見たらまだ午後1時だった。
5時までいるとしてそうとう稼げそうだ。
俺はディテクターを適当に使いながら2階層の中を歩いていった。
出会うモンスターは最初の大トカゲ以外は2階層、3階層のオーソドックスなモンスターだった。
俺の拳が火を噴いてタマちゃん先生には後片付けで御出馬していただいただけだった。
フィオナは器用なもので俺がそれなりの速さで動いていたにもかかわらず、ずーっと俺の肩の上に止まっていた。
3時までそうやって歩いて、追加で36個の核を手に入れた。
他の冒険者がいないと楽だな。
しかもモンスターのアタリがいい。
それに濃くなった感じもする。
俺は坑道の壁にもたれて座り込みリュックからお茶のペットボトルを取り出して一休みした。
フィオナが俺の飲む緑茶を欲しそうな目で見てたので、キャップに注いで口元に持っていってやったら口に入れたものの顔をしかめてすぐに吐き出してしまった。
緑茶はフィオナのお口に合わなかったようだ。
3時の休憩を終えた俺は立ち上がりリュックを背負い直して、これまで通り坑道を適当に歩き始めた。
徘徊とも言う。
それから5時近くまで徘徊し、更に24個の核を手に入れた。
この日の収穫はちょっと大きめの核が64個、いつもの核が60個。
豊漁ではあった。
5時までには帰ると言って家を出てきていたので、タマちゃんとフィオナがリュックの中に納まったことを確かめてからリュックを背負い直した俺は玄関前に転移した。
転移は実に便利だ。
玄関のドアを開けて「ただいまー」と言ったら居間の方から父さんと母さんの『おかえりー』『おかえりなさい』が返ってきた。
わが家は平和だ。




