第328話 付録2、転移板
そして翌朝7時。
イチローがフィオナとジュニアを連れてシュレア屋敷に転移して、食堂の自分の席に着いた。
現在の食堂での席順は、以下のようになっている。
台所→
カリン アキナ ミア
フィオナ
レンカ ジュニア イチロー
↙玄関ホール・居間
「「いただきます」」
食事しながらミアが昨日アキナと相談したことをイチローに話した。
「アキナちゃんが王都の大学に通うなら下宿してもらえばいいけど、お父さんと離れ離れになるのが問題だとすると何かいい手を考えないといけないなー。
王都に屋敷を買いに行かせた自動人形たちはまだ帰ってきていないけれど、王都に屋敷はもう買えたはずだから、王都の屋敷とこことを転移的なもので結べないかタマちゃんに聞いてみるか。
ダンジョンの渦をここに作ることはできなかったけれど、タマちゃんなら転移できるアイテム的なものが作れるかもしれないからな。食事が終わったらタマちゃんのところに行って聞いてみる」
「イチロー、ありがとう」「イチローさん、もうしわけありません」
「そういったアイテムが作れるかどうかまだわからないから、任せてくれとは言えないけれど、天才スライムだったタマちゃんだから何とかなるはずだ。それができれば王都とここの行き来だけじゃなくていろんな使い道があるしな。
しかし、毎日ここの食事はおいしいな」
「うん。おいしい」「ほんとです」「「わたしたちもすごくおいしいと思います」」
カリンとレンカもおいしさが分かるようになって、食卓での会話に幅が出てきたとイチローは喜んでいる。
食事が終わりミアたちは2階の自室に戻って着替えを済ませてからラザフォート学院に行くのだが、学院の校門まで警備員1名が付いている。
この日一郎は高校の登校日なのだが、食事が終わってヴァイスから弁当の入った手提げ袋を貰ってから、タマちゃんのいるコアルームにスポーツバッグに入ったジュニアと右肩に止まったフィオナを連れて転移した。
「……。タマちゃん、そういうわけで、転移板って作れないかな?」
『作れると思いますが、わたしの影響力の及ぶダンジョン内ではないので、魔力の供給ができないため転移回数に制限がかかります』
「回数に制限があっても使えるということは魔力の電池っぽいものが内蔵されているということ?」
『そうです』
「なら電池を交換式にしておけば、電池を替えるだけでいつまでも使えるってこと?」
『はい。そうなります』
「それで十分だよ。俺のアイテムボックスで運んで設置するから少々大きくても重くてもいいし」
『もうひとつの制限としてダンジョン内とダンジョン外を結ぶことはできません』
「外なら外だけの2点、中なら中だけの2点ということ?」
『はい』
「上の館とシュレア屋敷を結ぶことは?」
『上の館とシュレア屋敷が同じ世界なら結べますが、異なる世界の場合結べません。シュレアのある世界に渦を作れなかったので館とシュレア屋敷は違う世界なのではないでしょうか』
「なるほど。
それでも、もし転移板で上の館とシュレア屋敷を結べたら同じ世界だってことか?」
『そういうことになります。その場合、シュレアを特定できず渦を作れなかった理由はシュレアのある世界がシュレアダンジョンの影響下にあり、他の世界のダンジョンの影響を排除していることが考えられます』
「なるほど。よそのダンジョンの出入り口が自分のテリトリーにあるのは嫌だろうしな」
『はい。わたしでも阻止します』
「そりゃそうだよな。
それはそうと、転移板はそれで十分だから作ってくれ」
『了解しました。それでは製作します。……。
できました』
一郎の足元に直径2メートルほどの石でできたような円盤がふたつ現れ、その横に小箱がふたつ置かれていた。
『小箱の中には各々魔力電池が4個と、使用法と魔力電池の交換方法を記した紙が入っています』
「電池交換までに何回くらい使える?」
『送り出しで1000回ほどです。受け入れ側はほとんど魔力を消費しません』
「往復以外で使うことは少ないだろうから電池交換は同時でいいな。
転移残数がわかればいいんだがな」
『転移板の上に表示された数字が大まかな転移残数になります』
「確かに数字が書いてある。どちらも1005と書いてあるから1005回程度使えるってことだな」
『はい』
「これって距離は魔力消費に関係する?」
『わずかに関係しますがほとんど影響ありません』
「俺も自分の転移で距離はあまり関係ない気がしてたから納得だ」
『転移板の使い方ですが、転移板の上に立って『転移』ないし『起動』と、日本語で言うだけで対になった転移板に転移できます』
「了解。なかなかよくできてるな。
それじゃあ俺は学校があるからそろそろ行くから」
『はい』
一郎は2枚の転移板をアイテムボックスに収納して埼玉の家の玄関に転移した。
廊下への上り口にジュニア入りのスポーツバッグを置いて、アイテムボックスからカバンと弁当入りの手提げ袋を取り出した。
「それじゃあ、フィオナ、ジュニア、行ってきます」
「イチロー、いってらっしゃい」
フィオナの声に続いて、スポーツバッグがわずかに震えた。
一郎は玄関の扉のカギの開閉が面倒なので扉を介さず玄関前に転移して学校に急いだ。
……。
学校帰りの一郎は着替えを済ませて、ジュニアとフィオナを連れて新館の書斎に転移した。
館のある世界とシュレアの世界が同じものかそうでないのかを確かめるつもりだ。
まず、書斎の真ん中の床に転移板を置いた。
そのあとアインを呼んで一通り説明したあとシュレア屋敷の玄関ホールに転移して、ホールの隅の床の上に転移板を置いた。
「それでは、実験開始。『転移!』」
一郎の『転移』の一言でジュニア入りのスポーツバッグを持ちフィオナを肩に止めた一郎は新館の書斎に設置した転移板の上に立っていた。
書斎の中にはアインが立ってイチローを待っていた。
「やっぱりこことシュレアのある世界は同じ世界だったのか」
「イチロー、びっくりだね」
「うん。渦を作れなくてもこれでずいぶん便利になったな。
しかし、季節もほぼ一緒で時刻的にも一緒ってことは、同じ半球で同じ経度ってことだよな。ってことは、この島とシュレアはかなり近いってことか。それにしては船が見えなかったし謎だな」
「イチロー、この世界が地球と比べて何倍も大きいってことかも知れないよ」
「双眼鏡で見ても水平線が遠くてはっきり分からなかったから、その可能性が大きいのか。
その辺は外洋船が完成したらそのうち分かってくるだろう。
まずは転移板だ」
「マスター。この部屋に転移板を設置してしまうと、マスターの邪魔になりませんか?」
「確かにシュレア屋敷との往来が始まったら、この部屋から出入りするようになるわけだから邪魔ではあるな。ここの玄関ホールに置いておくか」
「その方が無難だと思います」
「分かった。運んでしまおう。
アイン、転移板の上に残り使用回数が表示されてるから、ゼロになる前にこの魔力電池を取り換えてくれ」
そう言って一郎はアインに魔力電池の入った箱を渡した。
「はい」
一郎は書斎の床に置いてあった転移板を収納し、新館の玄関ホールの脇あたりに設置した。
そのあとシュレア屋敷の玄関ホールに転移した一郎は、電気作業員A?を呼んで魔力電池の入った箱を渡し一連の説明をしておいた。
「これでよーし。5000回も行き来するにはそれなりの日数かかるだろう。
夕食の時、ミアたちに教えてやろう。新館に戻って遊ぶのも楽しいだろうし」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その日の夕食時のシュレア屋敷。
「玄関ホールに丸い板を置いたんだ。その板の上に乗って『転移』または『起動』と日本語で言うと新館の玄関ホールに出る」
「すごい」
「後で試してみればいい」
「分かった」
「丸い板のことを転移板というんだが、2枚がセットで行き来できるようになっているんだ。
それで新しいセットをタマちゃんに作ってもらって1枚を王都の屋敷に、もう1枚をここの玄関ホールに置いておけば、いつでも王都とここの行き来ができるようになる。
そしたら今までみたいに10日に1度アキナちゃんのうちに帰ることができる。これならアキナちゃんのお父さんも安心してアキナちゃんを送り出せるんじゃないかな?」
「イチローさすがというか、タマちゃんすごいよね」
「イチローさん、ありがとう。こんどタマちゃんにあったらお礼を言っておいてください」
「了解。そういうことだから、みんなで王都の大学で頑張ってくれ。カリンとレンカも一緒だからな」
「「はい」」
「イチロー、まだ確実に入学できるか分からないよ」
「ソフィアは、ミアもアキナちゃんも大丈夫だと言ってたぞ」
「うん」
「わたしのことも?」
「アキナちゃんのことも大丈夫だって言ってたから安心していいよ」
「うれしい」
「俺も来年は俺の国の大学に行くつもりだから、ミアたちと同じ大学生になるわけか。なんだかおかしいな」
「ほんと。すごくおかしい。アハハハ」
「ほんとですね」




