第326話 サイタマダンジョンエピローグ2
本編最終話となります。ちょっと長めですがよろしくお願いします。
年が明け2月末。タマちゃんがダンジョンコアと同化して半年が経っていた。
俺の累計買い取り額は昨年9月、夏休み終盤に集めた金の延べ棒を卸したことで1兆円を余裕で超えてしまった。その結果その後新設されたEXランクになっていた。
EXランクの冒険者証なのだが、カード自体が透明で中のICチップのようなものが透けて見える。確かにカッコいいのだが、とにかく目立つ。
今さらと言えば今さらなのだが、俺はカードケースに水色のラインの入った白い紙を入れ、ネックストラップも水色に変えてAランク冒険者に偽装している。
フィオナは俺の肩の上でフィギュア化しているので、俺ははた目にはただひとりのEXランク冒険者にあこがれているイタイ高校生だ。
今の俺は冒険者としての活動は低調だけど、それでも昨年末には累計買い取り額は2兆円を超えていた。
金の受け入れ先の□▽金属工業では1兆円まで金を受け入れるという話だったのだが、俺が持っていた金の延べ棒を全部卸してしまうと1兆円を超えてしまう。
俺が金を持っていても仕方がないので河村さんに相談したところ、ダンジョン庁の方で受け入れ額の増額を□▽金属工業に頼んでくれて何とか全部卸すことができた。
うちの両親も俺がカミングアウトして以来冒険者に関心を持ったようだから、おそらくダンジョン庁のホームページを見ていると思う。
つまりひとり息子が1兆円の資産家になったということは知っているはずなのだが、父さんは普通に働いているし、たまに会ってもそのことが話題に上がったことはない。
斉藤さんたち秋ヶ瀬ウォリアーズの3人は俺がEXランクになったことを知っておめでとうと言ってくれたが、それで何かが変わった様子もないし、鶴田たちも同じだ。そういえば結菜もそうだった。
その結菜だが今は学校の友だちとふたりでダンジョンに潜っているそうだ。1階層での問題はモンスターじゃなく対人なので俺も一安心だ。
ミアはソフィアが言っていた通り、ラザフォート学院の編入試験で抜群の成績を上げ、5年生、最終学年に編入となり半年経ったことになる。カリンとレンカもラザフォート学院に対して資金的な工作をすることもなくミアと同じ学年、クラスとなった。
編入試験の後、ミアに試験の出来についてたずねたら、歴史以外はおそらく満点だと思う。という、力強い返事だった。その歴史だが、500年前に大陸を短期間で統一したサラバン帝国の分裂についての問題で少しわからないところがあったそうだ。空白はマズいと思い適当に答えを書いたところ合っていたそうだ。
ミアは頭だけではなく運もいいのかもしれない。
ミアはその通りだが、アキナちゃんまでも同じクラスとなった。ラザフォート学院生となったアキナちゃんはシュレア屋敷に下宿して学校に通い10日に一度ハーブロイさんが馬車で迎えに来て実家に帰っている。
後で聞いた話だが、ラザフォード学院に編入当初はミアに対していじめ的なものがあったそうだ。
そのころのミアはドラゴンの肉の効果がある程度出て、10歳児にすればかなりの身体能力のある子どもだったがそれだけだった。そのためカリンとレンカがミアに代わっていじめの相手側に向かっていき、更にミアがドラゴンスレイヤーの係累であることが知れ渡ったことでそういったものはなくなったそうだ。
カリンとレンカによると、今のミアとアキナちゃんの身体能力はラザフォート学園の最上級生男子を上回っているそうだ。ふたりとも屋敷でドラゴンの肉を毎日食べているから身体能力も上がって当然か。
昨年のクリスマスイブには一昨年同様氷川にディナーをおごってもらった。
場所は東京にあるフランス料理のレストランだった。氷川が言うには氷川の実家に近いということだった。
もちろん俺は正式なマナーなど知らないので少しだけ緊張したのだが、そんなこと気にする必要などない店だと氷川に言われたので、それからは気にせず食事を楽しんだ。
そして昨年末の大晦日。鶴田たちと斉藤さんたちで大宮の一宮神社に2年参りに行くことになったそうで俺にも一緒に行かないか? と、誘いがあった。
お邪魔虫のような気がしたので、遠慮しておいた。
世の中はまさに無常。方丈記の世界だ。
その代わり俺は2年参りではないが元旦に京都に転移して清水寺にお参りした。ものすごく混んでいて精神的に疲れはしたものの精神的勝利だ!
ダンジョンコアのタマちゃんの周りの建物は取り壊して新しく館を作り整備した。
この整備の一環として中庭の地下にタマちゃんのためコアルームを作った。現在タマちゃんはコアルームの中心に据え付けた台の上に浮かんでいる。
アインの部下の自動人形が作った図面通りタマちゃんが建物を作り、内部の細々としたところは館から派遣した自動人形たちが担当した。
ミアがラザフォート学院を卒業したあとのことをソフィアとも相談したところ、シュレアの属しているミスドニア王国の王都ベルダドニアの大学に行かせてはどうかということになった。
ミアにそのことを話したら、大学に行きたいと言ってくれたので、俺は王都に屋敷を買うことにした。
それで俺は、王都に自動人形を派遣し、それなりの屋敷を王都内に買うことができた。
シュレアのある世界に対してはタマちゃんは渦を作れないそうで、俺もいずれ転移先を記憶するため王都に出かける必要がある。
氷川に頼めばロンドちゃんを使って短時間で王都に到着できそうだが、さすがにロンドちゃんで街道を走るわけにもいかないので、俺が自分の脚で走破する必要がある。
シュレアから王都までは一本道の街道で徒歩なら15日の距離だそうだ。徒歩で15日ということは500キロほどだろう。
時速20キロで1日10時間、200キロ走れば2日半。俺にとっては大したことじゃない。来月になれば春休みだけど、いつでも転移できるから、時速20キロで延べ25時間。学校のある日でも2時間くらい時間は取れるので、毎日走っていれば1週間もあれば走破できそうだ。
俺がダンジョンマスターとなったことは去年の秋にダンジョン庁の河村さんに教えている。
「ダンジョンマスター?というのはダンジョンの全てを司っているという存在ですか?」
「それはダンジョンコアで、コアに命令できるのがダンジョンマスターです」
「なんと!」
「それで、渦なんかも好きなところに作ることができるようになりました」
「なんと!」
それから自動人形の話と果樹園の果物の出荷の話を進めていったわけだ。
こういった仕事を始めるにあたり、父さんのアドバイスで俺が全額出資して資本金100億円の法人を作った。
資本金がかなり大きいのは、念のため最初に多めにお金を振り込んでおいただけだ。100億程度の金は俺が1時間ダンジョンに潜れば達成できる金額なので事業に失敗して全額吹き飛んでも金額的には惜しくはない。
法人名は『サイタマの☆』
法人の所在地はうちの近くのマンションの一室。マンションは『サイタマの☆』名義で購入した。
そしてダンジョンセンターと合弁で自動人形のレンタル会社を設立した。出資比率は『サイタマの☆』6対ダンジョンセンター4。
自動人形の想定ニーズに対して、ダンジョンセンター内に自動人形の待機場所を設置するスペースをとれなかったため、1階層に倉庫と事務所を作っている。
事務所内にはパソコンや照明器具その他の電気製品も置いている関係でカイネタイト発電機を置いている。もちろんパソコンはスタンドアローン。俺では詳しくは分からないのだが自動人形たちが表計算ソフトなどを使いレンタル状況その他を管理している。
現在はサイタマダンジョンだけ営業しているが4月にはトウキョウダンジョン、6月にはオオサカダンジョンといった具合に2カ月毎に新しく営業を開始する準備している。
収益については、出資比率に応じてレンタル会社の収益の6割が『サイタマの☆』、4割がダンジョンセンターの取り分となる。
そして、レンタル会社は自動人形と休眠装置を貸し出す『サイタマの☆』に借り賃として売り上げの7割を支払うことになっている。
『サイタマの☆』の税金などの計算はめんどうなので、レンタル会社に委託料を支払って処理してもらっている。
サイタマダンジョンでは3000体の自動人形を用意しており、消費税込みで10時間以内1万円、以降1時間ごとに1000円というレンタル料を設定している。
1日平均の水揚げは2000万円で少しずつ水揚げは増えている。その結果消費税込みで1日当たり1500万円ほど『サイタマの☆』に入ってきている。そこからマンションの管理料や電気代などの経費を引いたうえで税金を引かれ、割り戻すと1日あたり1000万円弱がレンタル事業での会社の純粋な利益となるらしい。
『サイタマの☆』はオーナーである俺のものなのだが、俺が勝手に会社の金を使っていいわけではないし、使う予定もないので会社としての資金・資産は増える一方だ。
俺の果樹園経営も順調だ。こちらも『サイタマの☆』の事業としている。
タマちゃんに言って農園近くとサイタマダンジョンセンターの特別室を渦で結んでおり、そこに収穫した果物類を自動人形が運んでいる。その渦を利用して、レンタル用の自動人形、休眠装置なども送っている。
この果物の卸事業については1日当たり2000万円の収入を得て、税金を差し引いた利益は1500万円くらいになるそうだ。なので現在『サイタマの☆』は1日当たり2500万円儲けていることになる。
金の延べ棒を拾ってくれば1日当たり1千億円近い収入を得ることのできる今の俺からすれば1日当たり2500万円の収入は微々たるものだが、安定収益という面ではありがたい。それにレンタル事業はこれからどんどん大きくなるので日銭もそれに応じて大きくなる。そしてなにより、ダンジョン内での冒険者の活動が活発になることでダンジョンが発展していく。
ダンジョンセンターが主体となって進めていた北海道のシレトコダンジョン1階層での農園事業は順調なようで地元経済がにぎわっているそうだ。
最初に栽培を始めたレモン、リンゴ、ナシ、桃はもちろん、メロン、スイカなどの栽培がさかんで北海道はもとより全国各地の高級デパートに卸し、海外へも輸出しているそうだ。
さらに2階層でシイタケの栽培を試験的に始めており、各種の効能が確認され、事業化を進めているそうだ。
あと目立ったことは、氷川と何度か館のある島の周りをドライブをして、島の中に人は住んでいないと確信したことと、島の北の岬から双眼鏡で海を見ていたら帆船の帆らしきものが見えたこと。
氷川にも双眼鏡をのぞいてもらったが、帆にも見えないこともないけど確信はない。と、言われた。
帆であった確証はないが、この星?に人がいる可能性が高まったことは確かだ。
その氷川だが週に1度、茨城県のつくば市にある国立大学にロンドちゃんで通ってコーチングの勉強をしているという。4月になったら母校第1ダンジョン高校で特別非常勤講師としてここも週1で3年生の特別授業を受け持つそうだ。
本来、氷川は教員免許状を持っていないため高校以下の学校で教えることはできないのだが、都道府県の教育委員会に届け出ることで講師として生徒を指導できるようになるのだそうだ。
ダンジョン庁では、再来年度に向けて東京ダンジョン高校に併設してダンジョン大学校の開設を進めており、ダンジョン大学校が開校したら氷川は冒険者を続けながらそこの講師になるという。
やはり氷川は人に教えることが好きなんだろう。
氷川のまじめな性格からいって、行く行くは教授になるかもしれない。アニソンを歌う教授か。ほほえましいな。
当の俺だが、先日学校で大学入試模擬試験があった。数学で時間が足らず満点にならなかった。かなり複雑な計算を進めて解いていったのだが、時間が足りなかったというわけだ。
スピードの魔法を使っていたら時間内に解けたと思うが、実力を計るという意味での試験なのでそこまではしていない。禁止されていないはずだし、そもそもそういった魔法を使っていることは第3者からでは判断できないので本番だとためらわず使うけどな。
その問題について数学の先生が解説してくれたのだが、とある公式を知っていれば簡単に解けた問題だったそうだ。やはり受験にはノウハウ的なものが必要だとその時俺は痛感した。
俺は文系なので数学の比重は少ない。従って数学で2割程度落としたところで大学受験という意味では問題ではないのだが、やるならやはり完璧を目指したい。ということで夏休みになったら受験勉強を本格的に始めようと思っている。
鶴田たち3人は春休みになったら予備校に通うと言っていた。3人とも東京の某国立大学の文学部系統を目指すそうだ。俺の志望もそこなので来年の春には同期で入学できるかもしれない。
秋ヶ瀬ウォリアーズの3人は東京の女子大を目指すそうだ。彼女たちも鶴田たちと同じ予備校に春休みから通うということだった。その辺りに何か作意を感じないではないが、それも青春。
旧館での研究開発は順調で、現在船舶用の機材の研究開発を進めており、とりあえず旧館の近くにある湖に面して水槽実験のできる研究棟と造船所を併設した。水槽実験で得たデータをもとに実物を作る予定だ。
さらに島を正確に測量をする計画を進めている。俺の思い付きでどんどん仕事が増えていくわけだが、スタッフ数がその分増えている。
そして、無線機の開発だ。上空の電離層の存在はすでに確認できているのでかなりの距離電波が届くはず。
次に錬金術の方だがこれも成果が出始めており、ヒールポーションの量産化の目途が立ったようだ。これだけだと『治癒の水』と大差ないのだが、『治癒の水』の場合、天然ものなので将来何が起こるか分からない。量産化されたヒールポーションには安定供給できるという強みがある。原材料は数種類の薬草なのだが、もちろん薬草園も造っている。今後さらなる研究を進めていけば『エリクシール』は無理としても『万能ポーション』並みのポーションが量産できるかもしれない。
現在のサイタマダンジョンというか日本のダンジョンは35階層ある。
元々26階層は俺の予想通り全64個のダンジョンの入り口とつながってひとつだったのだが、それを64個の入り口別に分割し、その下に各々独立して7階層を追加挿入している。もちろん下の階層への階段前にはそれなりのゲートキーパーが配置されている。
タマちゃんが言うには、こういった改装にはダンジョンポイントというポイントを使用するのだそうだが、旧ダンジョンコアが莫大な量のダンジョンポイントを死蔵していたそうで、そういった意味で改装にほぼ制限はないという話だった。
そしてそれらを旧真27階層、現在の新34階層でひとつにまとめた。従って新34階層には上り階段が64個存在する可能性があり新35階層に続く下り階段がひとつ存在する可能性がある。
ここで可能性と言ったのは、階段前のゲートキーパーがたおされなければ階段が生成されないからだ。
そして旧27階層、新34階層のゲートキーパーを撃破すれば階段経由で旧28階層、現在の最下層でタマちゃんのいる35階層に到達できる。
ちなみに新34階層のゲートキーパーはゴールドドラゴンを配している。タマちゃんが言うにはヒドラなどゴールドドラゴンの足元にも及ばないモンスターなのだそうだ。
現在攻略組の最前線は分割された26階層で、サッポロダンジョンの『はやて』も他の攻略組に追いついている。
氷川に聞いたところ、秋本女史率いるハンターズは現在24階層で着実に実績を伸ばしているそうだ。あそこは堅実だものな。
その氷川は現在22階層を巡っている。
旧26階層の渦は失くしてしまった。代わりに新館の近くとタマちゃんのいる最下層中央に渦を設けてつなげている。本当はダンジョンと切り離してしまいたかったのだが、タマちゃんによると俺の果樹などが元気なのはダンジョンにつながっているおかげではないかということだったのでダンジョンにつなげておいた。
それだけが理由ならダンジョンセンター周辺の植物が元気いっぱいになるはずだがそうではないので、何か他の要因もあるのだろう。現在旧館で研究中だからそのうち何かわかると思っている。
そうそう。父さん母さんは福岡というか博多のマンションでふたりで住んでいるのだが、月に一度俺が迎えに行き、翌日送り返している。
あと、父さんが東京に出張する時も俺が迎えに行っている。
学校がある日でも夕方なら空いているし、往復30秒もかからないのでなんの負担にもならない。
移動時間は出張予定に当然組み込まれているので父さんはうちでゆっくりできると言って喜んでいる。
まあ、俺の周囲はそんなところ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
今現在俺とフィオナがいるのは最下層の館地下にあるコアルームで、目の前の台の上にタマちゃんが浮かんでいる。
「タマちゃん、できそうかい?」
「はい。問題ありません」
俺のすぐ足元の床に金色のスライムが現れた。
「お前の正式な名まえはタマちゃんジュニアだ。これからはジュニアと呼ぶからな」
俺がジュニアにそう言うと、ジュニアは金色の体を震わせた。
最終話までお読みいただきありがとうございます。
いちおうこれで完結ですが、次話以降付録が6話+人物紹介が続きます。
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終了までの投稿予定:
第327話 付録1、ミアとアキナ
第328話 付録2、転移板
第329話 付録3、転移板2
第330話 付録4、サイタマダンジョン
第331話 付録5、転移板3
第332話 付録6、ベルダドニア屋敷。サイタマの☆
第333話 人物紹介(ネタバレ含む)と宣伝
『素人童貞転生』https://ncode.syosetu.com/n7886jw/ よろしくお願いします。
 




