第325話 サイタマダンジョンエピローグ1
洗面所で顔を洗って気を引き締めた俺は、2階の自室に戻ってしゃべれるようになったフィオナを鑑定することにした。
「フィオナ。おそらく進化してると思うから鑑定してもいいかい?」
「いいよー」
鑑定指輪を俺のアイテムボックスから取り出した。アイテムボックスの使い方も少しの練習だけで慣れたようでスムーズに取り出せた。
その鑑定指輪を左手の中指にはめて、右手の平の上にのっかったフィオナを鑑定し、声に出してフィオナにも教えてやった。
「名まえ:フィオナ
種族:エンプレス・フェアリー
種族特性:フェアリーの最終進化種。プレイン・フェアリーと比べ、圧倒的に敏捷。超高速で移動可能。魔法耐性は圧倒的。物理耐性も非常に高い上に一般的な物理攻撃は命中しない。
特殊:妖精の鱗粉を振り撒くことで、対象を各種の状態異常にさせる。対象を眠らせた場合、自由に操ることができる。
自分の認めた人物の近くにいた場合、その人物の魔法能力、魔法耐性を著しく上げることができる。
妖精の加護を与えることができる。
次の進化先:なし」
「思った通り進化していた。
それはそうと、フィオナ。妖精の加護ってなんだ?」
「うーん。分かんない。鑑定すれば分かるかもしれないよ」
物じゃないから頭の中で『妖精の加護』と念じて鑑定を意識したらちゃんと鑑定できてしまった。
鑑定結果も声に出してフィオナにも教えてやった。
「妖精の加護:保有者の魔法能力、魔法耐性を向上させる」
フィオナが近くに居なくても魔法能力関係が強化されるってことか。
「そうなんだ。今までそんなことできるって知らなかったけど、できるんならイチローに加護をあげるね。やり方わからないけれど適当に念じたらいいはず。
……。これでいいと思う。
イチロー、加護がついているかどうか自分を鑑定してみてよ」
えっ! 俺を鑑定するの? ちょっと怖いんだけど。
いつかは通らなければならない道なので俺は自分自身を恐る恐る鑑定した。これについては口には出さなかった。
『名まえ:イチロー・ハセガワ
種族:ヒューマン☆
種族特性:ヒューマンの最終進化種。全ての能力が圧倒的。物理耐性、魔法耐性、ともに圧倒的。
次の進化先:なし
称号:フィギュア男、人外、ドラゴンスレイヤー、原初の迷宮の主人。
その他:妖精の加護』
「妖精の加護は付いてた」
「よかった」
フィオナの加護のほかに『原初の迷宮の主人』という称号が付いていた。
俺があのダンジョンのダンジョンマスターということから考えると、あのダンジョンの本当の名まえは『原初の迷宮』なのだろう。
ダンジョンコアが老衰死一歩手前だったわけだからものすごく古いダンジョンだと思ってはいたが、原初ということは、ダンジョン界というものがあるとして、ダンジョン界における最初のダンジョンだったのかもしれない。シュレア側のダンジョンとこちら側のダンジョンはなぜか中身がかなり似ているから、シュレア側のダンジョンはこちら側のダンジョンの子孫と考えて間違いないだろう。
それはそうと、前回鑑定した時、俺にはヒューマンの後ろに+が付いていたんだが、+の代わりに☆が付いていた。付いちゃったものはどうしようもないけど、ヒューマンの枠から外れているわけではないのでセーフだろう。進化先がないというところは安心材料だ。
ダンジョンコアと同化するためエンシャントドラゴンの核を吸収して内側から輝いたタマちゃんも進化したはずだったが、今それを言っても無意味だった。
この日、父さんの帰宅は早かったので家族3人とフィオナで夕食を摂った。
タマちゃんが帰ってこなくなったことで父さんも寂しそうな顔をしていたが、フィオナが話せるようになったことは喜んでいた。
こうして高校2年の夏休みが終わった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
2学期が始まり、父さんは福岡に転勤し、母さんも父さんについて福岡での生活を始めた。
高校がある日には、制服を着てシュレア屋敷で朝食を摂った俺は、最初のうちはコンビニ弁当などで昼食を済ませていたのだが、ある時からヴァイスが弁当を作ってくれるようになった。
俺が頼んだわけではなかったのだが、どうもフィオナがヴァイスに頼んでくれたようだ。
フィオナもタマちゃんがいなくなった分いろいろ俺のことを気遣ってくれるようになった。
サンキュー、フィオナ。
そのおかげで他の連中がうらやむような弁当を毎日持参するようになってしまった。
夕方になったら俺はシュレア屋敷に跳んで弁当箱を返して夕食をミアたちと摂っている。
学校の授業はいつも通りだったが、行事は運動会、文化祭、修学旅行と目白押しだった。
9月早々の運動会では予想通り準備委員となった俺は、運動会の競技には不参加だった。
そして10月。わがクラスの文化祭の出し物は野外でのたこ焼き屋だった。
俺も野外テントの下でたこ焼きを作ったのだが、2日間あいにくの雨で野外ではほとんど売れず、教室の前に臨時販売所を設けて販売した。
材料を余らすわけにはいかなかったので全部たこ焼きにしたら相当数のたこ焼きが余ってしまった。
余ったたこ焼きはクラスのみんなで最低でもひとり1人前買うことにして、それでも残ったたこ焼きは俺が買い取ってみんなに配り、クラス全員で全部食べてしまった。その結果それなりの利益が出た。黒字分は来年の文化祭の予算に繰り越されるという話だった。
11月には修学旅行があった。旅行先は京都で、3泊4日だった。
東京駅の団体集合場所に各自で集合してそこからみんな揃って駅に入り、新幹線で京都に移動した。
京都駅からは観光バスで移動。市内での自由行動時はグループ行動だったので俺は鶴田たちと市内を巡った。
京都のいろんな場所を俺の転移スポットにできたので好きな時に京都に跳んでいけるようになった。
父さん母さんは福岡なので、修学旅行の間フィオナはフェアリーランドに里帰りさせていたのだが、修学旅行が終わってうちに帰ったらフィオナが迎えてくれた。
「フィオナどうして?」
「フェアに転移を教わった」
「ほう。それはよかったじゃないか。今度お礼に何か持っていかないといけないな」
「うん」
果物類はアイテムボックスにそれなりの量入れていたので、追加としてスーパーに行ってハチミツを見てみた。スーパーでもハチミツの値段はピンキリで、いちおうピンのハチミツを10瓶買っておいた。
次の休みにフィオナとフェアリーランドに行ってお土産を渡すというか、果物はその場で小さく切って大皿に盛ってやり、ハチミツも大皿を5枚出してふた瓶ずつ蓋を外して皿の上に横に向けて置いてやった。
そしたら、妖精たちがわらわらと湧いて出てきた。
なんだか、フェアリーランドにいる妖精の数が増えたような気がしないでもない。