第32話 ダンジョン高校。新しい武器。
月が替わって8月になった。
ここまでで累計買い取り額3884万2千円。
俺は買い取り所で核を買い取ってもらったあと、武器の預かり所に回ってメイスとナイフを預け本棟を出た。
普段の俺ならそのまま家路を急いだのだろうが、左足がカックンカックンでは嫌でも新しい靴が必要だと思いだす。
俺はダンジョンワーカーに立ち寄って靴を見繕った。
少々重くても気にならないので、丈夫そうな安全靴をチョイスした。
色は前のものが黒だったけれど今回は濃い目のグレー。
黒い靴だとホコリが白く目立つんだよなー。
値段はちょっとだけお高めだったが、大したことはない。
何せ俺はダンジョン成金だものな。
冒険者証で購入した安全靴をはき、古い方の靴は引き取って処分して貰った。
「ただいまー」
『おかえりなさい。
一郎、お風呂に入りたいなら悪いけど自分で用意して』
「はーい」
俺は2階に上がって荷物を置いて着替えを済ませた。
タマちゃんは何も言わなくても自分でリュックから出て自分の家に入っていった。
そこでタマちゃんは四角く広がった。
どうもこの体勢がタマちゃんのまったり姿勢らしい。
俺はリュックからコンビニ袋に入ったゴミを持って1階に下りて燃えるゴミ用のゴミ箱に入れ、それから風呂掃除をしてそのまま湯を入れた。
2階の自室に戻った俺はベッドに横になってボーっとしながら風呂が沸くのを待った。
20分ほどで『お風呂が沸きました』と給湯器が知らせてくれたので、着替えを持って1階に下りていき風呂に入った。
湯舟に肩まで浸かり『ふー、生き返る』といつものように言ってみた。
これ言うと、疲れていなくても、なんだか幸せを感じるんだよねー。
風呂から上がってパジャマ兼用の部屋着を着て夕食を母さんと2人で食べ、テレビを見ることもなく俺は2階の自室に戻った。
特にやることもなかった俺は、あまり長いこと勉強から遠ざかっているのもマズいと思い久しぶりに高校の教科書を開いて復習した。
意外と覚えているもので、自信が付いた。
翌日。
俺が出勤準備を始めたらタマちゃんは自分からリュックの中に入っていった。
天スラだけのことはある。
父さんは昨夜帰宅がかなり遅かったので俺がダンジョンに出勤する時にはまだ寝ていた。
企業戦士は大変だ。
俺は大学に入るつもりだが、大学を出たらやっぱり専業冒険者になった方がいいような。
「いってきまーす」
『行ってらっしゃい』
夏の日差しは朝8時だろうとそれなりに強いけど、汗もかくことなく8時半ごろサイタマダンジョンに到着した。
先に売店に立ち寄り、おむすびセット3つとお茶のペットボトル2本を買っておいた。
売店の奥の改札から本館に入った俺はエスカレーターで2階の武器の預かり所にいき、メイスとナイフを受け取りその場でベルトに装備した。
預かり所から出てリュックから取り出したヘルメットを被り準備完了。
手袋は改札を通る時免許証をタッチしなければいけないのでリュックに入れたままだ。
タマちゃんはちゃんとリュックの中でおとなしくしている。
エスカレーターを下りて渦の前の改札口にいったら、その上の電光掲示板に『本日は1階層から2階層への階段前の改札は閉鎖されています』と赤い文字が流れていた。
昨日の余波なんだろうな。
下りていく階段が閉鎖されている以上1階層での虫とスライム狩になるがどうしようか?
あまり面白くないしなー。
などと改札前で思案していたら、本棟の出入り口から揃いの防具を着た冒険者の一団が2列縦隊で俺の方にというかおそらく改札に向かってきた。
俺は彼らの邪魔にならないよう少しだけ後ろの方にズレてその一団が通り過ぎるのを待った。
その一団は高校1年生には見えなかったが大学生にも見えなかった。
17、8歳というところか。
あっ! 思い出した。
武器はまちまちだが防具はみんな同じ防具だし、こいつらダンジョン高校の連中じゃないか?
きっとそうだ。
そう思って一団が通り過ぎるのを見ていたら、近くで俺のようにその一団を見ていた数人の冒険者が、彼らのことを話していた。
「東京ダンジョン高校の連中が3階層を掃除するって話は本当だったんだな」
「3年生120名らしい」
「ダンジョン高校を卒業したら即Cランクって甘いんじゃないかと思ってたが、それなりに迫力あったな」
「なみの冒険者とは雰囲気違うよね」
「サイタマダンジョンにもあそこの卒業生がそれなりの数いるけど、現役ダンジョン高生の方が防具も揃って迫力あるんじゃないか」
「だな」
サイタマダンジョンに一番近いダンジョン高校は府中にある第1ダンジョン高等学校、通称1高ないし東京ダンジョン高校だ。
高校進学前に少し調べたところ、生徒数の定員は各学年200人で3学年合計だと600人だが毎年自主退学者が相当数発生するため、生徒数は500人ほどとか。
それなりに厳しい学校のようだ。
通り過ぎていった一団の男女比は男2に対して女1の割合。
みんなヘルメットをしていたので髪型は分からないが、俺の想像だと男はみんなスポーツ刈りで、女はベリーショート。
これしかない!
そんなことはどうでもいいが、ヘルメットからのぞく彼らの顔つきは一言で言うと凛々しい。
しかし、夏休みもなく集団行動というのはちょっと厳しすぎるような気もしないではない。
俺が以前調べた内容では夏休みがないとは書いていなかったはずだが、逆にいえば夏休みがあるとも書いていなかったような。
ダンジョンが好きで入った学校なのだろうから、夏休みにダンジョンに潜るのはいくら集団行動であろうと本望だろう。本望だよな?
今の一団に引率の先生はいなかった。
その辺も含めた集団行動なのかもしれない。
ダンジョン高校なかなかやるな。
彼らは渦の中に消えていったのだが、俺はこれからどうしようか?
来週になれば秋ヶ瀬ウォリアーズの3人と1階層に潜るわけだから、今さら1階層に潜りたいわけでもない。
俺のナイフに不満はないが、メイスはちょっと軽いし何より俺の全力に耐えるとは思えないんだよな。
予算の関係で2万円のメイスを買ったけど、もう少し丈夫そうなメイスに代えてみるか。
よし、そうしよ。
俺はまたエスカレーターで2階に上がって武器屋を物色してみることにした。
前回武器屋で買い物した時は最初から高級品には目がいかなかったが今回は違う。何もメイスにこだわる必要もない。
とは言え俺が最も扱いなれている大剣はさすがに目立つし、坑道ダンジョン内だと扱いづらいのも確かだ。
それでも大剣の並べてあるコーナーに行ってどういった品物があるのか確かめてみた。
価格水準は40万円。
高いもので100万程度。
現代の冶金工学を駆使した超合金製だろうから値段に見合って性能もそこそこなのだろう。
でもねー、大剣の場合どうしても俺の聖剣エノラグラート、魔剣ネグザルと比べてしまって貧相に見えるんだよな。
やはり大剣はやめておこう。
次に回ったのは槍のコーナー。
大剣と同じで坑道ダンジョン内だと取り回しがきつい。
俺に限ったことではあるが、槍を使うくらいなら大剣の方がいいに決まっている。
そして飛び道具コーナー。
短弓、長弓、クロスボウ、ピストルクロスボウと数が揃っている。
ゲームのように矢が無尽蔵なら飛び道具もいいが、俺みたいなシングルプレイヤーの主力武器にはならないな。
結局メイスも売ってる打撃武器のコーナーにやってきた。
棍棒、杖、片手メイスに両手メイス、片手ハンマーに両手ハンマー。
商品の種類とすればそんなところ。
メイスに比べハンマーの方が打撃力は高いがメイスは方向性がないのでどの方向に振り回しても同じ破壊力だ.
それに比べハンマーはハンマーヘッドの向きがあるので、扱いがやや難しくなる。
破壊力云々も、扱いの難しさもどちらも俺にとってはほとんど関係ないのだが。
見た目はハンマーの方がカッコいいのは確かだ。
そう考えるとハンマー一択なのだがハンマーって凶戦士っぽいんだよな。
知的な俺には似合わないというか。
悩む。
それで結局選んだのはメイスだった。
今までのメイスと比べるとすこしだけ大きく、右手で持つとちょうどいい重さだった。
色はもちろん黒。
新しいメイスの値段は6万円だった。
武器屋では武器の買い取りもしており、売却した場合は冒険者証に紐づけされたその武器のIDは解除される。
ちなみにダンジョン内で武器を紛失した場合は武器預かり所に置かれた理由書に必要事項を記入して届け出なければならない。
今腰に下げているメイスを売っても良かったがどうせ大した金額にならないだろうから、今までのメイスは左手に持ってメイスの2刀流でいくことにした。
気持ちの上では『薙ぎ払ってやる!』だ。
メイスの2刀流はなかり斬新なアプローチではなかろうか。
斬新すぎるきらいはあるが、俺の戦いは基本的に人のいないところでしか披露しないわけなので問題なし!
3階層に出てくるモンスターなどたかが知れているので何でもいいと言えば何でもいい。
それでも手数が増えれば今まで5秒だった戦闘時間が2.5秒から3秒になる。
冷静になって考えてみるとあんまり意味はなかったかもしれない。
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