第318話 荷下ろしと金の延べ棒拾い
河村さんとそういった話を車中でしていたら、車はどこかの守衛室付きの門の前で停まった。
運転手さんがいったん車を降りて守衛室に何かを告げてすぐに車に戻ってきた。
俺たちの乗った自動車は敷地の中に入っていき、しばらく進んでふたりの守衛と会社の人らしいふたりの男性が立った建物の前で停まった。
ここが目的地のようだ。
建物はがっしりしたコンクリート製の建物で正面には重そうなシャッターが下がっていた。
「到着しました」
運転手さんが車のドアを開けてくれたのでリュックを持って車から降りた。
「□▽金属工業さいたま工場の工場長の山本です」
「同じく副工場長の石井です」
「特殊空洞管理庁特殊空洞管理局企画課の河村です」と言いながらお互いに名刺のやり取りをしていた。
俺も名乗った方がいいのだろうか? 名乗る必要ないようなあるような。
と、思っていたら河村さんが俺のことをふたりに紹介してくれた。
「こちらが、全国でただひとりのSSSランク冒険者の長谷川さんです」
「長谷川です」
名まえだけひとこと言って軽く頭を下げておいた。
「なにぶん長谷川さんは未成年ですので、長谷川さんのことは口外無用ということでお願いします」
「心得ております」
「あとですね、これから常識外のことが起こるかもしれませんがそれも口外無用でお願いします」
「は、はい。それではシャッターを開けます」
工場長がそう言って副工場長にうなずいたところ、副工場長がシャッターの脇にあった装置にカギを差し込みボタンを何回か押したらシャッターがゆっくり上がり始めた。
建物の中の床にはフォークリフトで物を運ぶための木製の平べったい台が床に敷いてあった。
「その木でできた平たい台のことをパレットと呼んでいますが、それ1枚に1トン載せられます。本日は16.6トンということでしたので17枚並べています」と副工場長。
「分かりました」
俺は床に置いたリュックに向かって小声で『パレットひとつに50個の金の延べ棒を積んで、最後のパレットに残りの30個を積んじゃって』と言ったら、タマちゃんは声を出すことなくリュックの中で震えた。
それから2秒後には金色の残像を残して金の延べ棒50個の山が16個と30個の山が1個パレットの上にでき上った。
河村さんも含めた3人の息を飲む声が聞こえた。
「荷下ろしできました」
俺がそう言ったらまず河村さんが再起動した。
「作業は終わりましたので、後はよろしくお願いします」
「は、はい」
「それではわたしたちはこれで失礼します」
河村さんが軽く頭を下げたので俺も軽く頭を下げ、河村さんに続いて車に戻った。
俺たちが乗り込むと車は工場長たちが見守る中すぐに発車して、敷地を抜けて門を出、通りに出た。
動いているものの中から転移で移動してしまうと運動量だとか運動エネルギーを持ちこしてしまうような気もするし、座った姿勢で転移したらその姿勢のまま転移先に現れて後ろに転げてしまいそうなので俺はおとなしく車に乗っていた。
「長谷川さんはダンジョンセンターに戻られますか?」
「適当なところで降ろしてもらえればそれで十分です。というかその方が早いので、適当なところで車を停めてもらえますか?」
「分かりました。
それじゃあ、木村さん、適当なところで停めてください」
「はい」
すぐに車は左に寄って歩道にピッタリ沿って停車した。
運転手さんが降りてドアを開けてくれたので、河村さんに礼を言って俺は歩道に上がった。
河村さんを乗せた車が走り去っていくのを見送った俺は、専用個室に転移してロッカーからクロちゃんを取り出して装備し、一連の魔法を発現させた。
今日買い取ってもらったので、金の延べ棒集めにやる気が出てきたからだ。
冒険者証をカードリーダーにかざして、昨日最後に立っていた29階層の通路の上に転移した。
そこから昼までで金の延べ棒を230本手に入れた。依然として通路の先は見えない。
昼食をミアたちと食べ、1時まで休憩してから、午前中最後に立っていた通路に転移した。
そこから5時半まで金の延べ棒を拾い歩いて350本の金の延べ棒を手に入れた。
今日1日で580本、11.6トンの水揚げがあった。1グラム1万円とした単純計算で1160億円。
専用個室でクロちゃんをロッカーに戻してうちに帰った俺は、河村さんに11.6トン金の延べ棒を手に入れたと連絡しようと思ったが、明日は父さん母さんを博多に送らなければいけないので、メールしないでおいた。
翌日。
シュレア屋敷には行かず、うちで父さん母さんと朝食を摂った。
9時に出発したいということだったので、それまで2階の俺の部屋で待機していた。
時間になったので1階に下りていったら、父さん母さんも余所行きを着て玄関前の廊下に立っていた。
「戸締りはいい?」
「大丈夫」
「玄関の内側から転移するから靴を履いて荷物を持って」
俺も玄関に降りて靴を履いてふたりに手を取ってもらい博多駅の改札につながる通路に転移した。人はいたがうちの家族が現れたことを気に留めた人はいないようだった。
「しかし、便利を通り越して驚異だな」と、父さん。
母さんは父さんの言葉にうなずいていた。
「迎えはどうする? 夕方5時ごろここに迎えにこようか? それともこっちで一泊する?」
「ホテルを取ってないけど飛び込みでホテルを取ろうと思うから迎えに来なくていい」
「分かった。もしホテルが取れなかったらメールしてくれる? ダンジョンから上がるのは17時くらいのつもりだから17時まではメールを見られないから迎えに行くのはそれ以降になるよ」
「分かった。泊まるにせよ、迎えに来てもらうにせよメールは入れるから」
「うん。迎えに来るときはこの場所にくるから近くにいてくれる?」
「分かった」
「それじゃあ」
俺は父さん母さんを残して玄関に転移し、2階に上がって待機中のタマちゃんにリュックに入ってもらった。それからフィオナを肩に乗せて玄関に下り、安全靴を履いてセンターの専用個室に転移した。
そこでクロちゃんを装備してカードリーダーに冒険者証をかざして昨日の続きの黄金街道に転移した。
よーし、今日も頑張っていくぞー。
……。
昼までにちょうど200本の金の延べ棒を拾い集めることができた。相変わらず通路の先は見えない。
「「いただきます」」
今日のミアたちとの昼食時の話題はまたコミックだった。ミアたちの会話に「殺し屋」「暴力団」「ぜったい殺さない」「マグロ」「クジラ」などと物騒なのか何なのかよくわからない言葉が出てきたのだが、俺がまだ読んでいないコミックだったようで全然ついていけなかった。
俺もミアたちが買ってほしいといったコミックは無条件で買い与えているのだが、大人向けのコミックを買ってしまったのかもしれない。
1時まで休憩して午後から金の延べ棒拾いを再開した。
5時少し前まで4時間弱で290本の金の延べ棒を手に入れた。午前と合わせて490本。昨日までの580本と合わせて1070本、21.4トンとなった。
専用個室に転移したら、父さんからメールが届いていて、ホテルが取れたから今日は迎えに来なくていいとのことだった。明日の迎えは例の場所に午後5時に頼む。と、あったので『了解』と返信しておいた。
父さんのメールのほかにサイタマダンジョンセンターからメールが届いていた。
メールの内容は、
『先日の救護に対するダンジョン庁長官からの感謝状と記念品を贈呈したいので、月曜日9時にサイタマダンジョンセンターの管理棟にお越しください。都合が悪いようなら都合の良い日時をお知らせください』というものだった。
もちろん都合など悪くないので『了解しました』と、返信しておいた。
それから、うちの玄関の中に転移した俺は安全靴を脱いで2階の自室に戻った。
俺が着替えている間、タマちゃんは床に置いたリュックから這い出して段ボールの中に入って四角く伸びて、フィオナは自分のふかふかベッドで横になった。
机の椅子に座ってスマホで確認したところ、俺の累計買い取り額は1950億5000万円増え3093億5926万円となっていた。
16.6トンで逆算すると金1グラム当たり1万1750円だった。後で河村さんに教えてもらったのだが、金の移送にはそれなりのコストがかかるところ俺が工場まで運んだことでその分買い取り価格が上がったのだそうだ。
今回のコミックのヒントは「寓話」です。




