第315話 突破者。SSSランク冒険者
その日の夕方、河村さんからメールがあった。
メールにはまず、金の延べ棒の買い取りについて。
『買い取り数量については制限ないことを確認しました。
しかし3トンの重さが1カ所に集まってしまうとダンジョンセンターの床が抜ける恐れがあるそうで、1トンまでなら問題ないだろうという話でした』
1トンということは50本か。もう少し一度に引き取ってもらいたいがこれだけで100億円だものな。延べ棒を4個、3個、2個、1個の順に詰んだ山を5個作っておけばいいか。
そういえば『治癒の水』は100リットル=100キロで10億円だったから単価は金の延べ棒と同じだ。
あれって、池一杯あるわけだから100トンとか200トンってレベルじゃないよな。ある意味スゴイ。そのかわり、『治癒の水』は青天井で買い取ってもらえるわけじゃないから、やはり金は偉大だということなのか?
『金の品位の測定に時間がかかるかと思っていましたが測定自身は簡単に終わるようです。
ただセンターには測定装置がないため外部で測定することになるので、夕方持ち込まれた場合、価格の決定と口座への支払いは、翌日の夕方になるようです』
それは仕方ない。
次に魔法盤の買い取り総額と累計買い取り額が書かれていた。
買い取り総額332億9800万円。
累計買い取り額は694億1126万円+332億9800万円=1027億0926万円とのことだった。
1000億円突破してしまった! 遅かれ早かれ突破すると思っていたがとうとう突破者になってしまった。(注1)
河村さんからのメールの最後に、
『長谷川さんの累計買い取り額が1000億円超えましたので、SSSランクに昇格出来ます。おめでとうございます。
SSSランクへの昇格手続きは明日の9時以降サイタマダンジョンセンターで行なってください』と、書かれていた。
明日になれば俺はSSSランク冒険者だ。俺の新しいカードを見た連中に今度は何て言われるか。カードとストラップ、黒のマーカーで塗るヤツいないだろ! 一択だな。
そして翌日。
シュレア屋敷で朝食をミアたちと摂った。
免許センターの開く9時10分前まで居間でいつものように時間調整し、昼食はここで食べると居間の掃除をしていた電気作業員Aにヴァイスに伝言してくれるように頼んで免許センターの近くに転移した。
前回の昇格時、嫌な思い出があるので、俺は免許を取りに来た連中の列の最後尾に並んで、センターが開くのを待った。夏休みも後半に入っているせいか、列は短かった。
いつも通り9時5分前に免許センターのシャッターが上がり、9時ちょうどに自動ドアが開いた。
免許を取りに来た連中に続いて建物の中に入り、俺だけ昇格手続き窓口に向かって急ぐことなく歩いていった。
「お願いしまーす」
「長谷川さん。SSSランク昇格おめでとうございます」
SSランク冒険者証とカードケース、そしてネックストラップを返し、顔写真を撮って今回も5分ほどで新しい冒険者証一式を手に入れた。
SSSランクの冒険者証はこれまで通り黒いラインが入っているだけかと思っていたのだが、カード自体が真っ黒で、文字が白だった。ネックストラップは黒だが、黒光りしていた。
「以前見たダンジョン管理庁のホームページだとSSSランクの冒険者証は黒のライン入りだったと思ったんですが?」
「はい。こちらの全面ブラックに意匠を変更したようです。なんでもこちらの方が特別な存在感が出るからという理由だそうです」
確かに新しい冒険者証はカッコいいといえばカッコいい。
しかし、特別な存在感って、これまで以上に目立つってことじゃないのか? 仕方ないけど。
俺は新しい冒険者証を首にかけ、防刃ジャケットの中に突っ込んでおいた。
これから何をしようか? 朝の段階で冒険者証を切り替えることしか考えていなかったので困ったことになった。
シュレア側29階層の続きとなると金の延べ棒を拾い集めるだけのただの作業だけど、金の延べ棒はあって悪い物じゃないから昼まで集めてみるか。
あそこなら武器は不要に思えるが、念のためクロちゃんだけ装備しておけばいいだろう。
ということで、俺は免許センターを出て適当なところで専用個室に転移した。
リュックを床に置いてロッカーからクロちゃんを取り出して背中のホルダーに装備し、カードリーダーに新しい冒険者証をタッチした。
カードエラーは起こらなかったので、新しい冒険者証でも店での精算でエラーは出ないだろう。もし店でエラーが出てしまうとすごくややこしいことになりそうだからちょっと不安だったんだよな。
ヘルメットを被り手袋をはめ、リュックを背負ってから魔法3点セットを発動して準備完了。
俺は昨日の最後に立っていた29階層の廊下の上に転移した。
……。
昼食時間までの2時間半余りで190本の金の延べ棒を集めてしまった。
これで金の延べ棒の数は380本+今日の190本で570本=11.4トンとなった。
1グラム1万円とすると1トンの金だと100億円になるので1140億円ということになる。
依然として一本道の通路の先は見えていない。26階層の正方形の部屋もスケルトンが出るとは言え延々と続いて単調だったが、こっちはもっと簡素化されてしまった。
なにかの神の見えざる手を感じるのだが気のせいだろうか?
シュレア屋敷の玄関ホールに転移してクロちゃんはタマちゃんに預かってもらい昼食をミアたちと摂った。
だいぶコミックについても学んでいるのでミアたちの話についていけるようになっている。
話しているとアキナちゃんもだいぶ日本語が分かるようになってきていることが分かる。ミア同様頭のいい子のようだ。
午後からミアたちのスケジュールを聞いたら、3時まで円盤鑑賞であとは庭に出て軽い運動をするということだった。
アキナちゃんの服装はいつもお出かけ仕様だし、ミアたちの服装もそれなりなので昼からは予定を変更して俺の隣町の本屋に行くことにした。
新しいコミックを仕入れたいし、そろそろ小学校高学年用の本も用意しても良さそうだ。
「午後からはみんなで俺の街の近くの本屋に行って本を買おう」
「わーい」ミアが喜び、カリンとレンカはうれしそうな顔をした。
アキナちゃんはよく分かっていないようだったが、ミアがこっちの言葉でアキナちゃんに説明したらアキナちゃんもうれしそうな顔をした。
今回はソフィアを連れて行った方がいいな。ソフィアに勉強がらみの本や、ミアたちにあった読み物を探させればいいだろう。
それに俺が4人の女児を連れ歩いていたらかなり目立つが、ソフィアがいればそういった意味で悪目立ちすることもないだろう。
「ソフィアにも一緒に行くと伝えておいてくれ」
「はい」
「俺は居間にいるから、準備ができたら居間に集合」
「「はい!」」
デザートを食べ終え、ミアたちは2階に戻って俺たちは居間に移動した。
ちなみに今日の昼食はカツ丼と豆腐の味噌汁とタクアンでちゃんとカツ丼には紅ショウガまでついていた。ミアたちのどんぶりは俺の3分の2くらいだったがどんぶりの形もちゃんとどんぶりだった。もう驚かないと思っていたのだが、やはり驚いた。
デザートは寒天が入ってあんこものっかったミツマメで黒蜜もかかっていた。もう驚かないからな。
フィオナには黒蜜の入った小皿が置かれた。
フィオナはなんでも甘ければ大好きなようで「ふぃふぉふぃふぉ」言いながら食べていた。
注1:突破者
宮崎学さんの自伝小説。面白かったですよ。




