第314話 26階層魔法盤売却。ダンジョン管理庁管理局企画課7
館とシュレア屋敷に米を届け終わった俺は、少し早かったがうちに帰った。
自室で着替えていたらダンジョン庁の河村さんからメールが入った。内容は自衛隊で新たに手に入れた魔法封入板の鑑定をしてもらいたいということと、もし俺が魔法封入板を持っているようなら買い取りたいというものだった。
「タマちゃん。26階層で手に入れた魔法封入板は何枚くらいある? 罠を解除する魔法、宝箱を開ける魔法、罠を見つける魔法は売れないから除外で」
「それだと460枚あります」
「そんなにあったか」
「はい」
以前は金の指輪について黙っていたのだが今さらなのでそのことも伝えておくことにした。
『自衛隊なら25階層のゲートキーパーを撃破しているはずでその時金の指輪を宝箱から見つけたと思います。その指輪をはめて魔法封入板を手に持ってみれば封入された魔法の種類が分かります。あと、わたしが持っている魔法封入板は罠を解除する魔法、宝箱を開ける魔法、罠を見つける魔法以外で460枚あります』と、返信しておいた。
『自衛隊には指輪の件について連絡します。貴重な情報ありがとうございます。魔法封入板の買い取りは長谷川さんの都合のいい時を教えてください』と、直ぐに河村さんからメールが返ってきた。
『それでは明日の朝8時半に専用個室に持っていきます』と返しておいたら『それでお願いします』と返事が戻ってきた。
そのあとスマホを見ていたついでだったので金の値段を調べたところ1グラム1万5千円だった。思っていた以上に高い。そこから2割の税金を引かれたとしても、1グラム当たり1万2000円になる。
100キロの金だと、10万グラムだから、……。12億円!
1トンの金だと120億円。3トンで360億円。
うっひょー!
こんなのダンジョンセンターで買い取ってくれるんだろうか? それだけが心配だ。
今でさえ億万長者なのだが、ミリオネアからビリオネアにランクアップしてしまう。
今でも働く必要ないんだけど。どうなってしまうのだろう?
いやいや、ミアが見ている前でプータローよろしくコミックばかり読んでプラプラできないからこれからも真面目に働くぞ!
ちなみに脱衣所の体重計で金の延べ棒の重さを計ったらちょうど20キロだった。さすがはプラス付人間。計量機能まで付いていた。
一度自分自身を鑑定しただけであれ以来鑑定していないが、自分自身の鑑定は今まで通り封印しておこう。
実質ビリオネアになった翌日。
いつも通り防具に身を固めた俺はシュレア屋敷に転移して、タマちゃんフィオナともども朝食を摂った。
昨日お米を補充した関係か、今日の朝食は和風だった。
「「いただきます」」
干物の焼き魚。魚の種類はおそらくアジだと思う。それに厚焼き玉子。切り干し大根のお浸し。冷や奴。白菜の漬物になめこの味噌汁。そして熱々ホカホカのご飯。もう俺は何も驚かない。
「「ごちそうさま」」
朝食の後は水ようかんが出てきた。俺は全然驚かなかったぞ。
朝食後。ミアたちは勉強のため2階に上がり、俺は居間でコミックを読んで時間をつぶし河村さんとの約束の8時半の5分前にダンジョンセンターの専用個室に転移した。
専用個室には河村さんが待っていてくれた。すでに価格も決まっている魔法封入板なのだからその買い取りはセンターの人の仕事なのだろうが、俺担当の河村さんがわざわざ対応してくれる。ということは何かあるのかもしれない。地震とかいろいろあったし、最近会ってもいなかったし。
「おはようございます」
「おはようございます。さっそくですがこちらにどうぞ」
河村さんに案内されて事務所側の扉を抜けて中に入っていき前回と同じ部屋に通された。
その中のテーブルの上には既に小型の段ボール箱が並べられて、段ボール箱に魔法封入板の種類が書かれたシールが貼られていた。準備は整っていたようだ。
「それじゃあ、さっそく箱に入れちゃいましょう」
河村さんはタマちゃんのことはある程度知っているわけだし、ここでもったいぶった演技をしてもいまさらだ。
「タマちゃん、箱に魔法盤の名まえが書かれたシールが貼られているから、その箱に魔法盤を入れちゃってくれ」
タマちゃんがちゃんと日本語で返事をするかと思ったが、返事することなく偽足が箱の数だけ伸びて、ほぼ2秒後には魔法盤が箱に納まってしまった。
思った以上に簡単かつ高速だった。
「えっと? 魔法封入板がいつの間にか箱の中に入ってる!」
河村さんが目を離したすきだったようだ。
「タマちゃんが分類して入れてくれました」
「気づきませんでした。代金は種類別の枚数を確認し次第、長谷川さんの口座に振り込まれます」
「ありがとうございます。
ちょっとおうかがいしたいことがあるんですが」
「はい、なんでしょう?」
「これなんですが」
俺はそう言ってリュックの中に手を突っ込んでタマちゃんから金の延べ棒を1本渡してもらいテーブルの上に置いた。
20キロの重さがあったが、しっかりしたテーブルだったようでたわむことはなかった。
「金の延べ棒!」
「はい。これダンジョンで見つけたんですが買い取ってもらえるんでしょうか? 1本ちょうど20キロです」
「1グラム1万円としても2億円! うわっー!
っと、失礼しました。もちろん買い取れると思いますが、他の物品と同じで税金などの関係もありますから市場価格より2割強安くなると思います。源泉分離課税ですから結果的にはお得なはずです。
金ですと本格的な品位の測定が必要になりますから、代金の振り込みと累計買い取り額の更新は、おそらく持ち込みから1日から2日後になると思います。買い取り時の金相場と品位によって価格は変動すると思いますがそこはご了承ください」
「専用個室に置いておけば買い取ってもらえると考えていいですか?」
「はい。わたしの方からセンターの担当部署に連絡しておきます」
「これ全部で150個あるので3トンになるんですが、あそこに置いちゃって床は大丈夫でしょうか?」
「わたしにはわかりかねますが、重さもさることながら3トンとなれば300億円。
いろいろ確認しないとお答えできませんので分かり次第ご連絡します」
「よろしくお願いします」
「そうそう。自衛隊から昨日連絡がありまして、25階層で手に入れた金の指輪を研究員がはめて魔法封入板を手にしたところその種類が分かったそうです。確認のため魔法封入板で魔法の取得予定者の隊員に魔法封入板を使用させたところ、研究員の言った通りの魔法が使えたそうです」
「それはよかったです」
「長谷川さんのおかげです」
いちおう仕事は終わったので河村さんとはそこで別れて俺は専用個室に戻った。
専用個室で武器を装備し、念のためレビテートから続く魔法セットを発動してから昨日の続きのシュレア側の29階層に転移した。
26階層では途中からの再開は出来なかったが、今回はうまく昨日最後に立っていた場所に戻れた。転移って不思議なもので、何となく事前に転移可能かどうかわかるんだけど、今回も転移については自信があったし、その通りだった。
昼まで一本道の通路を200メーターおきのごほうび部屋で金の延べ棒5本を手に入れていった。通路はまだまだ続くようで、俺の目をもってしても通路の先は見えなかった。
3時間ちょっとの時間で手に入れた金の延べ棒は230本になってしまった。
今日の230本と昨日の150本、合わせて380本の金の延べ棒。重さにして7.6トン。
1グラム1万円として760億円。
これ以上金の延べ棒を回収してしまうと何かがおかしくなってしまうような気がして、今日も午前中だけでダンジョン探査という名の金の延べ棒拾いを終えることにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ここはダンジョン管理庁管理局小会議室。
河村課員が長谷川一郎から魔法封入板を買い取った件を小林企画課長と山本課長補佐に報告していた。
「魔法封入板の総数460枚。332億9800万円でした」
「前日、例の核が100個持ち込まれて、あれはいくらだったかな?」
「80億ちょうどです」
「昨日と合わせて410億か。とんでもない金額だな」
「それだけ彼が稼いだわけですから」
「もちろんだ」
「これで長谷川さんの累計買い取り額は1027億0926万円になりました」
「とうとう1000億超えたということか。予想よりずいぶん早かったが、長谷川くんだからこういうこともあるだろう。
山本くん、例のブラックカードの準備は出来ているんだよな?」
「はい。サイタマダンジョンセンターに送っています」
「この前の地震騒動で大変だったが、いいニュースだ。来月ホームページで発表することになるわけだが世間は驚くだろうな」
「彼は今17歳だそうですから、17歳で1000億となると世間は驚くでしょう。相続などではなく自分の力で稼いだ1000億ですし」
「妙な連中が彼の周りに現れないよう注意は必要だな」
「はい。メディア関係者には改めて注意しておきます」
「よろしく頼む」




