第310話 福岡へ2
博多行きの新幹線に乗ったら隣に以前センター前の寿司屋で一緒になった大学生冒険者と隣合わせになった。
変わらず多弁な人で結構話しかけられた。駅弁を買い忘れたと言っていたので俺のサンドイッチを渡しておいた。
「飲み物もあるけどコーラでも飲みますか?」
「そんなの悪いよ」
「のどを詰まらせてもマズいから遠慮しないでいいですよ」
そう言って俺はタマちゃんに手渡されたコーラのペットボトルをリュックから取り出して女子大生に渡した。
「ありがとう。遠慮なくいただくね」
隣の女子大生はサンドイッチを食べながら、コーラを飲んだ。
「冷たいし、おいしい」
「それはよかった」
いくら女性とはいえサンドイッチひとつではさすがに少ないだろう。
「サンドイッチひとつじゃ足りないでしょうから、もうひとつどうです?」
俺はリュックの中に手を入れてタマちゃんから手渡されたサンドイッチを取り出した。
今度のサンドイッチは玉子サンドとハムカツサンドの組み合わせだった。
「それは悪いよ」
「ホントにたくさん持ってるから遠慮しないでください」
「それじゃあ、遠慮なくいただきます」
そう言って女子大生はサンドイッチを受け取ってビニールの包装からサンドを取り出して食べ始めた。
「あれ? これってダンジョンセンターで売ってたハムカツサンドそっくり」
10日もセンター閉まってるからそこで買ったって言えないな。
「うちの近くで買ったんですがメーカー一緒みたいですね」
「そうなんだ。第3パンってあんまりメジャーじゃないメーカーだよね」
「埼玉だとそれなりに売れてるんじゃないですか」
「わたし福岡だからあまり詳しくないんだよね。やっぱ地元っていろいろあるよね」
ちょうど右手側に富士山も見えてきた。いいなー。富士山。
真夏なので雪はもちろん見えなかった。
「富士山いいよねー。わたしまだ登ったことないんだけど、きみは登ったことある?」
「僕もないです」
「日本人なら一度は登るべきだよ」
「そうですね」
「ダンジョンで鍛えてるから楽々登れると思うんだけどどうかな?」
「楽々かどうかは分かりませんが、登れることは登れるんじゃないですか」
「だよね。わたしは就職が内定したら卒業するまでに登るんだ」
なんだかそれっぽいフラグのように聞こえるのだが、そのことは触れずに無難に答えておこう。
「それはいいですね」
「でしょ」
しばらくふたりして車窓の富士山を眺めていたがそのうち富士山は見えなくなった。
女子大生が2つ目のサンドイッチを食べ終えてしばらくして浜名湖とウナギか何かの養殖池が見えてきた。
「ウナギいいよねー。こんど1階層でたくさん儲けたらウナギを食べに行くんだ。浦和ってウナギおいしいんでしょ?」
「そうみたいですね」
「浦和って内陸なのに不思議だよね。『浦』ってつくくらいだから海と関係している地名っぽいけれど、さすがに東京湾は浦和まで伸びてなかったよね」
「でしょうね」
「そういえばきみ、これまで1日で儲けた額の最高っていくらくらい? わたしはねー1日で何と15個の核を手に入れて6万円ちょっと。すごいでしょ? その日もお寿司をお腹いっぱい食べたの」
俺が1日で7、80億って言っても信じないだろうしどう言ったものか。
「言いたくなければもちろん言わなくていいんだからね」
「でも、そこそこは儲けてます」
「高校生なら1日1万でも立派なバイトだものね」
「そうですよね」
コロコロ話題が変わるけど、この人すごく明るい人だ。
浜名湖を過ぎてしばらくしてのぞみは名古屋駅に停車した。
客の出入りがあったが、それほど混まなかった。お盆休みは博多方面へのUターンは少ないのか、単に偶然で俺がラッキーなだけなのか。
のぞみは関ケ原を過ぎて京都、新大阪に到着した。東京駅を出発して2時間半。旅程の半分。
大阪駅からはトンネルばかりの山陽新幹線の区間に入った。
相変わらず女子大生のお姉さんは多弁だった。
そして予定到着時刻ピッタリにのぞみは博多駅に到着した。
ふたりそろってのぞみを降りて、他の降車客の流れに沿って新幹線の改札まで歩いていった。
「そういえばきみはどこに行くんだっけ?」
「駅に用事があっただけなんでどこってないんですが、フクオカダンジョンセンターにでも行ってみようかなと」
「そう? よくわからないけれど、フクオカダンジョンセンターまでならバスが出てたはず。
バス停に案内するよ」
「済みません」
「何言ってるの、きみとわたしの仲じゃないか」
女子大生の後について改札を出てそれから少し歩いてバス停に着いた。途中転移するのに良さそうな場所をしっかり覚えておいた。これでいつでも転移で来られる。
「ダンジョンセンターはここから出るバスの終点だから。冒険者証持ってきてるなら冒険者証で乗れるから。後ろから乗ってカードリーダーにタッチして降りる時は運転手さんの横のカードリーダーにタッチして前の出口から」
「ありがとうございます」
「わたしは反対側のバス停だからここでさようなら。それじゃあ」
「どうも」
名まえも聞かなかったが、面倒見のいいひとだった。
バス停で5分ほど待っていたらフクオカダンジョンセンター行きのバスがやってきた。
乗車待ちの列に並んでいた人たちは俺以外みんな私服で、大きなスポーツバッグやリュックを持った冒険者風の乗客は俺しかいなかった。
列に並んでバスに乗り込んだら始発だったらしく、乗客は誰も乗っていなかった。
ネックストラップを引っ張って冒険者証を防刃ジャケットから引っ張りだし、バスのカードリーダーにかざして乗車した。
乗客が順に座席に座っていき、俺は一番後ろの席に座ることができた。
3分ほどバスは停車していたが、座席の3分の1ほど空席のままバスは発車した。
福岡市内を眺めながら移動すること40分。フクオカダンジョンセンターまではけっこうな距離があったようだ。
途中乗客の出入りがあったがドンドン乗客の数が減っていった。
終点のフクオカダンジョンセンターに着いたときバスに乗っていたのは俺ひとり。
そういうこともあるだろうとカードリーダーに冒険者証をかざしてバスを降りた。
俺を降ろしたバスはそのまま本棟前の広場を回って帰っていった。
バスを降りた先のフクオカダンジョンセンターの本棟の見た目はサイタマダンジョンセンターの本棟と差はなかった。
ただ、人気がない。
おっかしいなー。とか思っていたのだが、そこで背中のリュックからタマちゃんの声がした。
「主、ダンジョンセンターは今日まで全国的にお休みだったのでは?」
ダンジョンセンターが休みだから俺もお休みしていたことをすっかり忘れていた。
文字通り、負うた子に浅瀬を教えられてしまった。最近このパターンが多いカモ?
俺がバスを降りてお上りさんよろしくキョロキョロしていたら、俺の後からダンジョンセンターの警備員のおじさんに声をかけられた。
「あんた、こげんところで何しよー?」
「ダンジョンセンター閉まってることすっかり忘れてやってきてしまいました」
「そりゃまた難儀な。センターが開くとは明日ん8時やけん間違えんごと」
「はい。すみませんでした」
「あんた東京ん人かね?」
「東京というか埼玉です」
「いやー、ここでもうわしゃになっとーばってん東京には高校生でSSランクん冒険者がおって、なんでん肩に妖精んフィギュアば付けとーとか。
あんたもそん高校生にあこがれてフィギュア付けとー口かい?」
ちょっと長い話だったが、意味はなんとなく分かった。
「まあ、そんなところです」
「地道が一番ばってん、格好から入るとも一つん方法やけん、いいっちゃないと」
そう言い残してその警備員のおじさんは警備に戻っていった。




