第306話 結婚記念日1
今年の父さん母さんの結婚記念日の準備は、タマちゃんのおかげでプレゼントも決まったし俺の段階では完了した。
安心した俺はシュレア屋敷でコミックを読んで過ごして、夕方うちに帰った。
父さんは遅くなるということで、先に風呂に入ってそれから母さんと夕食を囲んだ。
今日の夕食のメニューは、天婦羅ソーメンだった。ソーメンにはポテトサラダよくついていたが今日はポテトサラダの代わりに玉子豆腐だった。これは久しぶり。
「一郎、ソーメンは何束食べる?」
「3束」
シュレア屋敷でおやつを食べてきていたので今日は3束にした。
フィオナにはいつもの通りハチミツだ。
3分ほどでガラスの器に入ったソーメンが置かれた。
それから3分ちょっとで母さんも自分のソーメンをゆでてガラスの器をテーブルの上に置いて席に着いた。
「「いただきます」」「ふぉふぉふぉーふゅ」
ソーメンおいしい。以前鶴田だったか誰かに聞いた話だが、ソーメンは値段が高ければ高いほどおいしいのだそうだ。うちではどういった麺を使っているのか知らないがかなり高級な麺を使っていると見た。
「一郎。昨日の話よく分からなかったんだけど、一郎っていまSSランクっていう冒険者なの?」
「うん」
「昨日、お父さんに100億がどうのって言ってたけど、どういう意味だったの?」
「冒険者のランクってそれまでにいくらダンジョンの中で稼いだかで決まるんだよ。
最初はみんなAランク。この時は稼いだ金額はゼロ」
「まだ冒険者になったばかりだから当然よね」
「うん。
それで、頑張って1000万円貯めたらBランクに成るんだよ」
「1000万円ってすごい金額じゃない」
「うん。Aランクだとダンジョンに入ってすぐの1階層って場所でしか仕事ができなくってそこに現れるモンスターはあんまりお金にならないからなかなかBランクに上がれないんだけど、俺の場合運がよくって初日にすごく高額のモンスターを仕留めることができたんだよ。そのおかげで1日でBランクに成ったんだ」
「1000万円超えてたってこと?」
「うん」
「うそ!?」
「ウソじゃないから。それでトントン拍子に5000万円まで稼いで、Cランク。1億稼いでDランク。10億稼いでSランク。で、100億稼いで日本でただ一人のSSランクに成ったんだよ」
「100億って100億円よね?」
「うん」
「……。じゃあ、一郎100億円持ってるの?」
「今はそれより多くて600億円以上持ってる」
「600億円って600億円?」
「うん。だから、実際問題働く必要も何もないんだよ」
「一郎って去年の夏に冒険者になってまだ1年よね?」
「うん」
「冒険者って、みんな一郎くらい稼ぐの?」
「さっきも言ったけど、俺が特別みたいで、だからただひとりのSSランクなんだよ」
「母さん、ちょっとめまいがしてきちゃった」
「母さん。実は俺、魔法が使えるんだ。
ヒール。……。
これでどう? 調子戻った?」
「うん。すぐに良くなった。ホントに魔法が使えるんだ。今まで肩もんでもらった時すごく気持ちよくって肩の凝りがなくなったけどアレもそれ?」
「種明かしすればそういうこと」
「ふー。でも一郎は一郎だものね。うん」
「うん」
「そういえば、お父さん。会社での健康診断結果がすごくよかったのって、一郎が何かしたから?」
「直接じゃないんだけど、そこに置いてあるポリタンクのダンジョンから汲んできた水。あれって実はたいていの病気を治す『治癒の水』っていう特別な水なんだ。ダンジョン庁で調べたところガンも治ったそうだよ」
「あらっ! あれでいつもお茶淹れて飲んでたけど、どうしましょ!?」
「お茶飲んでていいんだよ。沸騰させても効果は変わらないみたいだから」
「まさか、ダンジョンからとってきた果物やナスとかトマトも何かあるの?」
「あれも特別な効果があって、基本は元気が出る。果物類はそれに病気を治す効果が付いてたりしてる」
「そうなんだ。
ああっー! そういえば、中村さんが快気祝いを持ってきたって、アレって一郎が何かしたの?」
「あれは結菜からおじさんがガンだって聞いたから『治癒の水』を分けてやったんだ。すぐにガンは消えたらしいよ」
「一郎。母さん驚いてばかりなんだけど、いいことばかりしてたんだ」
「できることはね」
「一郎。ありがとう。
分かった。一郎はひとりで十分やっていけるってよく分かった」
「まあ、そういうことだから、もしうちでお金に困るようなことがあれば言ってくれれば何とでもなるから」
「お父さんも元気に働いているし、経済的に困ることなんてないから気を使わないでいいのよ。それに一郎は父さんと母さんのたったひとりの子どもなんだから」
「うん。分かった。
そういえば、父さんいないから分からないかもしれないけれど、向うで住む場所決まったら一度行ってみたいんだ」
「それは構わないけどどうして?」
「明後日話すよ」
「そういえばどこかに招待してくれるって言ってたのはどこかのレストランを予約したってこと?」
「レストランじゃないんだけど、似たようなものかな。そこで詳しく話すよ」
「ふーん。でもなんであれ、楽しみにしとく」
体がなまってはいけないと思い翌日からの2日間。シュレア側の28階層でモンスター狩をして過ごした。
ダンジョンセンターが閉鎖されているので武器は新館の書斎に置いている鋼鉄のメイスだけなので魔法、魔術とタマちゃんで戦った。
サイタマダンジョンの最下層まで簡単に到達してしまった関係で、こっちのダンジョンまであっけなく最下層に到達してしまうと、ダンジョン攻略がつまらなくなってしまいそうな気がして、今回も28階層の下り階段を探すことはせず文字通りしらみつぶしに練り歩いてやった。
この2日間で200個弱の核とそれ相応のアイテムを手に入れたが、新しいアイテムは見つからなかった。この階層で手に入るアイテムの種類は出尽くしたのかもしれない。
結局今回の核もアインに預けて自由に使うように言っておいた。
高性能自動人形で一大軍団を作れそうだ。作りはしないけど。それでもアインにこの核で戦闘に特化させた自動人形を作ったらどの程度のものができるか聞いたところ、
「戦闘時における判断能力がかなり高いものが作れますが、素材の強度と内部動力系が追い付かなのでそれほど高性能の自動人形は作れません」とのことだった。当然か。
「それでも、シュレアの警備員として作った自動人形4体と互角に戦えます」
おっ。結構優秀じゃないか。
「なお、言語は扱えません」
「命令はどうする?」
「わたしが直接指示する形になります」
なるほど。戦争ともなれば別だがあまり実用的ではないな。




