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第302話 氷川涼子22、雷雨


 ロシア料理っぽい昼食を氷川、タマちゃんと囲んでいる。フィオナは、俺のテーブルの横でハチミツと2種類のジャムを食べ比べている。


「ここの料理は本当においしい」

 俺が作った料理ではないが、こうはっきりとほめられるとうれしいぞ。

「それはそうと、さっきの部屋もここもそうだが、模様替えというか改装したのか? この前と比べて内装が新しくなってるんじゃないか?」

「氷川をここに連れてくるのは初めてだったか」

「初めて?」

「ここはこの前氷川を連れて行ったやかたとは違うやかたで、新しく建てたものなんだ」

「なんと。しかし何でまた?」

「俺の要塞を見たアインが俺にふさわしくないと言って新しく要塞の近くに建てたんだ」

「あー、あの小屋か。100億円プレーヤーの持ち物という意味ではアレではあったな」

 また小屋という。


「うちでは買ってきたピロシキを電子レンジで温める関係で皮がパリッとしないんだが、このピロシキ、皮もパリパリでおいしいな」

「ピロシキって見た目はカレーパンだが、中身は肉まんだな」

「そう言われれば、そうかもしれないが、やはりこれはピロシキだろ」

「少し肉まんとは違う感じもするけどな。肉まんにパン粉を付けて揚げたらピロシキにならないかな?」

「肉まんの皮はピロシキの皮よりも厚いんじゃないか?」

「じゃあ、油で揚げる前のピロシキを蒸し焼きにしたら肉まんになるのか?」

「長谷川、いやに肉まんにこだわるな。ここのシェフなら肉まんくらい作ってくれるのではないか?」

「それもそうだな」

「しかし、こういった温かいものを食べているがこの部屋は快適だな。エアコンが付いているわけでもないんだろ?」

「そう思うけどな。何かエアコンに匹敵するようなものがあるのかもしれないな。

 ミアのいるシュレアの屋敷も今は夏らしいんだが快適だしな」

「ふーん」


 タマちゃんは俺たちの食べる速さに合わせてゆっくり料理を吸収している。

「タマちゃん、今日の昼食はどうだ」

「少し分かってきたような気がします。食事もそうですがこうしておふたりの話を聞いているのも楽しいです」

 なかなか。ホントにタマちゃんの中身は立派な大人だ。



 テーブルの上のものをあらかた食べ終わったら食器類が片付けられてデザートがテーブルの上に置かれた。


 今日のデザートは、シャーベットだった。

「リンゴと桃と、グレープフルーツのシャーベットです」と16号。

 水色の皿の上に白い3つの半球がのっかっている。色はそんなに違わないが、匂いがはっきり違う。どれもおいしそうだ。

「おいしい……」先にシャーベットをすくって口に入れた氷川から声が漏れた。


 俺も順に食べたが確かにどれもおいしい。

 少しだけすくってフィオナのハチミツの小皿に入れてやった。そのシャーベットはすぐに解けたがフィオナは気に入ったようだったのでもう少し入れてやったら、フィオナがこっちを向いてニッコリした。黒いジャムのおかげで口の周りが黒くなっていたがそこがまたかわいかった。


「ごちそうさま」「「ごちそうさまでした」」


 フィオナの顔は黒いジャムのおかげでエライことになっていた。新しいお手拭きで顔と手を拭いてやった。



 今日の昼食もまたお腹いっぱいになってしまった。

 これでは午後からあのロディオマシーンに乗るのは辛そうだ。それに雨も降っているだろうからロディオの難易度がさらに上がる可能性が高い。お腹を落ち着かせるために30分は欲しいところだ。


 食堂を出てみんなで書斎に帰ったところで、

「氷川、ちょっと俺食べ過ぎた。少し休んでから行かないか?」

「そうだな。わたしもお腹いっぱいだ」

「氷川は、そこの机の椅子で休んでいてくれ。

 俺は隣の部屋で休んでいる。30分くらいして行こう」

「了解。しかし、立派な机に立派な椅子だな」

「社長さんの机と椅子と思って堪能してくれ」

「そうだな。長谷川はそこらの会社の社長なんかよりよほど資産家なんだから、座っているだけでご利益があるかもしれないし」

 ご利益はないと思うぞ。


 タマちゃんは壁に立てかけて置いたリュックの中に入って、俺とフィオナは書斎の隣の寝室に移動した。


 靴をぬいでベッドに横になったら、フィオナは枕の端で横になった。

 食べてすぐ横になると牛になるそうだが、30分ならセーフ。

 そう思って目を閉じた。


 何かに耳を引っ張られて目を開けたら、フィオナが俺の耳を引っ張っていた。

 時計を見たら30分近く経っていた。また意識が飛んでいたようだ。俺って大丈夫か?


 すぐに起き上がって靴を履いて書斎に行ったら、氷川が気持ちよさそうに机の椅子で眠っていた。

 女性の寝顔を見るのは、あっちの世界にいた時以来だ。

 だいたい、コミックやアニメで女の子はこういう状況で寝ているとたいてい「もうお腹いっぱい。食べられません」とか寝言を言うのだが、さすがにそんなことはないようだ。

 しかし、これ、起こしていいものだろうか?


 どうしようかと思っていたら「もうお腹いっぱい。食べられない。むにゃむにゃ……」と氷川が寝言を言った。


 いやー、氷川は俺より3年歳上だが、実に面白いやつだ。

 このまま寝かせておいても面白いが、後で何を言われるか分からないので、やっぱり起こすことにした。

「氷川。30分経ったから、そろそろ行こうか」

「う。んーん。

 知らぬ間に寝てしまった。この椅子反則級に気持ちよすぎだ」

「それじゃあ荷物を持って」

「ああ」


 俺はタマちゃん入りのリュックを持ち、氷川が手提げカバンを持って俺の手を取ったところで午前中最後にいた場所に転移した。


 転移先では土砂降りではなかったが本格的な雨が降っていて、地面には水溜まりができている。

 すぐにタマちゃんがロンドちゃんを出してくれたので急いで乗り込んだ。


 氷川は手提げカバンを後ろのシートの足元に置いてからエンジンをかけ、ワイパーを動かした。

 俺はその間にタマちゃん入りのリュックを足元に置き、素早くシートベルトを締めた。

 フィオナも定位置について両手を使って座っている。

 アニメ音楽が鳴り始めてロンドちゃんは急発進し、盛大に水しぶきを上げた。


 氷川の横顔を見たら予想通りうすら笑いしてさらに口を小さく動かしていた。スピーカーの音にかき消されて何も聞こえてこないのだがアニソンを口ずさんでいるように見える。


 氷川のヤツ、かなり機嫌がいいみたいだ。これは本格的なロディオが始まるな。


 窓の外を見たが、雨のせいで海の様子は全然分からなかった。

 俺は大音声のアニソンの中、助手席で踏ん張りながらロディオを楽しんでいたが、ゴロゴロと雷の音が聞こえ始めた。まだ距離はあるようだがたまに空が明るくなる。


「氷川、雷鳴ってるけど大丈夫か?」

「なに?」

「氷川! 雷鳴ってるけど大丈夫か?!」

「大丈夫じゃないか。何せこの車はロンドクルーザーなんだから」

「ロンドクルーザーって雷に強いのか?」

「そりゃ、そうだろ。ロンドクルーザーなんだから」

 そうなのか? 氷川がそう言うならそうかもしれないがちょっと不安でもある。


 氷川は相変わらずうすら笑いを浮かべてハンドルを回し、サイドブレーキを引いたり、ギアチェンジを繰り返している。


 何だか雷が近づいてきているようで、ゴロゴロはひっきりなし。空が光る回数も増えてきた。

 いやな予感がするのだが。

 そんな俺の気持ちなど全く関係なくロンドクルーザーは右に左に、時には急ブレーキをかけながら爆走していく。


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