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第298話 秋ヶ瀬ウォリアーズ19、新館


 昼食のデザートとして出されたイチゴパフェを食べたら、俺もお腹がパンパンになってしまった。

 斉藤さんたちも完食したのだが、別腹ではなかったようでお腹をさすっている。

 タマちゃんだけそういった感じはない。


 16号が食器を下げて食堂からワゴンを押して出ていったあと、自然休憩タイムに入ってしまった。


「ちょっと食べ過ぎた」

「わたしも」

「おいしかったー。もう何も食べられない」

「おいしかったのが悪い!」


「午後から泳ぎに行けそう?」

「ちょっと無理かも」

「わたしも」

「おいしかったのが悪い!」


「それじゃあ、もう少し休憩してから、午後から何するか決めようか?」

「この建物の周りを散歩してみない?」

「それいいカモ」

「えー。みんな元気ー」

「中川、これだけ食べてて運動しないとこぶたちゃん一直線だよ」

「うーん。じゃあわたしも行く」

「もう少し休憩してから行こう」

あるじ、わたしは書斎に戻っています」

 タマちゃんはスライム形態が苦手だから仕方ない。

「分かった」


 タマちゃんが食堂から出て行ったあと15分ほどおとなしく食堂の椅子に座って休憩してから俺たちは食堂から出て、館の玄関ホールに向かった。


「ここってすごく新しいよね。柱なんかも白いし、金具なんかもピカピカだし」

「うん。完成したのが1カ月半くらい前だから、新品だな」

「長谷川くん、ここに住んでるわけじゃないんだよね?」

「たまにここに来るだけだな」

「そうなんだ」


「建物の中、誰もいないんだね」

「うん。午前中に自動人形たちが建物の中の掃除と庭の掃除や手入れをしてるんだけど、午後からは休んでるんだ」


 玄関を出た先は庭園なので、花壇には色とりどりの花が咲いて、庭木にも花の咲いているものが沢山ある。


 庭木はきれいに剪定されているので、花が咲いていなくても緑がきれいだ。

「きれいー」

「みんな長谷川くんのためだけに庭を手入れしてるって事?」

「周りに誰もいないわけだから、そうかもしれない」

「すごいなー。

 長谷川くん、今SSランクだけど、もう冒険者辞めてここで隠居生活できるんじゃない?」

「学校には行かないといけないし、大学にも行きたいから隠居はしないけれど、社会に出て合わないようなら週に何日かダンジョンに入って運動するだけであとは隠居でもいいかもね」


「いいなー」

「うらやましい」

「アーリーリタイヤメントがわたしの夢」

「そういえば斉藤さんたちは大学どうするの?」

「いちおう、行くつもり。都内の私立かなー」

「わたしも、そうなると思う」

「わたしは、都内にある日本で一番大きな国立大学。に、行きたいけど無理だからどっかの私立だろうなー」

「長谷川くんは?」

「俺も都内の大学を目指すつもり。国立も私立も受けるかな」

「長谷川くんなら中川の言う日本で一番大きな国立大学にも受かりそうだもんね」

「そうなればいいんだけどね」


 庭を横断して門を抜けた俺たちは、池のほとりにやってきた。

「うわー、きれいな池」

「ほんとだ」

「魚はいないのかな?」

「魚はいないんだよ」

「残念」


「そう言えば3人の家族の中で体調悪い人っていない?」

「うちはお父さんが腰痛と肩こり」

「うちはみんな元気」

「うちは、わたしがたまにわけわかんないこと言うくらい。かな?

 結局みんな元気と思う」


「そうなんだ。

 実はここの池の水『治癒の水』って、たいていの病気が治ってしまう水なんだよ。

 ダンジョン庁の方で調べたところ、ガンにも効いたって話なんだ。家族のみんなが元気そうに見えても病気になっているかもしれないから今日の帰りにもみんなにあげるよ」


「長谷川くん。ダンジョン庁でちゃんと調べてガンにも効くって言うなら、まぎれもなくすごい薬ってことじゃない? だとすればすごく高価なものじゃないの?」と、斉藤さんが驚いた顔をして俺に聞いてきた。

「そうなんだけど、目の前の池一杯あるわけだから、俺にとってはタダの水とそんなに変わらないんだよ」

 今の俺は万能ポーションたくさん持ってるし。


「そうかもしれないけど」

「細かいことは気にしなくていいよ。

 コップ1杯飲めば、大抵の不調は治ると思うから試してみればいいよ」


 池から今度は半地下要塞前に回った。

「果物が生ってる。イチゴにトマトに、なぜかナスまで」

「レモンがあんなに急成長したからどうかなって試したらここでも急成長したんだよ」

「地面に埋まった小屋に見えるアレは何?」

「あれ、俺が作ったんだよ。屋根があるところで食事した方がいいかなって思って。最初は扉も窓もなかったんだけどアインたちに付けてもらったんだ」

「あんな大きな建物があるのに?」

「これを作ったのはアレよりもっと前」

「ふーん」

「長谷川くんってああいうの作って、俺の基地だーとか言ってたんじゃない?」

「まさか、そんなこと言う訳ないだろ」

 あれは要塞で基地じゃない。俺は嘘は嫌いな男だ。


「でも今は入れ物の用意がなかったから。『治癒の水』じゃなくて果物を持って帰ってもらうか。

 ここにも生っているけど、向うに果樹園を作ってるんだ。果物は基本的に治癒の水と同じ効果に元気が出るっておまけがついてるから、それを摘んでお土産にすればいいよ。果物狩りだな」

「そんなものもらっていいの?」

「その先の木が茂っているのが果樹園だけど、見てくれればわかるけど、いくらでも生ってるから」


「長谷川くん、冒険者なんだよね?」

「一応」

「SSランクって日本一というか、世界一だよね?」

「そうだと思うよ」

「ならいい」


「斉藤、相手は長谷川くんだよ」

「そう。わたしの見込んだ長谷川くんなんだから、果樹園、農園いいじゃない。しかも食べたら病気も治って元気になるんだったら冒険者なんかよりよっぽど手堅い堅気かたぎの商売だよ」

「そういえばそうだけど」


「とりあえず、果樹園に行ってみよう。見れば俺の言っていること分かるから」

 俺は3人を連れて果樹園に回った。

 最近近くで見ていなかったのだが、果樹が密集しすぎているかも知れない。

 とはいえ、果樹そのものはどれも元気そうに見えるし、おいしそうにそれぞれの果物がそれこそ無数に生っている。


「これって、ホントの果樹園じゃない」

「わたし果樹園って初めてなんだけど、こんなにたくさん実が生ってるものなの?」

「密林みたい」

「一回りした後で果物狩りをしよう」

「うん」



 果樹園からまたくるりと回って石畳の道路と運河に出た。

「この道の先には、もうひとつの建物があるんだ」

「そこの建物と同じくらいの建物って事?」

「うん。探検してたらその建物を見つけて、それでその建物の主人になったんだよ」

「すごくはしょってるけど、何となくわかるから」

「長谷川くんだし」

「そうだよね」


「そういえば昼食の時のハヤシライスのお肉ドラゴンって言ってたけど、ドラゴンたおしちゃったの?」

「そこらのゲートキーパーと比べればちょっとだけ手強かったけど、それほどでもなかったかな」

 俺にとっては初見だけだったけど骸骨の幽霊の方がよほど強敵だった。


「やっぱりドラゴンっていたんだ。ところで長谷川くんは今何階層潜ってるの」

「いまは28階層らしきところで流している感じかな」

「らしきところって?」

「ここって、26階層にあった渦の先の世界だから27階層って呼んでたんだけど、どう見てもダンジョンに見えないだろ? 太陽だってあるし、雲は流れてるし、海だってあるし。今日は天気がいいけど雨も降るんだよ」

「そう言われれば確かにそうだね」

「実はこの先にまた別の渦があってのその渦を通り抜けた先にダンジョンがあったんだ。そこから1階層下りた感じだから28階層って呼んでいるけど、実際のところなん階層なのか分からないんだよ」

「なるほど。全く分からなかった」

「斉藤。わたしも分からなかったからドンマイ」

「斉藤に日高。わたしたちが知ったところで何かが変わるわけじゃないから、気にしない気にしない」

 中川さんの言葉は真実ではあるのだろうが、そこまで言ってしまうと身もふたもないというか。


「そういえばさっき食べたドラゴンだけど、その渦の前にいたんだ。本当はドラゴンをたおした先で渦を見つけたんだけど」

「うん。やっぱり分からなかった」

「斉藤。ドンマイ」

「さすがはわたしの長谷川くん。ドラゴンをたおしたのは分かるけどその肉持って帰ったんだ」

「タマちゃんに丸ごと運んでもらったんだ」

「丸ごとって、1匹丸ごと」

「うん」

「タマちゃん、そんなこともできるんだ」

「うん。タマちゃん、大抵のことはできるんだよ。まごうかたなき天才。天スラなんだ」

「話せるしね」


 新館の周りを一回りした俺たちは、門をくぐり中庭を通って館の中に入った。




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