第296話 秋ヶ瀬ウォリアーズ17、海水浴2
例の海岸に秋ヶ瀬ウォリアーズの3人を連れて転移した。
松はないのだが『白砂青松』。
波の音がわずかに聞こえるだけで、一切の騒音がない。
頭上の空は雲が見えなくなり抜けるような青空。
「まずはシートを敷いて荷物を置こうか」
斉藤さんが再起動して、手にしたビーチバッグからいつものレジャーシートを出して砂浜の上に敷いた。
風は吹いていなかったが四隅に荷物を置いた。
「ねえ、長谷川くん、驚きすぎてさっきは聞けなかったんだけどあの建物は一体何なの?」
準備体操でもしよう。と言いかけたら、斉藤さんに聞かれた。
日高さんたちも俺の顔を見る。
そりゃそうだ。
「あの建物は、俺のなんていうか、セカンドハウス?」
「何それ?」
「だから、住んでるわけじゃないんだけど、俺のうち。みたいな?」
「アインさんってあの建物を任されているって言ってたけど、長谷川くんが任せているってこと?」
「そうなんだろうな」
「じゃあ、あの人は長谷川くんの部下?」
「部下と言えば、部下かな。俺の言ったことはたいてい対応してくれるから、ただの部下ってわけでもないかも知れない」
「たいていのことって、たいていのこと?」今度は中川さん。
「うん。あれしてくれ、これしてくれって言えば何とかしてくれるな」
「あんな美人が何でもしてくれるの?」
「美人と言えば美人なんだろうけど、彼女は人間じゃなくっていわばロボットだから」
「えっ!?」
「自分のことを自動人形と言ってたから」
「うそ。どう見ても人間だったじゃない」
「最初は顔の造作なんて何もないのっぺらぼうだったから確かに自動人形だったんだよ。
のっぺらぼうだと見た目が悪かったから顔の造作を作れって言ったらああなった」
「よくわかんないけど分かった」
「今日の昼はあそこの食堂でだから」
「料理はあの人が作っているの?」
「いや、専門のシェフがいる」
「シェフ!?」
「料理人だから」
「よくわかんないけど分かった」
「それじゃあ、準備体操してから海に入ろうか」
「うん」
座って話をしていたので立ち上がったら、中川さんも立ち上がり一歩俺に近づいて質問してきた。
「それは分かったけど、長谷川くん。わたしたちの水着姿を見て何か感想はないの?」
せっかくその話題は流していたのに思い出したようだ。
ここで、月並みな『よく似合っている』で許してもらえればいいが、何か気の利いた言葉はないだろうか?
「その水着、俺も着たいくらいかっこいい!」
言ってしまった後に、しまった。と、思ったのだが後の祭り。
「長谷川くん、マッチョは認めるけどそういった趣味があったの?」と、中川さんに突っ込まれてしまった。
「ないない。全然ない」
「趣味は趣味だから全然いいのよ。今は自認の時代だし。わたしのだと小さすぎて長谷川くんじゃ着られないと思うけど、日高の水着なら着られるんじゃないかな。
日高、そう思わない?」
「長谷川くんがどうしてもわたしの水着が着たいって言うなら貸してあげる。水着ならある程度伸びるし」
話があらぬ方向に。誰か、誰でもいいから俺を助けてくれー!
「ふたりとも、長谷川くん困ってるじゃない。
準備運動するよ」
「「はーい」」
斉藤さんに助けられた。
俺は最初からはだしだったのだが、斉藤さんたちがサンダルを脱いで砂浜に立った。
「砂が気持ちいいー」
「サラサラ」
「しかも細かい」
確かに足の裏も気持ちいい。
俺たちは横一列になってラジオ体操第一で準備体操を始めた。
1、2、3、4、5、6、7、8。2、2、3、4、5、6、7、8。
……。
深呼吸で準備運動のラジオ体操が終わったところで再度ディテクターで周囲の安全確認。問題なし。
「それじゃあ、海に入ろうか」
「今日はデジカメ持ってきたから、その前に記念写真を撮ろうよ」
「「賛成!」」
中川さんが荷物の中からカメラを取り出した。
「三脚はないから、カメラマンは順番だよ」
「「了解!」」
「じゃあ、長谷川くんを中心に斉藤と日高。海の方に向かって並んで」
3人で並んだところで、
「はい、チーズ」
「「チーズ」」
パシャ。
「もう1枚」
「はい、チーズ」
「「チーズ」」
パシャ。
「今度は、斉藤がカメラマン」
「うん」
「画面を見て、ここのボタン押すだけでいいから」
「分かった」
斉藤さんの代わりに中川さんが入って、
「はい、チーズ」
「「チーズ」」
パシャ。
「もう1枚」
「はい、チーズ」
「「チーズ」」
パシャ。
そのあと、日高さんと斉藤さんが交代して2枚写真を撮り、それから俺がカメラマンになって2枚写真を撮った。
「それじゃあ、海に入ろうか」
中川さんにカメラを返した俺は海に向かって走っていきそのままバシャバシャと水の中に入っていった。
水温のことは全く頭の中になかったのだが俺的には適温だった。
沖に向かって駆けていったのだが、遠浅すぎるのかどこまで進んでも腰のあたりまでしか深さがない。
腰まであれば泳げないことはないのだろうが、泳ぎづらいのもまた確か。
斉藤さんたちはどうするのか振り返って見たら、波打ち際辺りで水の掛けっこをしていた。
女子高生のキャーキャー言う声を聞くのもいいものだ。
これは距離を置いているからであって、俺の場合聴力も発達しているのであまり近いと耳が痛くなる可能性がある。
保護者の俺は勝手に彼女たちから離れられないので、仕方なく腰の深さの海で平泳ぎをしたのだが、足がつくようなつかないような。実に泳ぎづらい。
口にわずかに入った海水はそれなりに塩辛かった。地球の海の塩辛さと比べてどちらが塩辛いかは分からなかったのでたぶん似たような塩分濃度なのだろう。
しばらくそうやって泳いでいたのだが、俺が楽しんでいても仕方ないので、見守りに徹することにしてビーチシートを敷いた基地に帰ることにした。
「長谷川くん、泳ぐのやめたの?」
「遠浅すぎて泳ぎづらかったから」
「そうなんだ。そういう意味だと海水浴場とすれば最高なんだけどね」
「うん。そうかもしれない」
「それじゃあ、ボールで遊ぼうよ」
「さんせー」「うん。ビーチバレー、ビーチバレー」
ということでビーチバレーをすることになった。
日高さんが基地に戻ってビーチボールを持ってきた。
その間に、残った3人で足でコートを砂地に描いておいた。
「長谷川くん、これ膨らましてくれる?」
「うん」
日高さんから受け取ったビーチボールの吹き込み口を咥えて空気を入れていく。
あっという間にビーチボールはパンパンに膨れた。
俺がフーフー空気を入れていたらなぜか中川さんが俺のことをじっと見ていた。
なんだ?
「チーム分けしよう」
「グーとパー。だからね。『グーとーパー!』」
4人でグーとパーを出した結果俺は中川さんとチームを組むことになった。
サーブはボールを持っていた俺たちのチームになって、中川さんがサーブを打つことになった。
「いくよー。それ!」
中川さんのサーブはアンダーハンドサーブで、ボールはふらふらと上がって斉藤さんたちのコートに飛んで行った。
「ハイ!」
そのボールを日高さんがレシーブして上に上がったところを斉藤さんがスパイクした。
「スパイク!」
斉藤さんのスパイクは結構鋭かったけど、ビーチボールなのでそこまでのスピードはなく、俺が簡単にレシーブして、中川さんがそれをトスした。中川さん、最初のサーブからバレーは苦手なのかと思っていたけれど結構うまい。トスされたビーチボールは俺の少し前に上がって落ちてくるところを俺がスパイクした。やり過ぎてしまうとビーチボールが割れてしまうのであくまでも慎重に。
「スパイク!」
俺の打ったビーチボールは割れることなく斉藤さんたちのコートの右隅に落っこちて1点先取した。
「ビーチバレーって、サーブ権がある時だけ得点になるんだっけ?」
「確か、バレーボールと一緒でサーブ権関係なく得点になったと思うよ」(注1)
「そうなんだ」
「じゃあ、わたしがまたサーブだね」
中川さんがボールを受け取り今度はオーバーハンドサーブだった。
ビーチボールでなければそれなりの威力だったのだろうが、相手コートに達した時にはスピードはほとんどなくなっていて、そこを日高さんがそのままスパイクした。
思いっきり横に跳んで何とかそのスパイクを片手でレシーブできた。
俺の上げたレシーブを中川さんが受けてまた絶妙なトスを上げてくれた。
「スパイク!」
俺の打ったビーチボールは先ほどとは逆のコートの隅に落ちて、1点追加。
「ねえ、長谷川くん。少しは手加減してもいいんじゃないかな。
どこにスパイク打っても全部レシーブできそうじゃない」と、斉藤さんに怒られてしまった。
確かにコートが狭いのでコート内のどこに打ち込まれてもレシーブできる気がする。
じゃあワザと見送る?
それはそれで難しいのだが。しかし善処しないとマズそうな雰囲気だ。
注1:
昔のルールではサーブ権のある時だけ得点になってたんですが、作者が全く知らないうちにルールが変わっていました。たまにはスポーツ番組見た方がいいカモ?
もちろん作者はビーチバレーの試合は一度も見たことありません。




