第281話 ミッションコンプリート。欲しい物リスト2
「ここまで送ってもらったけれど、ダンジョンギルドへ報告しなければいけないことをすっかり忘れていた」と、ビクトリアさん。
俺もダンジョンギルドに顔を出してジェーンさんに報告しなければいけない。
警備員Aに通訳してもらいながらソフィアさんと話をした。
「ビクトリアさん、報告なら俺がやっておきますから大丈夫ですよ」
「そういうわけにはいかない。それにイチロー殿のおかげで体はもう何ともない」
「分かりました。俺も報告しなければいけないから、ダンジョンギルドに一緒に行きましょう」
ビクトリアさんと警備員Aを連れてダンジョンギルド前に転移した俺は建物の中に入っていった。
ボロボロのビクトリアさんがダンジョンワーカーたちの注目を浴びてホールの中が騒然とし始めた。
ジェーンさんを目で探したところ、ジェーンさんも俺たちに気づいたようでカウンターの中から俺たちの所まで駆けてきてくれた。
俺たちの周りにはダンジョンワーカーたちが輪になっている。
「ビクトリアさん!」
「ジェーン。済まない」
「そんなことよりビクトリアさん、装備がボロボロですがおケガは?」
「イチロー殿が『神のしずく』でわたしの体を治してくれた」
「えっ? イチローさんはこれから救助に向かわれるんですよね? イチローさんが助けた?」
「その通りだ」
俺もうなずいて、警備員Aを通訳として連れてきたことを告げておいた。
「ビクトリアさんに詳しいお話を聞きたいところですが今日は止めておきましょう」
「ジェーン、構わない。見た目はボロボロだがケガは完治している」
「分かりました。それではビクトリアさんとイチローさん、中でお話を伺います」
ジェーンさんに連れられてカウンターの中に入り、前回と同じ部屋に通された。
そこでビクトリアさんが討伐チームの他のダンジョンワーカーは全滅したことと自分も深手を負ったことを説明した。
そのあと俺はジェーンさんに18階層にいたバケモノを退治したこととビクトリアさんを無事救出したことを通訳を介して伝えた。
「本当にありがとうございます。今回の救援については依頼料を提示していませんでしたが、王国金貨100枚です。
ドラゴンスレイヤーのイチローさんのお仕事にすれば非常に心苦しいのですが、これでよろしくお願いします」と、頭を下げられた。
確かに依頼である以上依頼料がないわけにはいかない。さらに言えば、ダンジョンワーカーとギルドの関係もよく分からないが、こういった世界では自己責任が原則だろうから、ギルドが金貨100枚も負担するということは破格かもしれない。
そして、ビクトリアさんや討伐チームのダンジョンワーカーたちがそれだけギルドに貢献していたという証なのだろう。
俺にとっては、前回ビクトリアさんに親切にしてもらったお礼ができただけで十分だったので、その金額に異存があろうはずはない。
俺は「それで十分です」と答えた。
ジェーンさんは何か言ってカウンターの中に駆け込みすぐにお盆の上に金貨の筒を載せて帰ってきた。
「金貨100枚です」
俺は軽く頭を下げて、4本の金貨の筒を防刃ジャケットのいろんなポケットの中にしまった。
そのあと用意してもらったシュレアダンジョンの地図をタマちゃんに出してもらってジェーンさんに返した。
「ギルドから依頼料ももらったし、わたしがこの街に来て困っている時助けてもらったお礼のつもりだったからビクトリアさんは気にしないでください。それじゃあ」
「ありがとうございました」「ありがとう」と、頭を下げるジェーンさんとビクトリアさんを残して俺は警備員Aを連れて部屋を出たすぐの所で屋敷に戻り警備員Aを置いて、ダンジョンセンターの専用個室に転移した。
これでミッションコンプリート。
装備していた武器をロッカーに戻し、忘れずに冒険者証をカードリーダーにかざしてうちの玄関前に転移した。
「ただいまー」
腕時計を見たらまだ6時前だった。そんなに遅くならなくてよかった。
『お帰りなさい』
母さんが台所から出てきた。
「だいぶ遅くなるかと思ったんだけど、ずいぶん早かったのね」
「うん」
「夕食は食べるんでしょ?」
「用意してないんだったら別にいいよ」
「今日はカレーだからもう用意終わってるようなものなのよ。あとはサラダを作るくらいだから」
「じゃあお願い」
「お父さん今日は遅いそうだから、お風呂入っちゃいなさい。お風呂の掃除は終わってるからお湯を入れるだけだから」
「分かった」
分かった。と言ってから『しってる』のミアを思い出してつい笑ってしまった。
「どうしたの?」
「なんでもない」
最初に湯舟に栓をしてお風呂の給湯器のスイッチを入れ、それから2階に上がって部屋に入った。
タマちゃん入りのリュックを床に置いて防具を脱いでクローゼットを開けてハンガーにかけた。
その間にタマちゃんはリュックから這い出て段ボールの箱に四角くなった。
そのタマちゃんに防刃ジャケットに入っていた金貨を預かってもらった。
タマちゃんはそのあと四角くなったまま偽足を伸ばして、ハンガーにかけた俺の防刃ジャケットその他をクリーニングしてくれた。
フィオナは俺が防刃ジャケットを脱ぐ前に自分のふかふかベッドで横になった。
タマちゃんは分からないが、フィオナはかなり疲れていたようだ。寝顔がかわいい。
20分ほどベッドに横になっていたら『お風呂が沸きました』と給湯器が知らせてくれた。
下着になった俺は着替えの下着と部屋着兼寝間着を持って1階に下りていき、脱衣場で裸になったところでフィオナがやってきた。
風呂場に入り軽く体を流してから湯舟に浸かったらいつも通りフィオナは俺の頭の上に乗っかった。
フィオナを頭に乗せた俺は肩まで浸かり、湯で温まった両手のひらで目の周りを軽くマッサージしていたら俺の口から勝手に「ふー。生き返る」が出てしまった。
そしたら頭の上から「ふゅーふふぇふゅ」とかわいい声がした。
「ふー。生き返る」って聞こえないこともない。か?
ビクトリアさんも死んでたわけではないが生き返ったし、これで恩も返せた。
ビクトリアさんの家族も安心しただろう。
こうやってお風呂に浸かっていると今日の一日が長い一日だったようなそうでもなかったような。
ビクトリアさんの別れ際の笑顔を思い出したらすごく幸せな気持になって自然と笑い顔になった。
風呂から上がったらすぐに夕食になり、母さんとふたりで食卓を囲んだ。
今日の夕食はナスビとカボチャがトッピングされた辛口カレーで、トマトとレタスのサラダ。そして、キャベツの味噌汁だった。
おいしゅうございました。
翌日。月が替わって8月に入った。
今日は斉藤さんたち秋ヶ瀬ウォリアーズの3人との約束の日だ。
約束の時間は9時なのでこの日も俺は7時にシュレア屋敷に跳んで朝食をミアたちと摂った。
朝食時の話題はやはりコミックだった。
今回も俺はミアたちについていけなかった。
その話題で3人が盛り上がっていたらミアが俺に「イチロー、おねがいがある」と、あらたまって話しかけてきた。カリンとレンカも俺の顔を見ている。
ということは3人の総意ってことか?
「なんだ?」
「あたらしいコミックがほしい」
読破してしまったのなら仕方ない。
「この前みたいにリストにしてくれたら、注文してやるよ」
「イチロー、ありがとう。はい、これがリスト」
ミアはポケットから折りたたんだ紙を俺に渡した。
ちゃんと用意してあったとは。ミアのヤツなかなかやるな。
受け取ったリストを見たら、コミックの巻末に載っている宣伝全部書いたんじゃないだろうかというくらい結構な数だった。今回もちゃんと漢字を使ったリストだったのだが、前回に比べて格段に字がうまくなっていた。ミアのヤツいろんな意味でなかなかやる。別にいいけど。
「分かった。何日かかるかは分からないが、それほどはかからないはずだ。今日注文してやるから手に入ったらここに届けてやるよ」
「イチロー、ありがとう」
「そういえばミア。明日には機械とか届くから明日の午後からでもここで映画を見られるようになるぞ」
「それもあった。たのしい」
ミアがうれしそうな顔をすると俺もうれしくなるんだが、なんでかなー?
映画も見たいものがあればリストを作ってくれればいいんだが、映画情報がないと難しいよな。そういった雑誌でもあればいいんだが、今日コミックを注文する時探して、良さそうな雑誌があれば一緒に注文しておくか。
朝食のあと、約束の時間までの時間調整のため居間のソファーで理論武装を再開した。
2冊ほど読み終えたところで、タマちゃん入りのリュックを手にしてここではたと困ってしまった。
右肩に座っているフィオナを秋ヶ瀬ウォリアーズの面々に紹介していいものか?
やめた方がいいよな。
かといってフィオナをここに残しておくのも心配だ。
ということで俺はいったん安全靴を脱いで、それから俺の2階の部屋に転移してフィオナを置いてまた戻ってきた。
靴を履いた俺はリュックを背負って専用個室に転移し、大きい方のメイスだけをロッカーから出して装備し、カードリーダーに冒険者証をかざして秋ヶ瀬ウォリアーズの3人との待ち合わせ場所、渦の前から少し離れた所に転移した。
 




