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第27話 タマちゃん


 斉藤さんたちとはハンバーガーショップで別れた。前回同様彼女たちはバスで帰っていき、俺はリュックを背負ってうちまで駆けて戻った。


 真夏の3時から4時。

 かなり暑い筈なんだけどそれほど汗をかくこともなく駆け通すことができる。

 勇者さまの体は暑さ寒さにはめっぽう強いのである。

 魔人とか魔族の魔術師が繰り出してくる熱い系の魔術や寒い系の魔術が直撃すればさすがの俺もひるんだものだが、そこらのモンスターが繰り出すそれ系の攻撃では全くダメージを受けなかったものな。

 ハッハッハッハ。


 うちに帰った俺は母さんに帰宅を告げて早々に2階に上がり、先に着替えてからタマちゃんのおうちを作り始めた。

 と言っても材料もないし、そもそも俺のスキルでは大層な物を作れるわけでもない。


 なのでリュックの中にタマちゃんを入れたまま2階に残して1階に降りていき、夕飯の支度を始めていた母さんに無理を言っていらない段ボール箱を探してもらった。

 段ボール箱は1階の納戸の中にガムテープを剥がして畳まれ束になって置いてあった。

 俺はその中から適当な大きさの段ボールを抜き出して組み立ててからガムテープを貼っておいた。


 2階に戻ってリュックからタマちゃんを出し、持ってきた段ボール箱の中に入れてやった。

 犬猫なら毛布とかバスタオルを下に敷いてやった方がいいのだろうが、タマちゃんは犬猫じゃないのでそこまで必要ないだろう。

「タマちゃん、ここから出ちゃだめだからな。

 ここから出たらダメ」

 俺の言葉が分かったのか、念を押したらタマちゃんは体を震わせた。



 風呂から上がって夕食を母さんと2人で食べた俺はすぐに2階に上がってタマちゃんの様子を見た。

 タマちゃんは段ボール箱の底一杯に広がって四角くなっていた。

 死んでしまったのかと一瞬ヒヤッとしたけれど溶けて水になっているわけでもなく、俺が部屋に入ったことを察知したようですぐにスライムらしくなった。

 広がっている時、真ん中あたりがぷっくりと膨れていたのはそこに核があるのだろう。

 思った通り1階層のスライムだった割に核は相当大きい。

 金色の核を食べたんだから当然と言えば当然なのか。


 タマちゃんを見ながら俺はタマちゃんのトレーニング方法についてあれこれ考えた。

 何せタマちゃんは簡単にお手ができた天才スライム、略して天スラだ。

 教え込めばなんだってできそうだ。


 今の俺ははっきり言って2、3階層ではオーバースペックすぎるのでタマちゃんにアシストしてもらうことはない。

 将来は攻撃、防御と頑張ってもらうにしても、今はなにがしかのサポート技を覚えさせた方がいい。

 

 今一番欲しいサポートと言えば何だろう?

 特に困っていることは何もなかった。

 それではつまらないので俺は必死に考えた。

 そこで思いついたのが、お財布ならぬアイテムスライム。


 要はどこかのweb小説で読んだ、スライムは体の中にアイテムを取り込んでも4次元的何かでスライム自身の重さも大きさも変わらず、アイテムが必要な時は吐きだせるという技だ。

 よく言う、アイテムボックスのスライム版だ。


 訓練計画として、

1.アイテムを取り込ませる。取り込んだアイテムは吸収せずそのままの形で吐き出す。

 アイテムを取り込んだ時、体がアイテムの形で大きくなったり、アイテムの重みで重くなるようでは無意味どころかただのいじめなので、訓練失敗、終了ということになる。

2.もし思惑おもわく通りアイテムを取り込んでも形も重さも変わらないようなら、吸収せずに吐きだす練習をする。

3.取り込み、吐き出しのスピードを速めていく。


 4次元的何かがホントにタマちゃんの体内に存在するかどうか次第だが、俺の直感はタマちゃんにはそういった能力があることを肯定している。

 勇者時代の俺の直感は5分5分で当たっていた。

 だから今回もきっと当たるのだ!


 俺は試しに机の上の鉛筆立てから鉛筆を1本抜いて、

「タマちゃん、これは鉛筆というんだけど、これを体の中に入れてくれるか?

 体の中に入れても吸収せず、俺が出してくれと言ったら体の中からそのまま外に出してくれ」

 だいぶ複雑な指示だが、俺のタマちゃんは何せ天スラだ。

 何とかなるだろう。


 そう思って鉛筆をタマちゃんの頭=上の辺りに置いてやったら鉛筆はあっというまにタマちゃんの中に消えてしまった。

 鉛筆程度ではタマちゃんの大きさは変わらなかったので4次元的何かがタマちゃんの体の中にあるかどうかは分からなかった。

 そこは飛ばして次のステップだ。


「タマちゃん、さっき体の中に取り込んだ鉛筆を出してくれ」

 そう言ったら、タマちゃんの頭からスーッと鉛筆が湧きだしてきて頭から段ボール箱の底に滑って落っこちた。

 手に取って鉛筆を見たらどこも傷んでいなかったし湿ってもいなかった。

 いちおう大成功だ。

「タマちゃん、でかしたぞ」

 そう言ってタマちゃんをほめたら、タマちゃんが体を震わせた。

 タマちゃんは俺の言葉を完全に理解している。


 今度は4次元的何かを試す番だ。

 何か重いものが欲しいのだが何かないだろうか?

 そうだ! 階段下の物入れの中に災害用の水のペットボトルが2、30本入っていたはずだ。

 あれで試してやろう。

 1本2リットル=2キロだから4本も持ってくれば十分だろう。


 俺は階段を下りて裏側に回り開きを開けてそこからペットボトルを4本抱えて2階に戻った。


「タマちゃん、このペットボトルを体の中に取り込んでくれ。

 さっきみたいに吸収しないでくれよ。

 それで俺が出してくれと言ったら体の中から外に出してくれ。

 全部で4個あるからな」

 タマちゃんが数字を理解できるかいささか不安だが、天スラに不可能はないだろう。


「それじゃあ1個目」

 俺が2リットルの水の入ったペットボトルをタマちゃんの上に置いたら、あっという間にタマちゃんの体の中に沈んでいった。

 見た感じタマちゃんの体は大きくなっていないようだ。

 期待が持てるぞ。


「次、2個目」

 今度もあっという間にタマちゃんの体の中にペットボトルは吸い込まれて行った。

 そう、沈んだというより吸い込まれた感じだ。


「次、3個目」

 3個目も2個目同様吸い込まれていった。タマちゃんの大きさは全然変わっていない。


「これで最後の4個目だ」

 4個目もタマちゃんの中に吸い込まれていった。

 タマちゃんの見た目は全然変わっていない。


 それでは最後の確認だ。

「タマちゃん丸く成ってくれ」

 丸いという言葉も知っていたようで、タマちゃんは箱の中で金色のボーリングの球のようになった。

 持ち上げてみたところ重くなっている感じはなかった。


 タマちゃんを段ボール箱に戻し、

「ペットボトルを1つ出してくれ」

 そう言ったらすぐにペットボトルが1つタマちゃんの体から湧き出てきた。


「残ったペットボトルを全部出してくれ」

 タマちゃんが広がって3個のペットボトルが一度に湧き出てきた。


 もう一度タマちゃんに丸くなってもらい持ち上げてみたらさっきの重さと変わらなかった。


 ヤッター!



 タマちゃんは体内に4次元的何かを備えていた。


 金色の核は確かに惜しかったが、今のタマちゃんを見ていると惜しくはなくなった。

 逆に食べてくれてありがとうと言いたい。




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― 新着の感想 ―
私の持病の『可愛くて有能なスライム(但し丸くなれるコ限定)をテイムしたい病』の発作が……! ド○クエの、引きちぎられたような頭頂部と開ききった瞳孔で薄ら笑いのスライム?要らないコですね。
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