第26話 金色スライム
俺は3人から恵んでもらった昼食を食べ終えた。
お腹の足しになったようなそうでもないような。
仕方ないのでチョコレートバーも食べてお茶を飲んだ。
「茶色のスライムも珍しいかもしれないけれど、保護色と考えればいそうだよね。
でも、金色のスライムっていないんじゃない?」
「わたしもいないと思う」
「いわゆる希少種なのかな?」
希少なのかもしれないけれど、だから何? と、言われてしまえばそれまでである。
こいつを手なずけて手足のように使えればいいけど、そんなweb小説みたいなことができるとも思えないし。
できたとして、エサで釣ってお手とお代わりくらいじゃないだろうか?
昼食を食べ終えた俺たちは休憩タイムに入った。
俺自身はごはんを口に入れていない関係で、なんだかお腹がいっぱいになったような気はしないのだがこれは仕方がない。
斉藤さんたちがいろいろ金色スライムについて考察しているあいだ、俺はスライムにお手とお代わりを教えることにした。
エサはないのでなでてやることでエサの代用とする。
俺がなでることで喜ぶかどうか知らんが。
俺は右手のひらを上に向けて金色スライムの前に出して「お手」と言ってみた。
その結果、スライムに何も変化は無かった。
「長谷川くん、気持ちは分かるけどスライムには手なんかないじゃない」と、斉藤さん。
そうなんだけどね。
でも、アメーバなんかは偽足を伸ばしてエサを捕まえるじゃん。
スライムってアメーバが巨大化したようなものだから、偽足を伸ばしてお手ができてもいいと思うんだよな。
「お手」
再度俺は右手のひらを上に向けて金色スライムの前に出してみた。
そしたらなんと、スライムからぐにゅりと金色の偽足が伸びて俺の手のひらに添えられた。
こいつ、天才かも!
「すごい。
ホントにお手しちゃった」
「この子、ホントにスライムなのかしら?」
いや、色は金色だけどどう見てもスライムだと思うよ。
「スライムの調教なんて初めてじゃない?」
そうか。俺は今スライムを調教してたわけか。
元勇者の俺はこの世界では調教師となったのか。
感慨深い。というほどではないが、何となくうれしい。
調子に乗った俺は、次にお代わりをスライムに教えることにした。
「お代わり!」
そう言いながら左手のひらを上に向けて金色スライムの前に出した。
そしたらちゃんと偽足が伸びてきて俺の左手の上に乗っかった。
そもそも左手も右手もないスライムなので、お手なのかお代わりなのか区別できなかった。
気持だけだけどお手とお代わりは完璧だ。
次に挑戦するのは何がいいだろう?
俺が思案していたら、斉藤さんが、
「この子に名まえ付けてあげようよ」と、もっともなことを提案した。
残りの二人も「「さんせーい」」と言いながら拍手していた。
これは女子校のノリなのだろうか。
男子校に通う俺には得難い経験だ。
名まえは大切だからちゃんと考えないといけない。
「最初まん丸だったからタマちゃんでどうかな?」
「それかわいい!」
「いいんじゃないかなー」
俺が何も言わないうちに金色スライムの名まえが決まってしまった。
金色スライムのタマちゃんについて言いたいことがないわけではなかったが、言えなかった。
とはいえ、俺の一推しは『きんちゃん』だったからそれほど差があるわけではない。
しかしこのタマちゃん。
アーモンドチョコレートを食べて、おむすびと沢庵とバランス栄養食を食べ、そしてスライムの核まで食べてしまった。
思うにタマちゃんは人間の食べるものなら何でも食べるのだろうけれど、モンスターの核が好物なのではないだろうか?
だってあの固そうな核を丸ごと吸収しちゃったんだもの。
モンスターの核はモンスターにとってなくてはならないものだ。
それを吸収したということはモンスターの核がタマちゃんの好物かもしれない。今のタマちゃんの表面は金色で、全然透けていないので体内の核も見えないので確かめようはないのだが核も大きくなってるんだろう。
今日は斉藤さんたちと狩をしている関係で核をホイホイタマちゃんに上げられないけど、明日核が手に入ったらおむすびと核を並べて、どっちに手が伸びるか確かめてやろっと。
「午後からは渦に向かって帰りながらちゃんと狩をしよう」
リュックに入れる前に、タマちゃんに「勝手に物を食べないように」と、言い聞かせたのでリュックを食べたりはしないだろう。
昼食の後片付けを終えた俺たちは、来た時と道が重ならないよう来た時とは少しずれた方向に移動してから渦を目指して歩いていった。
俺の後ろを歩く3人の話題は当然のごとくタマちゃんのことだ。
「金色スライムのタマちゃん」
「金色のタマちゃん」
「キャハハハ」
まあ、いいけど。
……
『ディテクター』
いるいる。
寄り道にならないように適当にモンスターを狩りながら俺たちは歩いていった。
午前中同様、原形をとどめなくなるまで3人に寄って集ってぼこぼこにされたモンスターの残骸から俺が核を抜き出している。
こういう時に限って全部昆虫系のモンスターで、核が簡単に手に入るスライムが出てこないんだよなー。
何だか魚釣りに行って、釣り上げた魚から針を抜いてやっているようなものだ。
俺って女の子に甘いよな。
それもすごーく。
まあいいけど。
午後からの狩でも12個の核が手に入った。
午前中と合わせて24個。
なかなかのものだ。
買い取り所に行き核と4人分の冒険者証を提出したら、ひとりあたま2万3千円になった。
累計買い取り額3682万7千円となった今の俺にとっては2万3万は大した金額ではないが斉藤さんたちにとってはそれなりの金額だろう。
現に俺が月々貰っていたお小遣いはスマホの代金込みで5千円だ。
彼女たちがどれくらい貰っているのかは分からないが、俺とそんなに差はないだろう。
俺にはお金を使う予定などないし欲しいものもあまりないけど、女の子の場合は欲しいものが沢山ありそうだ。
お金があればあるだけ使いそうなので2万円くらいあっという間に使ってしまうかもしれない。
でもそれは彼女たちの自由だ。
この日も俺たちはサイタマダンジョンを出てから本棟の出口前で集合して、それからハンバーガーショップに寄った。
おむすびを食べ損ねたせいか少しお腹が空いていたので丁度良かった。
4人ともハンバーガーセットを注文したんだけど、俺だけポテトを大にしてもらった。
トレイを持った俺たちは2階に上がって4人席に座った。
俺は通路側に座り隣りが斉藤さん、俺の正面が日高さんで、日高さんの隣りが中川さん。
俺はハンバーガーを食べながら、足元に置いたリュックの中のタマちゃんにポテトを食べさせてやった。
「いいなー」
「うらやましい」
「うちで飼えたらなー」
ハッハッハッハ。
勝った!
うらやましがられると勝った気持ちになるのはなぜなのか?
単純に俺が乗せられているだけなのか?
深くは考えまい。
既にタマちゃんは俺の家族だ。
おっ? タマちゃんが今震えたぞ。
リュックの中で喜んでるんじゃないか?
タマちゃんはそれでいいんだが、秋ヶ瀬ウォリアーズのグループチャットに入ってくれるよう頼まれてしまった。
俺はグループチャットアプリは初めてだったし面倒くさそうなので断ることにした。
だって、女子3人のグループチャットだぞ。
どう考えても地雷だろ?
手紙が何カ月もかかるような世界で10年も生きてきた俺はこの世界のメールをありがたいと思い、かつ十分だと思っていたのだが、やはり俺は遅れてもいるのだろうか?




