第25話 スライム2
捕まえたスライムを飼う前提で餌付けできないか斉藤さんがスライムにアーモンドチョコをやった。
チョコはスライムに吸収されたけど、スライムに異常が起きないか様子を見てみようということになった。
チョコがスライムに吸収されて約1分。
「そろそろいいかな?」と、斉藤さん。
1分ほどで様子見になったとはとても思えないのだが、斉藤さんは2個目のチョコレートをスライムの上に置いた。
前回同様、チョコレートはスライムの中に沈んでいった。
「おー」
「面白い」
「もう1個置いてみようか?」
今度は様子見なしで、3個目のチョコレートがスライムの上に置かれた。
3個目のチョコレートもスライムの中に沈んでいった。
「最初丸かったけど、この子何だかボヨンと下に潰れてきてない?」
中川さんの言う通り重みが下の方に移動して丸みを帯びた台形になってきている。
ただ、スライムは調子が悪いのではなく、これまで命の危険を感じて丸くなっていたのが、安心して緊張を解いたような感じがした。
実際のところはもちろんわからない。
「まん丸の方がかわいかったのに」
「今でも十分かわいいよ」
「じっとしてるから、ちょっと持ってみない?」
「危なくないかな?」
「見た目は危なくないけど」
「長谷川くん、持ってみてよ」と、斉藤さん。
ここで俺に振るの? 別にいいけど。
俺はスライムの底と地面の間に両手を入れ持ち上げてみた。
水の塊のようなものだから見た目以上に重かった。
ぽよよんとしたスライムは手袋越しでも癖になるような気持ちよさがある。
「柔らかくて気持ちい」
そう言ったら3方からスライムに手が伸びてきた。
「ほー」
「ううううーー」
「気持ちいいーー」
スライムをわさわさ触りながら3人が3人とも目を細めている。
前回俺の体をわさわさ触った時と同じ目だ。
スライムが少しかわいそうになってきた。
スライムは餌付けできそうだし、こうやってしつこく触られても嫌がっているそぶりはない。
そもそも俺が手で持っているのだから逃げ出せない以上、嫌がるそぶり=脱走などできないので、嫌がること自体出来なかった。
それで結局、このスライム誰が面倒見るの?
3人は何も言わずスライムをなでている。
この雰囲気は俺じゃね?
それでも確認した方がいいよな。
「結局このスライムどうする?」
「連れて帰りたいよね。
でも、うちじゃ飼えないだろうなー」
「うちも無理」
「おなじく」
「長谷川くんのうちはどうなの?」
きたー!
「うーん、……」
「飼えるんだ!」
『うーん』と『うん』は違うんだけど。
「さすがは、長谷川くんだよね」
「そうだね。さすがはBランクだよね」
Bランクとスライムに何の関連が?
俺は何も言い返すことができなかった。
なので俺がスライムを引き受けることになってしまった。
まあ、いいけど。
俺は斉藤さんにいったんスライムを預け、リュックを下ろして受け取ったスライムを中に入れた。
「それじゃあ、行こうか」
「はーい」
「うふふ」
「えへへ」
3人ともなんだかすごくうれしそうである。
面倒見るのは俺なのに。
いや、面倒見るのが俺だからか?
これまでのところあまり収穫はなかったけれど、いろいろ経験できたから良しとしよう。
それから俺たちは渦の反対方向の壁までモンスターを狩りながら歩いていった。
たどり着いた壁はやっぱりただの岩壁でどこの岩壁とも区別はつかなかったが、周囲に人はほとんどいなかった。
「ちょっと早いかも知れないけど、昼にしようよ」と斉藤さん。
ディテクターが使えるようになったおかげでここまでで12個ほど核を手に入れている。
毎度のごとく3人によってぐちゃぐちゃになったモンスターから俺が核を抜き出している。
抜き出した核は全部斉藤さんに渡した。
斉藤さんはリュックを下ろして中から例のカラフルレジャーシートを取り出し地面に敷いた。
みんなもリュックを下ろし、レジャーシートに座って手袋とヘルメットを取った。
それから各自リュックからお弁当と飲み物を出し始めたので、俺もリュックの中をのぞいた。
先ほど捕まえたスライムはちゃんといたのに売店で買ったお弁当のおむすびセットの中身のおむすびがどこにも見当たらない。
破れたラップと発泡スチロールのトレイがおむすびセット2つ分残っていただけだった。
当のスライムなんだけど土色だった色が今は金色に輝いているではないか!
金色になったスライムをいったんリュックの中から出して、他になくなったものがないかと調べたところ、黄色い箱のバランス栄養食が2箱ともなくなって、さらにタオルの中に入れていた金色の核までなくなっていた。
あれって、最低でもうん百万円はしたような。
今さら仕方ないけれど。
スライムがあの金色の核を食べて金色になってしまったのか?
そうに違いない。
幸いにしてチョコレートバーとお茶のペットボトルは無事だったので、俺の昼食はチョコレートバーということになった。
「この子どうしちゃったの?」
「すごい!」
「驚き!」
俺がリュックから出した金色のスライムに斉藤さんたちはお弁当を広げる手を止めて驚いていた。
俺はそれどころではないのだがもはや打つ手はない。
俺はチョコレートバーとお茶のペットボトルを取り出した。
「長谷川くん、昼食チョコなの?」
「うん。おむすび買ってたんだけどリュックの中でスライムに食べられちゃったみたいだ。ついでに黄色い箱のバランス栄養食も食べられてた」
「あー、……。
じゃあ、わたしのお弁当を少し分けてあげるよ」
「わたしも」
「わたしも分けてあげる」
俺は3人からサンドイッチとか、唐揚げとかを恵んで貰った。
「スライムくん、金色になったのは長谷川くんのおむすび食べちゃったからかな?」
「それなんだけど、実は以前見つけていた金色の核をリュックに入れたままにしていたんだ。
いま確かめたところ、それもなくなってた。
スライムが食べて金色になったんだと思う」
「金色の核ってまた高そうなものを」
「この前の虹色の核で驚いた関係で当分売らない方がいいかなって、そのままにしてたんだ。
大きさも虹色の核と同じくらいあったし」
「うわー」
「高そー」
「あー」
みんな少しは同情してくれたようだ。
当の金色スライムはレジャーシートの上でじっとしている。
しかし、こいつの金色の表面はやけにつやがいいなー。




