第23話 秋ヶ瀬ウォリアーズ3、アクシデンツウィルハプン
今日は秋ヶ瀬ウォリアーズの3人と1階層に行く日だ。
ダンジョンセンターの売店で昼食用の買い物をしてから装備を整えた俺は、約束の午前9時の5分前に渦の手前の改札前にやってきた。
そしたら3人は先に来て俺を待っていた。
約束の時間前に到着したのだからなにも問題はないはずだが、精神年齢26歳の俺は一言「おはよう、待たせてゴメン」と、言っておいた。
「長谷川くんおはよう。わたしたちもさっき来たところだから」
定番の返事を斉藤さんからもらった。
「「おはよう長谷川くん」」
合流した俺たちはヘルメットを被り連れだって改札を抜け、手袋をはめながら渦を通り抜けて1階層に出た。
後続の邪魔にならないようすぐに脇によけて話し合いという名の雑談を始めた。
「長谷川くん、ヘルメット、フルフェイス型に代えたんだ。何かあったの?」
「何かってほどのことじゃないんだけど、高校生でBランクは珍しいみたいでじろじろ見られるからこっちにしたんだよ」
「たしかに高校生でBランクって少なそうだものね。
しかもまだ高校1年だし」
「わたしちょっとスマホで調べてみたんだけど、6月末の時点で18歳以下だとBランクはゼロだったよ」と、中川さん。
「それはそうだよね」
「長谷川くんが特別というか、異常なだけなんだと思うよ」
女子から異常って言われてしまった。
異常と言えば異常なのか?
今は夏休みだから高校生冒険者の数は増えてると思うけど俺以外にBランクはまだいないだろうなー。いてもいいけど。
ここ数日フルフェイスのマスクをかぶっていたのでジロジロ見られているような感じはなかったんだけど、今日はなんだか違う。
そうか。
傍から見ると男1人に女子3人。
いわゆるハーレム状態だ。
たしかに3人とも可愛いけど、そこまで他人のことが気になるのかねー。
「今日はどんな感じでいく?」
「少なくともほかの冒険者があまりいないところに行かないと」
「向こうの端の方まで行ってみない? まだ行ったことないし」
「じゃあそうしよ」
向こうの端までの距離は約10キロ。
途中に茂みなんかもあるけど、ゆっくり歩いていっても昼前には到着する。
俺たちは俺を先頭に後ろに3人が付いて歩く形で歩き始めた。
「長谷川くん、この1週間どうだった?
2階層とか3階層に潜ったんだよね?
一度にモンスターが複数出てこなかった?」
後ろから斉藤さんが聞いてきたので、振り返ることもなく答えた。
「出てきたよ。おかげさまでその分儲かったよ」
「そ、そうなんだ」
「単独だと複数モンスターを同時に相手取るのは無理だからと言って、2、3階層での活動はひかえて当分1階層で活動するっていう人が多いみたいなんだけど、長谷川くんはさすがよね」と、今度は中川さん。
「中川さん、よく知ってるね」
「売店とかロッカールームとかでよく聞く話なんだよ」
「ふーん」
考えたら俺って、人の気配は気にしてるけど、人の話している内容なんかほとんど気にしてない。
ダンジョン内だとそれでも耳に入ってくるけど、コンビニとか売店なんかだと全然耳に入ってこないんだよね。
ダンジョンの中だと曲がりなりにも同業者だけど、外だと完全に赤の他人の話だから耳に入ってこないんだと思う。
でも、ダンジョンセンターの売店でも人の話し声を聞かないなー。
30分ほど歩いていたら、だんだん周囲に冒険者の数が少なくなってきた。
1階層の広さは直径10キロのほぼ円形なので75平方キロくらいある。
いくらAランク冒険者の数が多いと言っても人口密度的にはそれほど高くはない。
多く見積もって3万人として、2500平方メートルに1人。だいたい50メートル四方に1人ということになる。
50メートルも離れれば大声でなければ声も聞こえないし、顔の造作も識別できない。
それに、ところどころに視界はもとよりある程度の音も遮る茂みもある。
何が言いたいわけじゃないけど。
俺は積極的にサービス精神を発揮して周囲の気配を探りながら歩いていたんだけど、50メートルほど前方の茂みの中から人の気配を察知した。
それも2人。
モンスターの気配はないし戦いの気配も何もない。
何となく察した俺は茂みから離れるように方向を少し変えた。
「長谷川くん、茂みの中に何かいるようなんだけど」
斉藤さんがただならぬ気配に気付いたようだ。
意外に鋭いな。
ただ、何の気配かは分かっていないようだ。
「長谷川くん、確かめなくていいの?」「確かめようよ」と、日高さんと中川さん。
「いや、止めてた方がいいんじゃないかな?」
俺とすればこう言うしかないよな。
「どうして?」
「いや、ただ何となく」
いくら俺の精神年齢が高いと言っても相手は高1女子。
こういうのってやっぱ説明しづらいじゃん。
後ろの3人は3人とも納得はしていないようだったが、俺の進む方向にちゃんとついてきてくれた。
それでも3人は茂みの方が気になるらしくてチラチラそっちの方に視線を向けているようだ。
気にするな。とも言えない。
そうしたら、前方にカナブンが飛んでいるのを発見した。
気が動転していたせいなのか、俺としたことがカナブンの気配に今まで気づけなかった。
後ろの3人もカナブンに気づいたようだ。
そのカナブンは例の茂みに向かっていることは一目瞭然だ。
どうする俺?
「長谷川くん、カナブン捕まえに行かないの?」と、斉藤さんに言われてしまった。
迷っている暇はなさそうだ。
お取込み中のところにカナブンが突入するのも俺たちが突入するのもそれほど変わりはないのではないか?
いやいや、大きな違いがあるだろう。
とは言っても3人は今にも駆けだしそうだし、俺が他人の心配しても仕方ない。
「行こう」
俺たちは駆けだしてカナブンが飛び込んでいった茂みに突っ込んでいった。
案の定、茂みの中のやや開けたところでお取込み中のところにカナブンが飛び込んでいったようで、2人は大慌てでズボンを上げているところだった。
ただ俺の予想に反して、2人は男女ではなかった。
カナブンを追って茂みの中に入ってきたということをアピールするため俺は腰に差したナイフを反対側の茂みの中に潜り込もうとしていたカナブンに向けて投げた。
ナイフはカナブンの背中にグリップまで突き刺さり、カナブンは動かなくなった。
俺の後ろから武器を携えて現場に突入してきた3人は魔法のごとくフリーズしたあと、すぐに再起動した。
彼女たちは再起動したものの、目当てのカナブンは俺のナイフで既に絶命していて、視線をどこにやっていいのか分からず目を必要以上にキョロキョロさせていた。
2人の男は黙って荷物を担ぎ上げてその場から退散してくれた。
不幸な事故。
犯人は既に死亡しているので大目に見てくれ。




