第22話 3階層4、モンスターハウス
翌日の日曜日。
父さんたちと朝食をとった俺は準備を整え家を出た。
サイタマダンジョンセンター前のダンジョンワーカーがもう開店していたので、そこでフルフェイスのヘルメットを物色した。
視界を遮らず、顔の造作が分かりにくいものを探し、結局、額から鼻にかけてゴーグルになっていて、口にあたる部分に通気用の小穴が並んだヘルメットにした。色は黒に近い濃い灰色だ。
冒険者証で支払っておいた。
サイタマダンジョンセンターの門をくぐったのが8時10分。
金色の核はリュックに入れたまま。
このまま持っていても仕方がないけどどうするか迷っている。
売店で昼食用に昨日と同じおむすびセットを2つと緑茶のペットボトルを2つ買った。
本棟に入り2階の武器預かり所で武器を受け取り、ヘルメットを装備して準備完了。
入り口前に歩いていったら、改札の上の電光掲示板に、2階層、3階層でモンスターが複数同時に現れると注意が流れていた。
俺にとってはウェルカムな話だけど、具体的に何をどう注意するのかはなはだ疑問だ。
改札を通り渦を抜けて1階層に。
階段小屋まで小走りに移動して、そこの改札を抜けたところで冒険者証を防刃ジャケットの中にしまい込み、手袋をして階段を降りていった。
ルンルン気分の俺はそこからスキップするような感じで3階層までやってきた。
好事魔多し、とかいう言葉があるらしいがさすがに3階層に出てくるモンスターに後れを取るようなことはないだろう。
ラノベなんかではモンスターハウスとか出てくるけれど、64カ所ある全てのダンジョンでまだ確認されていないらしい。
あればいいのに。
3階層に下り立った俺は、昨日同様、気配を頼りにほかの冒険者がいなさそうな坑道を選びつつ歩き回っていった。
10分も歩かないうちにほかの冒険者の気配はなくなった。
これで俺は自由だ。
心置きなくモンスターを刈ることができる。
ということで、今日は俺が使える初級攻撃魔術を使ってみようと思っている。
ファイヤーボールも小なら使えるけれど、ここらのモンスターに使えばオーバーキルになってしまうので、今回はウィンドカッター(弱)を使おうと思う。
ウィンドカッターの存在を知らなければ魔術でたおされた死骸だとは気づけないはずだし、これなら素人目だと刃物による切り口と区別できないだろうし。
出てこい、出てこい、モンスター。
いつものおまじないを唱えていたら、モンスターの気配がした。
それも坑道の壁の向こう側というか壁の中からだ。
か・べ・の・な・か・に・い・る
メイスでもって壁を叩き壊したいところだが、俺のメイスではメイスの方が壊れそうだ。
ここはファイヤーボール(小)の出番でしょう。
小と言ってもある程度の威力はあるので、壁が壊れるまで何度も撃ち込めばいいだけだ。
正面に立っていると俺自身はケガしないと思うが、破片で装備が傷みそうなので威力は落ちるけれど斜めからファイヤーボール(小)を壁に撃ち込むことにした。
「ファイヤーボール!」
別に名まえを口にする必要などないけれど気分でファイヤーボールと声に出してみた。
突き出した俺の右手から、野球ボールくらいの白く輝く火の玉が斜め5メートルほど先の壁に当たり爆発した。
向こうの世界ではいたっておとなしい橙色の光だったはずだが、何かが違うようでこっちだと白く光るようだ。
ファイヤーボールの爆発で壁がかなり抉れて大小の破片がそこら中に飛び散った。
俺にも何個か当たったけれど、もちろん何ともなかった。
それから続けて3発ほど白いファイヤーボールを同じところに当てたら、壁が崩れて向こう側に貫通した。
俺はメイスを構えて孔の中に突っ込んでいこうとしたんだけど、壁の向こうの気配がなくなっていることに気づいた。
キャップランプの明るさを強くして穴の向こう側をのぞいたら、5メートル四方程度の空洞の中に蜘蛛の死骸とムカデの死骸がそれこそ無数に転がっていた。
最後の爆発の余波で全滅したらしい。
狭いところで爆発すれば威力は数倍になるというからこういうこともあるのだろう。
ウィンドカッターは使えなかったけど結果オーライ。
俺は空いた孔の縁を蹴っ飛ばして崩し、大きくした孔をくぐって空洞の中に入りナイフを引き抜いてせっせと核の回収を始めた。
核を回収しながら俺はあることに思い至ってしまった。
俺の今の行動を客観的に見たとする。
ダンジョン内に爆発物を持ち込み使用した者がいた。ということではないだろうか?
これって相当まずい。
証拠隠滅が急務だ。
だが、どうやって証拠を隠滅する?
背中に冷たい汗が流れた。
そうか。爆発物を使えば少なくとも窒素酸化物が残るはず。
ファイヤーボールが爆発してもそういった物質はできないし残らないはずなので爆発物が使われた証拠は検出されないはずだ。
どうやって壁に穴を開けたのか考えるだろうが、中からモンスターが湧きだして穴を空けたとでも解釈してくれるんじゃないだろうか。
外側から抉られるように孔が空いているわけなのでかなり飛躍した希望的観測だけど、俺が犯人だと特定されることはないだろう。
問題は核を抜かれたモンスターの大量の残骸だ。
そのうちダンジョンに吸収されるはずだが、数時間はかかる。
その間に誰かがここを通って不自然に空いた孔の中をのぞく可能性は大いにある。
まとめて焼いてしまうしかない。
いや待て待て。
この空洞そのものを崩してしまえば誰も入ってこられないし、何が起こったかすら分からないだろう。
これしかない。
蜘蛛とムカデから核を抜き取った俺は、いったん坑道に出て、そこから空洞の天井に向かってファイヤーボールを文字通り連射してやった。
俺の魔術スキルが知らぬまに上がっていたようでいくらでも連射できた。
ファイヤーボールマシンガンだ。
オズワルドの中級魔術に匹敵するんじゃないか?
20発くらい撃ち込んだら一気に空洞の天井が崩れて、壁の穴も塞がれてしまった。
一丁上がり。
孔から石がだいぶ坑道に転り出ていたけどここはダンジョン。勝手にどうにかなるだろう。
空洞の中で手に入れた核の数は30個ほど。
モンスターハウスさまさまだ。
今回の教訓は、爆発系の魔術をダンジョン内でむやみに使ってはならない。
貴重な教訓を得ることができたし、核もたくさん手に入った。
結果オーライとはこのことだ。
歩きながら考えたんだけど、昨日大ネズミが10匹まとまって出てきたのは、さっきのようなモンスターハウスから飛び出してきたのかもな。
モンスターハウスたくさんあればいいのに。
……。
3階層を徘徊老人のごとくうろうろして昼までにさらに10個の核を手に入れた。
今日は3階層に下りてきて、周囲に冒険者の気配がなくなって以降冒険者に遭っていない。
気分は貸し切りだ。
昼からもどんどん行くぞ!
坑道の壁に寄りかかっておむすびを食べ終わり、少しまったりしてから午後からの狩に向かった。
脇道があれば積極的にわき道に入っていく。
気持ちはモンスターハウスハンターだ!
などと意気込んでみたもののそうそうモンスターハウスが見つかるわけもなく、ちょろちょろと出くわすモンスターをたおしていった。
それでも引き上げの定刻と考えていた午後3時までに12個の核を手に入れることができた。
手に入れたモンスターの核の数が多かったことと、実際面倒だったので、核は核入れ用のケースに入れずにタオルにまとめてくるんでいる。
ここ数日の経験から言って、少々の傷で核の買い取り値段は変わらないようなので、適当でいいだろう。
今日手に入れた核の数は52個。自己レコード更新だ。
モチベは爆上がりだ。
買い取り所での買い取り額は55万円ほど。
これで累計買い取り額は3610万7千円になった。
この日はフルフェイスのヘルメットのおかげか、ほかの冒険者にじろじろ見られることが少なかったと思う。
月、火、水の3日間も3階層まで潜ってモンスター狩りをした。
その間1日平均25個の核を手に入れ、累計買い取り額が3680万4千円になっていた。
なぜか分からないけれど結局金色の核はリュックに入れたままになっている。
明日は斉藤さんたちと潜る日だ。
と思っていたら、斉藤さんから確認メールが届いた。
もちろん問題ないので「楽しみにしている」と返信しておいた。
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主人公は悪人ではありませんが善人でもありません。また本作における残酷な描写ありは保険ではありません。




