第20話 3階層2
俺は勇んで1階層を通り抜け2階層に下り立った。
そこから一度マップを見て3階層に続く坑道を進んでいったが、冒険者の行き来が多いので簡単に3階層に続く階段にたどり着いた。
60段あるという階段を下りた先の3階層は事前情報通りの2階層と同じ坑道型ダンジョン。
出てくるモンスターは2階層のモンスターに大蜘蛛が追加される。
俺は例のごとく人の少なそうな方向に適当に歩いていった。
出てこい、出てこい、モンスター。
とか口の中で唱えながら10分ほど歩いていたら、ようやく前後に人気がなくなった。
実際、Bランク冒険者の数は全冒険者の中の7パーセントにすぎず、Cランクで2パーセント、Dランクで0.3パーセント、そして最高峰のSランクで98人となる。
逆に言えば10人の冒険者のうち9人がAランク冒険者ということになる。
なおCランク冒険者にはダンジョン高校の卒業生が多く含まれる。
人気がなくなったあと少し歩いたところに分岐があったので、そっちに入っていき、さらに5分ほど歩いていたら前方にモンスターらしき気配がした。
俺の願いが叶えられたようで気配は複数。
ウッシッシ。
待ってて逃げられたりしたら大損なので、俺の方からも近づいていった。
俺の感じた気配はやはりモンスターだった。
俺がこのダンジョンで初めて見る大蜘蛛。
胴体の大きさが4、50センチ、足の長さは70センチくらいだろうか。
そいつが3匹俺に向かってきていた。
とはいえ、向うの世界でこんなのとは比べ物にならない大蜘蛛を何度も見てたおしているので、何ということはない。
俺はメイスを握り直し向かってくる大蜘蛛に突っ込んでいった。
3匹の大蜘蛛の頭部に目がけてメイスを流れるように無駄なく叩き込む。
1、2、3。
はい終了。
3匹の蜘蛛はその場で足を閉じ坑道の路面に腹を付けて動かなくなった。
今回も緊張感も何もなく、戦いともいえないただの作業だった。
登場そく退場したこいつらも、俺の糧になるわけだから本望だろう。
まさに勝者のおごり。
ついでに、ウッシッシ。
俺はリュックから昨日売店で買った革製のケースを取り出して床に置いた。
蜘蛛の核は腹の中にあるということなので、俺は蜘蛛をひっくり返していつものようにナイフで切れ込みを入れ、そこから手袋をはめた手を突っ込んで中をまさぐって核をつまみだした。
取り出した核は2階層で手に入れた核ととほとんど変わらない大きさの核だった。
その核を水洗いしてから箱の中に入れた。
残りの蜘蛛からも核を取り出して水洗いし、箱の中に入れて最後に箱をリュックに入れた。
もちろん手袋もナイフも水洗いしている。
核を取り出した大蜘蛛の残骸は例のごとく坑道の隅に蹴り飛ばしておいた。
3匹の大蜘蛛をたおしてからの俺は足の向くまま気の向くまま坑道内を歩き回り、13個の核を手に入れていた。
13個目の核を箱に入れ、箱をリュックに入れてから時計を見たら昼近くになったので、坑道の路面に腰を下ろしておむすびを食べ始めた。
おむすびセットの中のおむすびはしっとり海苔のおむすびで、1つが昆布の佃煮でもう1つが梅干し、もう1つのおむすびセットは、明太子とオカカだ。
巷ではツナマヨなるものが流行っているらしいが俺はそういった訳の分からないものは食べない主義なので、これまでただの一度も食べたことはないし、これからも食べることはないだろう。
お茶を飲みながら、おむすびセットに付いていたたくあんを指でつまんで食べ、あっという間におむすび4つを完食してしまった。
おむすびが小さすぎたのが悪い。
時刻はまだ12時10分。
もう少し休憩してから午後のお仕事を始めよう。
そういうことで、坑道の真ん中で座り込んでいたら、坑道の向こうの方にライトが揺れるのが見えた。
坑道の真ん中に座っているわけにもいかないので、わきによけて坑道の壁を背もたれにして座っていたら、ライトの明かりが近づいてきた。
ライトの明かりは4人組の冒険者だった。
その中のひとりはケガをしているようで左の前腕部に血のにじんだテープを巻いていた。
骨には異常なさそうなので俺のヒールでも簡単に治せるようなかすり傷だ。
こっちの世界ではこれが普通なんだろうけど、この程度の傷で大げさすぎるんじゃないか?
4人は4人とも何も言わない代わりに俺の方をじろじろ眺めながら通り過ぎていった。
高校生冒険者がそんなに珍しいのか?
珍しいんだろうな。
4人が通り過ぎていき明かりが見えなくなったところで俺は立ち上がり、装備を整えて彼らがやってきた方向に歩き始めた。
10分ほど坑道を歩いていたら、さっきの4人組が戦った跡らしいところに通りがかった。
ムカデの死骸が1匹分と大蜘蛛の死骸が2匹分残されていた。
ムカデと大蜘蛛がコラボしたのか。
モンスターもやるもんだな。
大蜘蛛はあの大きさなので坑道の天井に張り付けるとは思えないけれどムカデは天井に張り付けるから、大蜘蛛を相手にしてたら気付かぬうちにムカデが天井から忍び寄って上からさっきのケガをしていた冒険者を襲ったとかな。
どうでもいい想像だけど。
大蜘蛛は原形を留めないほどぐちゃぐちゃで、ムカデの頭は潰されて胴体は寸断されていた。
やり過ぎじゃないかと思ったけれど、秋ヶ瀬ウォリアーズの面々も寄って集ってモンスターを滅多打ちにしてたから、サイタマダンジョン限定なのか日本全国のダンジョンで共通なのか分からないけれどそれが今のトレンドなのかもしれない。
そんなわけないか。
ただ、そんな無駄なことを続けていたら、そのうち大失敗するような気もするんだよな。
たとえば、知らないうちに新たなモンスターが忍び寄ってたり。
俺にはそんな失敗はあり得ないけど、ここの連中なら十分ありそうだ。
そもそも、動画で見る限りSランクの冒険者であれじゃたかが知れてる。
俺は今のところ試していないので勇者時代の全力が出せるかどうかわからないけど、聖剣や魔剣を使わなくても、ここらで適当に狩をしている程度の力でこの前動画で見た20階層のゲートキーパーくらい簡単にたおせるもの。
事件現場を通り過ぎ、適当に坑道内を進んでいたら、またモンスターらしき気配を前方に感じた。
大群で襲ってくれー!
俺は逃げも隠れもしないぞー!
そうだ! 俺がここにいることをアピールするためキャップランプの光量を最大にしておこう。
いままで眩しいから光量を抑えていたけど、早く気づけて良かった。
気配はだんだん大きくなり、俺に近づいてきた。
見えてきたのは集団大ネズミ。
10匹はいる。
願いは叶った!
俺は大ネズミの集団に突っ込んでいってメイスを振り回していった。
振り回すといってもオーバーキルにならない程度の力でメイスをネズミの頭部にヒットさせ一撃でたおしている。
これくらい低レベルのモンスターだと、何匹いようが何の問題もない。
ただの作業だ。
5秒もかからず大ネズミを退治して、順に核を抜き取っていった。
抜き出した核は洗ってケースに入れる。
それを10回繰り返して作業終了。
大ネズミの死骸は邪魔にならないように坑道脇に投げ捨てる。
3階層は2階層より濃いみたいだ。
ありがたやー、ありがたや。