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第199話 中村結菜


 やかたでの食生活を改善しようとうちの近くの総合スーパーで買い物をしたところ、量が多くなったので一度清算しようとレジの列に並んでいたら結菜にあった。


 結菜はテニスを辞めたいと言う。

 何かあったのかと思って話を聞くため、精算を終えた俺は結菜とテナントに入っているバーガーショップに入った。


 ある程度話を聞いたところで、俺が日本でただひとりというか世界でただひとりのSSランク冒険者であることを結菜に話した。そして俺が少なくとも100億はダンジョンで稼いでいることも教えた。


 それで結菜は現在進行形で固まっている。

「おい、大丈夫か?」

「う、うん。大丈夫」

「このサンド、結構おいしいから食べた方がいいぞ」

「うん」


 結菜がサンドをかじってコーラを一口飲んだ。

「そういうことなんで、ある程度の無理もきくから、頼ってくれていいからな」

「一郎、ありがとう。

 決めた。わたしテニス辞めて冒険者になる」

 少しだけ、結菜の表情が明るくなったような気がする。


「それはそれで良いんじゃないか。それも人生だし。

 だけど、おじさん、おばさんはいいのか? ふたりともお前のテニスに期待してたんじゃないのか?」

「期待はしていたかもしれないけれど、さすがにお父さんもお母さんもわたしのことをプロにしたいとかそんなことは思っていないからそこは大丈夫」

「ならいいけどな」


「それで冒険者になるには試験があるんだよね」

「試験と講習で2日間。試験は運動試験だけだ。内容は50メートル走10秒以内、かつ反復横跳び20秒で40回以上。高校生なら病気か障碍でもない限り受かる。

 講習は10時間あるけど椅子に座って聞いていればいいだけだから心配はいらない。

 心配なのは費用だ。試験と講習料で2万。ほかに防具と武器が要る。

 防具は値段の幅はそんなにないし、品質の差もあまりないけど、武器の方はピンキリだ。

 Aランクの1階層やBランクの2、3階層ならそこまで良い武器は必要ないと思う。

 俺は防具と武器をそろえて全部で8万かかった。だから試験関係の2万を足して10万かかった」

「それなら貯金で何とかなる」

「それはよかった。俺は半分父さんに借りた。すぐに返せたけどな。

 Bランクまで出てくるモンスターの数は通常1匹だからひとりでも問題ないと思う。だけど女子ひとりだとへんな冒険者とトラブルが起こるかもしれないからそこはキツイかもしれない」

「分かった」

「俺の場合は運よくBランクに成れたからその先もとんとん拍子に進んでいったけれど、一番きついのはAランクのときだ」

「どういうこと?」

「Bランクに成るための1千万円の壁がすごく高いんだよ。

 直径10キロの1階層の中にすごい数の冒険者がいてモンスターを血眼ちまなこなって探してるんだ。1日朝から晩まで歩き回って数万円の稼ぎ。年間100日潜ったとして1千万稼ぐには何年もかかる」

「それでも、やり続ければBランクには成れるんでしょ?」

「もちろん成れる。稼いだ金はダンジョンセンターで集計されていてそれが減ることはないから、続けていれば早い遅いは個人差だが必ず成れる。

 俺の担任の先生もBランクの冒険者だ。

 ダンジョンセンターのホームページに試験のことは詳しく載ってるし、試験の応募フォームもあるから一度見てみなよ」

「分かった」



 サンドも食べ終えて飲み物も飲んだ俺たちは席を立った。

「一郎はこれからどうするの?」

「まだ買い物が終わっていないからもう一回りするつもりだ」

「そう。わたしは特に買う物なかったけれど暇つぶしに来てただけだからこれで帰って冒険者についてちゃんと調べてみる」

「そうか。それじゃあな」

「うん。おごってくれてありがと」

「ああ」


 結菜が冒険者か。Aランク冒険者ならケガの心配はまずないから大丈夫だろ。


 俺は帰っていく結菜の後ろ姿を見送り、またカートを引き出して食料品売り場を回った。

 買い残しているのはミアのお菓子関係だ。勉強したご褒美だな。


 お菓子売り場にカートを押して向かっていたら、カレー、シチューと書かれた札が天井からぶら下がっていた。

 カレーを忘れてた。

 さっそくカレーのルーを何箱かカートに入れた。うちは辛口なので何気なく辛口を選んだのだが子どものミアも食べることを思い出した。

 甘口を買わないといけない。

 辛口の箱を戻して甘口の箱を何箱かカートに入れた。

 ハヤシライスの素がカレーの隣りに並んでいたのでそれも何箱かカートに入れておいた。

 そういったものが並んだ一画の中をカートを押していたらスパイスを売っていた。

 甘口についてちゃんと食べられるか心配だったけど、追加のカラミを振りかければある程度俺でもおいしく食べられるブツができるのではないか?

 俺は並んだスパイスを一つ一つ手に取ってその説明を読んでいった。


 ガラムマサラなる混合スパイスが後付けで辛みを増すのに最適なスパイスのような気がしたので、小さな缶だったがひと缶カートに入れた。


 一安心した俺はお菓子コーナーに回った。

 スナック菓子などもたくさん並んでいたが、そこはスルーしてチョコレートの一画に向かった。


 俺は食べたことがあるチョコもないチョコも適当にカートに入れていった。

 そのあと、袋に入った飴を何袋かカートに入れておいた。

 ミアが虫歯になったらかわいそうだから、甘いものを食べたら歯磨きさせるようソフィアに言っておかないとな。ポーションでなんとかなりそうだが、それに頼ってしまうのも違うし。

 次に煎餅類を何種類かカートに入れた。

 煎餅をカートに入れているうちに緑茶を買うことを思い出した。

 インスタントコーヒーのあった辺りに置いてあるだろうとそっちにカートを押していったらちゃんと緑茶を売っていた。

 値段を見てある程度高い緑茶を選んで何袋かカートに入れた。

 こんなところかな。緑茶を飲むには湯呑があった方がいいが、ティーカップでもいいだろう。

 買い忘れがまだあるかもしれないが、俺はカートを押してレジに並んだ。

 少し時間がズレただけなのにさっきより列が長かった。

 15分ほど黙って並んで精算を済ませてから荷物台で買った物をリュックに入れ、カートを返した。


 待ち時間というのは基本的に人生のロスタイムだと思うけれど、その分試合は延長されない完全なロスなんだよな。

 こういったロスタイム分を集めて寿命の最後にくっ付けられるようなアイテムがあったら売れるだろうなー。名づけてロスタイムリサイクル。


 下らないことを考えながら店を出た俺は人目の少なそうなスーパーの脇の小路に歩いていって屋敷の書斎に転移した。


 そこでリュックを置いて、タマちゃんにスーパーで買った商品を机の上に並べていってもらった。


 机が大きいからかなりの量が置ける。今回買った物も全部机の上に置けた。

 呼び鈴を鳴らしてアインがくるまで改めて机を見た。


 大きい上にものすごく重そうで、人が数人乗ったくらいではびくともしそうにない。

 この机だけでひと財産だ。と、思う。


 タマちゃんなしに俺の2階の部屋に入れるにはクレーン車が必要なレベルだし。言ってみればピアノのようなものだから、俺の部屋に入れたら床が抜ける危険性もある。


 とはいえこの執務室、間口で6メートル、奥行きで10メートルはあるので大きな机だけどそれほど場所を取っていない。

 よく考えたら60平米といえばちょっとしたマンションだ。隣の寝室は10メートル四方、100平米のハズ。とんでもない広さではある。

 などと机のことで要らぬことを考えていたらアインがやってきた。


「ご用でしょうか?」

「和食の食材を買ってきた。料理本にも載ってるだろうから使い方は分かるだろ?

 まずは、これがお茶だ。緑のお茶だから緑茶だ。和食の時出してくれればいい。

 それでこの箱とこの箱は料理の材料になるんだが箱に書いてある作り方を読んで適当に作ってくれ。この缶に入っているのはスパイスで、辛みを増すものだ。買ってきたこっちの箱、カレーというんだが、ミアの口に合わせてあまり辛くないものを選んだ関係で俺の口には合わないから、カレーを俺に出すときにはこの缶も一緒に出してくれ」

「承知しました」

「後の物は全部お菓子だ。ミアが勉強とか運動で頑張ったら褒美に与えてくれ。

 甘いものばかりだから、食べた後は忘れず歯磨きするよう指導してくれ」

「了解しました」


 一度アインは書斎から出ていって、台車を持って帰ってきた。

 アインは机の上から台車の上に荷物を移して「食糧庫に納めておきます」と言って部屋から出ていった。



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