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第195話 シュレア2


 シュレアの街のダンジョンギルド前に俺たち5人は現れた。

 ギルドにはそれなりの数のダンジョンワーカー(ぼうけんしゃ)たちが出入りしていた。


 今回もいきなり現れた俺たちを注目する者はなぜかいなかった。

 今では転移の仕様と思っているのだが、誰かの近くに現れたことは何回もあったはずにもかかわらず、いままで騒がれたことは一度もない。

 実際は騒がれていたのかもしれないが、少なくとも俺はそれを認識してはいない。


 太陽の高さからいってここの時間と、日本時間や館の時間は近いような気がする。

 まだこの時間だと少し早いかもしれないが、この街が何時から活気付くのか分からないので運が悪ければ本屋はまだ開いていないかもしれない。


 その前に、この街に本屋がある前提でやってきたのだが、この街に本屋がなければ方針を変えなくてはならないので、まずは本屋があるかどうかをミアに聞き、あるなら案内してもらう。という方針でいこう。


 邪魔にならないようギルドの出入り口から移動したところで、本屋を知らないかミアに聞いてくれるようソフィアに頼んだ。


 ミアに向かってソフィアがムニャムニャ言ったらすぐにミアがムニャムニャ返事をした。

「どこにあるのか知っているから案内してくれるそうです」


 やはり文明がある程度発達したところには本屋はあるんだな。

 俺は被り忘れていた白銀のヘルメットをリュックの中のタマちゃんに渡してもらって被っておいた。


「じゃあミアを真ん中にしてカリンとレンカ3人が前を歩いて、俺とソフィアが後ろを歩こう」

 ソフィアが俺の言葉を通訳してくれた後、ミアがカリンとレンカを連れて通りを歩き始めた。

 3人の後ろを俺とソフィアが付いていく。

 歩き始めた方向は前回俺が歩いていった方向の逆、南向きだった。


 大通りの中央は2車線分を馬車が行き来していて、その両脇が明確ではないが歩道的な役目を担っている。信号や横断歩道のようなものはどこにもないので、通りの横断はそれなりに危険だ。左折や右折の馬車が止まってしまい、大渋滞になることもあるみたいだ。


 道をふさぐ馬車を都会だなーとか思って避けたりして10分ほど通りを歩いていたらミアが立ち止まった。

 本を開いたような絵が描かれた結構年季の入った木の看板が通りに向かってぶらさがっていた。


 もう店は開いているようだったので、5人で店の中に入っていった。

 俺がいたあの世界では本屋に入ったことがなかった関係で、俺の頭の中ではこの世界の本屋と日本の本屋との違いは並べてある本の違いくらいかと思っていた。

 しかし、臭いからして違っていた。


 何というか、店の中には少し酸っぱいような変な臭いが充満していた。カビなのか?

 大きな棚に大きな本が並べられているのだが、どの本も革の装丁で古びた感じがする。

 本屋は本屋なのだろうが古書店、それも稀覯本きこうぼん専門の古書店と言った方が雰囲気は近いのかもしれない。


 店の中に客は数名。どの客も身なりがいい。


 そしてどの本もそうとう高価に見える。

 俺の持ち金は金貨349枚。少し心配になってきた。

 それでも必要な本を購入したい。もしお金が足りないようならまたダンジョンギルドに行って何かを売ればなんとかなるとは思うが。


 取りあえずソフィアに必要そうな本を選ばせよう。

「ソフィア、ミアのためになるような本を探してくれ。

 ところで、ソフィアはミアの国の文字は読めるんだよな?」

「ミアの記憶が元に成っていますので、足りない部分はもちろんあります」

 ミアって言っては悪いが浮浪児だったと思うが、文字が読めるってことはある程度の教育を受けていたってことだよな。

 そのうちその辺りをミアに聞いた方がいいのか、悪いのか?

 判断に迷うが、それを知って何がどうなるわけではないだろうから聞かないでおくか。


「この国の言葉の読み書きを補える本も必要だな」

「はい。そういった本も探してみます。必要な本を選ぶのは店の店員にたずねますから大丈夫です」


 俺がソフィアと話している間、遊んでいるってわけでもないようだがミアたち3人は店の中を眺めながら歩き回ってた。


 ソフィアは店員らしき男を見つけて、文字や言葉の説明が載っている本と、この国の常識のようなものが載っている本がないかと聞いていた。


 店員はソフィアを連れて店内を移動していったので俺もふたりについて歩いた。

 そして店員が梯子をかけて本棚の上の方から1冊の本をソフィアに手渡した。

 その後も同じように店内を移動してソフィアに2冊の本を手渡した。

 その3冊しかなかったようなのでソフィアに値段を聞くように言ったところ、3冊合わせて、王国金貨52枚だった。

 この前軽食屋で食べたパンケーキセットの値段から考えて金貨1枚4万円と想定していたから金貨52枚だと208万円。

 本の見た目はすごく高そうだったけれども思ったより安かったが、3冊で208万円はやっぱり十分高価だ。


 俺はリュックの中のタマちゃんから金貨25枚が束ねられた筒をふたつとバラの金貨を2枚出してもらい、それを店員に渡した。

 受け取った3冊の本はリュックに入れタマちゃんに収納してもらった。


「ソフィア。本はこんなものでいいんだな」

「はい」

 そのころにはミアたちも俺たちの所に戻ってきていたので本屋を後にした。

 残金は金貨300枚弱と小銭だ。


 これで用事が終わった。

 俺は海が見たかったので、ソフィアに通訳させてミアに港に案内してくれるよう頼んだ。


 今度もミアたち3人を前にして俺とソフィアが後をついていく形で歩いていった。

 港の方向は思っていた通り東側だったので、馬車に気を付けて通りを横断し俺たちは東西に走る通りを東に向かった。


 東に向かって通りを10分くらい歩いていたら何となく潮の香りのようなものが漂ってきた。

 この世界の海の水も塩辛いと先入観から勝手に思っていたが、やはり塩辛そうだ。


 その辺りから通りにゴミが目立つようになり、通りに面した建物もみすぼらしくなってきた。

 通りを行き来する人の着ているものをもどことなく薄汚れているし、目つきもすさんだ感じがする。

 しかも、俺たちの後ろを数人の男たちが歩いているのだが、俺たちはミアの速さで歩いているのに追い越そうとしていない。

 俺たちの後をつけている可能性が高い。


 ミアもいることだし、ここで騒ぎを起こしたくはないので引き返しても問題はない。

 港の方向は分かったので俺ひとりでまた来ればいいだけだ。


「ソフィア、この辺りは治安が悪そうだから港に行くのは中止しよう。ミアに行きたい所があるか聞いて、行きたいところがあるならそこに行こう。もし行きたいところがないようなら館に帰ろう」


 このことを、前を歩くミアにソフィアが聞いたところ、特に行きたい所はない。と、ミアが答えたので館に戻ることにした。


 俺たちが話をして立ち止まったら、後ろの男たちが近づいてきた。そして前方からも似たような連中が向かってきた。


 相手にしても仕方ないので撤退だ。

「それじゃあ、みんな俺の手を取ってくれ」

 その男たちのほかにも通りには人がいたが、気にせず4人が俺の手を取ったところで館の書斎に転移した。

 

 書斎に帰ったところで、リュックの中のタマちゃんから3冊の本を出してもらいソフィアに渡した。


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― 新着の感想 ―
「な、何を言ってるのかオレにもわからないが、見たままのことを言うぜ」と状況説明しても、「酒のツマミにもならねぇネタだな!」と、バカにされる。だって、聞くほうもチンピラだから(笑)
チンピラは信頼がないから能力を見せても問題ないというのは斬新な考え方だなぁ
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