第17話 2階層3、ある女性冒険者
わたしは大学時代冒険者サークルに入りそこで冒険者資格を取った。
大学を卒業して社会人になってからも休みの日には欠かさずダンジョンに潜りコツコツと実績を積み上げていった。
そういった生活を6年ほど続けていたのだけれど、1年前会社で問題が起き主任になったばかりのわたしが責任を取らされる形で処分を受けた。
会社に嫌気がさしたわたしは会社を辞め専業の冒険者になった。
さすがに1人では心もとなかったので、大学のサークルで仲の良かった数人に声をかけた結果、小田雄二と木村和也の2人が一緒にやろうと言ってくれた。
3人でサイタマダンジョンの1階層で活動を続けた結果、多少の前後はあったけれども3人とも3カ月前Bランクに昇格できた。
わたしは1階層ではメイスを使っていたんだけどやはり非力だったせいで威力不足だった。
Bランクに昇格したのを機に武器をクロスボウに変更することにした。
クロスボウはわたしに合っていたみたいで、すぐに武器になじむことができた。
もちろん100発100中ってことはないけど、10メートルくらいの的なら動いていても9割は命中するようになった。
今日も3人で2階層に潜り、モンスターを求めて他の冒険者のいなさそうな坑道を進んでいた。
そうしたら、前方からモンスターの足音が聞こえてきた。それも複数だ。
2階層ではモンスターは単体で現れると聞いていたしこの3カ月もその通りだったが、現に複数で現れた以上現実を受け入れないといけない。
2階層に現れるモンスターはスライムと大ムカデと大ネズミの3種類なので、はっきりと足音がするということは大ネズミだ。
雄二と和也が槍を構える中、わたしはクロスボウに素早くボルトをつがえて大ネズミが近づいてくるのを待った。
キャップランプの明かりの中で大ネズミの目が6つきらめいた。
3匹もいた。
わたしは自分の間合いと考えている10メートルラインに最初に突っ込んできた大ネズミに向けてクロスボウの引き金を引いた。
ボルトは大ネズミにかすっただけだけで大ネズミの動きを止めることはできなかった。
すぐに次のボルトをつがえようとしたけれども、大ネズミは3匹ともすぐそこまでやってきていた。
雄二が実質武器を持たないわたしを守るように立ち、和也が1人で3匹の相手をするような形になった。
わたしは慌ててしまい、ボルトをなかなかクロスボウにつがえることができなかった。
それでもなんとかボルトをつがえたわたしは大ネズミにボルトを撃ち込もうとしたんだけど大ネズミの動きが素早い上に、近すぎて撃つことができなかった。
なんとか1匹目の大ネズミを和也がたおしたあとは雄二も大ネズミに対することができるようになりスムーズに残り2匹をたおすことができた。
大立ち回りだった和也は戦いが終わったあとその場にへたり込んでしまった。
わたしはそんな和也にリュックから取り出した水の入ったペットボトルの蓋を開けて手渡した。
3人でホッとしていたら、近くからライトで照らされた。
すぐ近くまで冒険者が近づいていたのだ。
全然気づかなかった。
その冒険者は光量をかなり絞っているようでライトは眩しくはなかった。
そのおかげでその冒険者の顔がはっきり見えた。
その冒険者の横顔はどう見ても高校生。それも高1か高2の男子。
「高校生? Bランクの高校生……」と呟いていた。
彼はわたしたちの方をチラッと見ただけでそのまま歩き去っていった。
その高校生冒険者の後を何となく眺めていたら、急にメイスを構えて走り出した。
なに?
そう思って見ていたら高校生冒険者の姿が文字通りブレた。
同時に変な音がして高校生冒険者はメイスを腰に戻して、その場にしゃがみ込んだ。
そしてその場で作業を始めた。
どうも大ネズミらしい死骸から核を抜き取っているようだ。
彼は核を抜き終わったらしい死骸を坑道の脇に放り投げていた。
大ネズミ1匹、核が無くても5千円で売れるのに。と思ってしまった。
大ネズミは1匹ではなかったようで高校生冒険者は作業を続けた。
結局大ネズミは6匹もいたようだ。
わたしと同じようにその高校生冒険者の姿を眺めていた雄二たちもあっけに取られていた。
「一瞬で大ネズミ6匹たおしたってことだよな?」
「そうなんだろうな」
「あいつ、高校生にしか見えなかったよな?」
「俺は顔は見てないんだ。
高ランクの童顔冒険者だったとか」
和也はへたり込んでいた関係で彼の顔を見ていなかったらしい。
「いやー、あれはどう見ても高校生だったよ」
「顔のことは置いておいて、動きだけを見たら高ランクの冒険者だよね」
「動画で見るSランクの冒険者なんかよりすごくなかったか?
俺には動きが見えなかったぞ」
「わたしも見えなかったけど、青いネックストラップが見えていたからわたしたちと同じBランクなのは確かよ」
「Bランクだって成るには1千万稼いでいないと成れないんだぞ。
いくら凄くても高校生が1千万稼ぐなんてあり得るか?」
「普通じゃあり得ないだろうな。
でもさっきの動きは普通じゃなかった」
「それは言えるけどな」
「世間は広いってこと。
なにも役に立たなかったわたしが言うのもおこがましいけど、わたしたちも頑張ろ」
「チームなんだから気にするなよ」
「そうだぞ」
「2人ともありがとう。
そろそろ大ネズミを解体しよ」
「そうだな」
「あの冒険者が投げていった大ネズミはどうする?」
「あれはどう見ても捨てていったから貰ってもいいんじゃない。
リュックに入るだけ貰っていったん換金しに上がろうよ」
「そうだな」
3人で3匹の大ネズミを解体していった。
核はひとつずつ布に包んでリュックに入れ、大ネズミは首を落として血抜きをしながら皮をはいでビニールシート製の袋に詰め込んでからリュックに突っ込んだ。
大ネズミの解体を終えたわたしたちは、高校生冒険者が投げ捨てていった大ネズミのところにやってきた。
坑道脇にあった大ネズミの死骸は6匹とも頭蓋をきれいに割られていた。
もちろん胸には核を抜き取った傷跡があった。
「一瞬でこれかよ」
「すごいな」
「水が広がってるけどスライムもいたのかな?」
「これは持ってきた水で手を洗ったんじゃないか」
「重たい水を運んで手を洗うなんて、普通そんなことする?」
「普通はしないけど、そもそも普通じゃないから」
「それもそうね。考えても無駄よね」
大ネズミの体重はだいたい20キロ。リュックの中に2匹入れるのが精いっぱいだ。
わたしたちはまた1匹ずつ解体してリュックに詰めた。
もったいないけど3匹はそのままだ。
「帰ろう」
「ああ」「そうだな」
大ネズミでずっしり重くなったリュックを背負ったわたしたちは1階層への階段に向かって歩いていった。
もちろん迷うようなことはない。
道すがら、思っていたことを2人に話した。
「わたしクロスボウの他に近接武器も用意した方がいいよね」
「そうだな」
「慣れてるから、メイスがいいよね」
「そうだな」
そういうことでわたしは次回からクロスボウとメイスを装備することにした。
しかし、あの高校生冒険者は何者だったんだろう。
わたしたちの相手した3匹だって異常だと思ってたんだけど、この2階層で大ネズミが一度に6匹も現れたなんて聞いたことがない。
うちに帰ったら、サイタマダンジョン専用掲示板に書き込んでみるか。
 




