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第16話 2階層2、ルンルン気分


 2階層に下り立った俺は勘だけでほかの冒険者が少なそうな坑道に向かって歩き始めた。

 適当に歩いても、俺の方向感覚と位置感覚はそれなりに優れているので迷うことはまずない。と、思う。

 もし迷ったとしても曲がり角や分岐には位置を示す石の標識が置かれているので遭難することはない。


 事前情報によると2階層で現れるモンスターはスライムと大型のムカデと大ネズミの3種類。

 核はムカデだと頭部で、大ネズミだと胸の辺り。

 俺とすればモンスターは団体で現れていただきたいのだが、2階層ではいずれも単体で現れる。とのこと。

 それと、大ネズミの肉は買い取り所で買い取ってもらえる。だいたい1匹丸ごとで5千円ちょっと。

 持ち帰るにはビニールシート製の袋が必要で、それはモンスターの肉類専用の買い取り窓口で貸してくれるらしい。

 大ネズミ1匹の重さは20キロほどあるそうなので俺はパスでいい。



 前方にキャップランプの明かりは見えないので誰もいないようだ。

 これなら心置きなく魔術も使える。


 しばらく歩いていたら、モンスターの気配がした。

 俺は腰に下げたメイスを手に持って用心しながら歩いていたところ、俺のキャップランプの光に照らされて明るく光る目が2つ見えた。

 大ネズミだ。

 大ネズミは俺の方に走ってきた。

 向かってきてくれると手間が省けて助かる。


 2メートルほどまで近づいてきた大ネズミが俺の顔目がけてジャンプした。

 俺は一歩横に動いて空中を移動中の大ネズミの頭に向かってメイスを叩きつけた。

 パコン。

 大ネズミは頭蓋を陥没させて坑道の路面にドシャリと落っこちた。

 一丁上がり。

 大ネズミは鼻からしっぽの付け根までで60センチくらいあり、しっぽの長さもそのくらいあった。

 大ネズミの口の大きさはそこまで大きくはなかったが、防刃ジャケットの袖あたりの生地は比較的薄いので大ネズミの歯が貫通することがあるそうだ。

 幸いダンジョンの大ネズミは変な病気を持っていないようなのでケガだけで済むらしい。


 俺は大ネズミをひっくり返してナイフを胸に突っ込み肋骨を数本断ち切って切れ込みを入れ、手袋をした手を胸の中に突っ込んでまさぐり核を取り出した。

 大ネズミの核の大きさは大き目のビー玉といった感じで1階層のビー玉よりは確かに大きいのだがそれほど差はないと思う。それでも買い取り値段の方はだいぶ高くなり1万円近くするらしい。


 大ネズミの胸の中に突っ込んだ関係で血で汚れた手袋と核はウォーターの魔術で作りだした水で洗っておいた。

 俺にとって用の無くなった大ネズミの死骸は坑道脇に放り投げておいた。

 講習でも習ったがこういった有機物は数時間でダンジョンに吸い込まれてしまうそうだ。

 排泄物も同じように吸収されるのでダンジョンの中が汚物で汚染されることもない。

 これもダンジョンあるあるだな。


 大ネズミをたおしたところから少し歩いたら分岐があった。

 手前に石の標識があったので、現在位置をスマホで呼び出したマップにタップしてチェックしておいた。

 俺の方向感覚と位置感覚に合致していたので一安心だ。


 分岐を曲がらずまっすぐ歩いていたら、前方に複数の気配を感じた。

 そのまま進んでいったところ激しく揺れる3つの明かりが見えた。

 3人がかりでモンスターと戦っているようだ。


 彼らの顔もどういったモンスターと戦っているのかもまだ見えないが、事前情報と違ってモンスターが複数いたようだ。

 そのせいか3人はそれなりに苦戦している。

 2階層で苦戦するのもどうかと思うが、現に苦戦している以上それなりのモンスターが出たのだろう。


 近くから様子を見てみたいが横取りと勘違いされてはトラブルのもとなので、少し離れたところから観戦するとしよう。


 俺はキャップランプを消して50メートルくらいまで現場に近づいた。

 槍を持った男2人にクロスボウを持った女1人の3人チームで3匹の大ネズミと戦っていた。

 接近戦にクロスボウは邪魔なだけなので、女は1歩下がり、男1人が女をガードして、女に大ネズミが近づかないようにしていた。


 大ネズミと戦っているのは実質男1人なので、動きの比較的速い3匹の大ネズミに苦戦している。


 体感で5、6分ほどしたところでようやく戦いが終わり、大ネズミと苦戦しながらも戦い続けていた男はその場にへたり込んだ。

 ご苦労なことである。

 ここでたおした大ネズミをどうするのか分からないが、少なくともある程度の休憩はするだろう。

 そう思った俺はキャップランプを点けて連中のところまで歩いていきそのまま通り過ぎた。


 その時、ペットボトルのキャップを取ってへたり込んだ男に水を飲ませていた女と目が合った。

『高校生? Bランクの高校生……』と呟くのが聞こえた。


 16歳から冒険者免許が取れるようになったのは今年からだし、1千万円稼いでる高校生は少ないはずだもの。驚くのは当然か。

 免許センターの更新窓口でも驚いていたしな。

 この女も2人の男も1千万円以上稼いでいるわけだから素人ではないはずだけど、たかが3匹の大ネズミで苦戦していた。

 これでいいのかダンジョン行政?



 3人を通り過ぎて少し歩いたところで前方に複数のモンスターの気配を感じた。

 気配はこっちに向かっている。

 あまり今の3人の近くで戦いたくはなかったので俺の方からも近づいていった。


 近づいてきたのはこれも大ネズミだった。

 数は6匹。

 大漁だ。

 俺の願いが見えないお星さまに届けられたらしい。


 2階層で6匹も一緒に出てくることはそうとう珍しいんじゃないかと思うけど、俺にとっては多ければ多い方がいい。


 さあこい!


 俺は大ネズミが飛びかかってくる前に6匹の中に突っ込んでいき最初の一振りで3匹の大ネズミを仕留め、返す一振りで残りの3匹の大ネズミを仕留めた。

 慢心する気はないが、さっきの3人こんなのに苦戦してて大丈夫か?

 後ろを振り返ったら、キャップランプの明かりが3つ見えた。

 3人とも今の俺の戦いともいえないような戦いを見ていたようだ。


 俺はメイスを腰に戻してナイフを鞘から取り出し、大ネズミの胸に切れ込みを入れて手を突っ込み順に核を抜き出していった。

 核を抜いた大ネズミの死骸は最初と同じように坑道の脇に投げ捨ててやった。

 手に入れた核は全部で7個。これでだいたい7万円。

 なかなかハイペースだ。 

 渦からダンジョンに入ってまだ1時間だ。

 時給7万円。割のいいアルバイトだ。


 これもそれも昨日のレインボースライムさんのおかげだ。

 ありがたやー、ありがたや。

 俺の方をさっきの冒険者がまだ見ているようだが距離もあるのでウォーターの魔術で手袋と核を洗っておいた。

 俺はルンルン気分でその場から去っていった。



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