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第156話 SSランク。果樹園


 要塞の備品も増えてラシクなってきた。

 窓がないのが心配なのだが、天気はいつもいいし、ここは1階層同様雨が降らないのかもしれない。


 次に本格的に潜れるのは来週の土日連休になる。

 土曜は免許センターに行って冒険者証をSランクからSSランクに切り替える予定だ。

 センターが開くのは9時なので、それに合わせてうちを出ることになる。



 週が明けた。

 俺の体も精神も高校への通学と授業、そして宿題程度では全く疲れないので息抜きなど実際のところ必要ない。

 それでもうちに帰って宿題を済ませた後は20分ほど要塞に転移して、池の周りを散歩したりしてまったり過ごした。

 充実した生活だ。


 最近父さんの体調がいいらしい。腹の周りの脂肪も落ちてきたそうだ。

 父さんは眼鏡をしてはいなかったが、今回会社で行なわれた健康診断の視力検査で、それまで0.8と0.6だった視力が両眼とも1.5あったようだ。

 健康診断の血液検査の結果は来週あたり返ってくるという話だ。

 父さんはうちでは毎日俺が持ち帰った効能果物と効能野菜を食べ『治癒のお湯(**)』で淹れたお茶を飲んでるので、俺はかなりいい検査結果が出ると思っている。




 そして待望の土日連休初日の土曜。

 今日はSランク冒険者証をSSランク冒険者証に切り替えだ。

 タマちゃんはいつものようにリュックの中。フィオナもリュックのポケットの中に入っている。

 

 装備を整えた俺は免許センターが開く9時の10分前にセンターにやってきた。

 免許センターのシャッター前に並んで待っている連中のほとんどというか全員が私服だった。

 免許を取りに来た新人だろう。初々しいのからそうでもない者までいろいろだ。


 初心者以前の連中をなんとなく見ていたらほほえましく思えてきた。

 頑張れよ。心の中でだけだがエールを送る。

 これも心に余裕があるからだな。

 季節も良くなってきたせいかセンターの前で待ってる人数が多いような気もする。

 いいことだ。


 俺がそうやって新人たちを横目で見ながら彼らの横をすり抜けてシャッター前に張り付いていたら、後ろからきつい女子の声で話しかけられた。

「あなた、ちゃんと並びなさいよ」

「何に?」

「ダンジョン免許講習のよ」

「俺は免許取りに来たんじゃないんだが」

「じゃあ何よ」

「昇格したから免許証の切り替え」

「何嘘ついてるのよ、あなたどう見ても高校生じゃない。

 Bランクってね、1千万円分ダンジョンで儲けていないと成れないのよ」

「Bランクはそうだな」

「だから早く後ろに並びなさいよ」

「だからって、だから俺は免許証の切り替え。免許取得じゃないって言ってるじゃないか。

 それに、何番目に入ろうが免許試験には関係ないだろ」

「あなたみたいな横入りする人がいるから満員電車が混むのよ」

 それとこれがどう関係するんだ?


 俺は面倒くさくなったので、ネックストラップを引っ張り上げて防刃ジャケットの内側に入れている冒険者カードをその女子に見せてやった。

「ほら! これで分かったろ!」

「これって偽物まるわかりじゃない。

 金色の免許証はSランクの免許証。

 あなた、何も知らないのね」

 何だか疲れてきたよ。

 俺は仕方なく免許を取りに来た連中の最後尾に並んだ。


 何だかなー。


 Sランクの免許証を見せても偽物と言われたのだが、これがSSランクともなると誰が信じるんだ?




 前回と同じく9時5分前に免許センター入り口のシャッターが上がり始め、9時ちょうどに玄関の自動扉が開いた。


 先ほどのうるさい女子が先頭に立って免許を取りにきた連中が扉を通って順に中に入っていく。

 俺は彼らの後ろをついていき、扉を抜けたところで昇格手続き窓口に駆けていった。

 後ろから「あなた何やってるのよ!」ってあの声が聞こえた。

 知らんがなー。



「お願いしまーす」

「長谷川さん、お待ちしていました。

 SSランク昇格おめでとうございます。

 SSランク冒険者は長谷川さんただひとりです」

 顔写真を撮って5分ほどでSランク冒険者証とカードケース、そしてネックストラップをSSランク冒険者の物と交換して俺はSSランク冒険者となった。

 妙な女子に絡まれて嫌な思いをしたが、これで俺は名実ともに日本一の冒険者だ!

 やったぜー!


 ホログラムが虹色に輝いて眩しーー!

 明るい銀色のネックストラップを首にかけ、新しい冒険者証を手に持ってニマニマしながら免許センターを出たら、今度はどうもジャーナリストっぽい目つきの悪い連中がいた。

 俺はUターンして免許センターに駆け込み、奥の方に走って行きながら27階層の池に突き出た桟橋前に転移した。


 最初にうちから持ってきたポリタンクに『治癒の水』を補充。

 ポリタンクをタマちゃんに預けた後は、畑を見て回って、適当に野菜と果物を摘んでこれもタマちゃんに預けた。


 果実も野菜も古い実があるはずなのだがまるで区別できない。

 言い換えれば全然古く(**)なっていない。

 摘めば新しく実が生るが、摘まなくても腐るようなことはないみたいだ。

 これなら、畑を大きくしても何も問題ない。


 ただ、畑はいくらでも増やせそうだが苗を買ってくるのが面倒だ。

 そこで俺は、種から育ててみることにした。

 対象は果樹。

 俺の予想というか希望だが、種から1日で苗木になり、2日で実が生る。


 まずは種の採取だ。

 リンゴ、ミカン、梨は1つの果実で種が複数取れそうだが桃は1個しか取れない。

 桃はおいしいのだがそう何個も食べられない。

 ここに来るたびに1つ食べてそのたびに植えればいいか。


 種を取る=果物を食べる前に体を動かした方がいいと思い、俺は果樹園を作ることにした。

 どうせ作るなら本格的な方がいいので、半地下要塞の裏側を森に向けて広げていき、そこに果樹園を作ることにした。


 まずは木々の伐採だ。

 タマちゃんに任せて根っこまで吸収してもらう。

 根っこまで無くなれば再生することもないだろう。

「タマちゃん、お願いします。

 広さは50メートル四方くらいだな」


 リュックから金色の偽足が伸びそれが広がって大木を金色の膜が包んだと思ったらシュルシュルと膜が小さくなって跡には大木の根が張っていた穴が残った。

 そうやって4、50本ほどの大小の木が消えて50メートル四方の穴ぼこだらけの広場ができた。

 最後に地面に落ちていた枝なんかをタマちゃんに片付けてもらったが落ち葉は腐葉土のようなものなのでそのままで。

 それだけの木を吸収してもタマちゃんの収まったリュックの重さは変わらなかった。


 問題は畑の予定の場所にできた穴が想像以上に大きいし多かったということ。

 穴を埋めながら掘り返していくことになるけど、畑は周りより一段低くなる。

 だから何? と言えばそれだけだし、逆に畑の境界がはっきり分かっていいかもしれない。


 50メートル四方はかなりの作業量になるけれど、始めてしまえば終わったようなものだ。

 俺はタマちゃんに預けていた穴掘り用のスコップを持って果樹園予定地を掘り返しつつ穴を埋めていった。


 やる気と馬力と根気の結晶として50メートル四方の果樹園ができたのは昼食をはさんで午後の3時だった。

 種をいつでも蒔けるよう平たく整地している。

 これはスコップでは無理だったので一度ホームセンターに転移して『レーキ』という名前の地均し用の横に広がった熊手のようなものを買ってきている。

 それでも地面の穴埋めよりも地均しの方が時間がかかってしまった。


 さすがの俺も、本気の肉体労働だったせいか疲れたので昼食以外にも何度か休憩して果物やイチゴを食べてリフレッシュした。

 確かに疲れが取れる。

 今回の開墾で実感できた。


 収穫はタマちゃん収穫機を想定しているので機械用の通路は必要ない。従って目いっぱい畑を利用できる。

 果樹の種は6メートル間隔で植えるとすると8×8=64本。

 いっぱしの農家並みだな。

 ダンジョン農家だ。


 でき上った果樹園というか今のところ畑に、今日休憩中食べたリンゴとナシの種を蒔いてやり、ヤカンに入れた『治癒の水』を、種を蒔いた周りに軽くかけておいた。

 うまくいくかどうかわからないが、ダメなら苗木を用意するだけだ。

 スマホで調べればまとまった数のちゃんとした苗木が用意できるだろう。



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