第13話 秋ヶ瀬ウォリアーズ
俺は斉藤さんたちに解放されることなく、その後も行動を共にすることになってしまった。
カナブンの残骸から核を回収したあと、昼までにカブトムシとクワガタムシを1匹ずつたおした。
俺は見つけるだけで手出ししていないのだが、3人で滅多打ちにあったカブトムシとクワガタムシは原形をとどめていなかった。
なぜか3人はモンスターを滅多打ちにした後停止してしまい俺の顔を見るので、俺がそのグチャグチャの残骸の中から核を回収した。
3人が見ていたので汚れた手袋をウォーターの魔術で水洗いできず、やむなく手袋を外してリュックからタオルを出したら、斉藤さんが自分のタオルを取り出して虫の体液で汚れた俺の手袋を拭いてくれた。
現在俺たちは4人で地面に敷いたカラフルなレジャーシートの上に座って昼食中だ。
レジャーシートは斉藤さんが持ってきていたものだ。
俺はコンビニで買ったおむすび。
女子3人は調理パンやサンドイッチを食べている。
男ひとりに女子3人。
見ようによってはハーレムなのだが、俺にはそういった意識はいっさいない。
「ねえ、斉藤。
長谷川くんのことちゃんとわたしたちに紹介してよ」
中川さんが斉藤さんに催促した。
「忘れてた。
長谷川くんはわたしの中学の時の同級生。3年生の1学期の途中から急に成績が良くなって、そのままさいたま高校に入学しちゃったの」
斉藤さん、3年の1学期の途中から俺の成績が良くなったってよく覚えてたな。
「すごいと思う」
「さいたま高校っていったら進学校じゃない。
それで冒険者なんかしてていいの?
夏休みも勉強しなくちゃいけないんじゃないの?」
「学校の勉強はそこそこやっているから問題ないんだよ」
「さすがは長谷川くんだね。
そういえば、長谷川くんの筋肉ってすごいんだよー」
何度か体育着に着替え中、斉藤さんのじっとりした視線を感じたものな。
「それはぜひ見たいと思う」
「わたしも見たい!」
3人がワクワク顔で俺を見つめる。
仕方ないというか俺もその気になって立ち上がり、防刃ジャケットを脱いでその下の長袖のシャツを脱ぎ、下着のシャツも脱いで上半身裸になってやった。
「腹筋が割れてる。
じかに見たの初めてと思う!」
「これすごいよ」
「ちょっとだけ触ってもいい?」
いいとも悪いとも言っていないのに斉藤さんの手が伸びて俺の腹から胸にかけて撫で上げた。
俺はへんな声が出そうになったのを奥歯をかみしめ必死にこらえた。
さらに左右からも手が伸びてきて、……。
3人が3人とも目を細めている。
「エヘン」
「ゴメン」
「あまりに見事なものでつい手が出たんだと思う」
「ごちそうさまでした。ジュルリ」
俺は脱いだものを着直した。
「そう言えばわたしたちのことも話しておかないとね」
「わたしたちは桜川女子の同級生。
3人でチームを作って冒険者になったんだ。
チーム名は秋ヶ瀬ウォリアーズ。
Sランク冒険者チームになる予定なの」
「「気持ちだけね」」
「そ、そうなんだ」
名まえには引っかかるが、夢は大きい方がいいものな。
そしたらこんどは斉藤さんが俺の顔にグッと顔を近づけてきた。
なに?
「長谷川くん、わたしたちの秋ヶ瀬ウォリアーズに入らない?
というか、入ってくれない?
女3人だとさっきみたいに甘く見られるし、これからだって横取りされると思うんだよ。
入ってくれればわたしたち美女3人がもれなく付いてくるよ」
他の2人も俺の顔をじっと見ている。
斉藤さんの独断ではなく、暗黙の了解があるのか?
とは言われてもねー。
確かに3人とも可愛い女の子なんだけど、俺の現在の目的はダンジョンで稼ぐこと。
全くの初心者を連れて歩き回りたくはないし、魔術を見られたくもない。
なので、丁重にお断りすることにした。
「申し出はありがたいけど、俺はひとりでいる方が気楽だから遠慮するよ」
「残念。
でも、たまにはわたしたちと一緒に潜ってよ」
「そのくらいならいいよ」
その後、少し休憩して午後から一仕事と思って立ち上がろうとしたら、さっきから俺たちの方を見ていた大学生くらいに見える男の4人組が近づいてきた。
4人の手にする武器はメイス2人に、長剣に小型のクロスボウだった。
こっちの黒一点である俺が対応した方がいいだろう。
精神年齢から言えば保護者みたいなものだし。
向こうが何か言う前に俺の方から声をかけた。
「何か用なのか?」
「高校生がイッチョ前な口の利き方だな。
男1人に女3人か。
俺たちに2人くらい分けてくれないか?」
ダンジョンの中にはこういった手合がいるのか。
大学生4人を相手に高校生、それも女子3人を含む4人では到底太刀打ちできない。
普通なら。
俺が何かしてしまうと、先に手を出された後でもあとで不利になることも十分考えられる。
正当防衛が成立するよう手を打った方がいいが何かいい手はないか?
そう思ってチラッと後ろを見たら斉藤さんがスマホをこちらに向けていた。
これはいい証拠になる。
これならガーンといってもいい。
俺は煽り気味に先ほどの男の要求に応えてやった。
「あんたたちみたいな連中に女子たちを渡すわけないだろ。
それに今はスマホで撮影中だ。
あまりバカなことをしていると大変なことになるぞ」
そいつはこれ見よがしに腰に下げたメイスに手を当ててこう言い放った。
「ふっ。お前を叩きのめして女からスマホを取り上げればいいだけだろ?」
こいつはやる気らしい。
武器を使ったケンカはケンカではなく殺し合いになるのだがこの連中は分かっているのだろうか?
俺は優しい人間なので、こいつらのためにもこっちから提案しておくことにしよう。
「分かった。
武器を使えばただじゃ済まないからお互いに素手で勝負しないか?
俺がのされたら、それまでだ」
「なかなか潔いじゃないか。
じゃあ、差しでやってやるよ。
歯の1、2本折れても文句は言うなよ」
男がボクシングのようなファイティングポーズをとり、残りの3人が後ろに下がった。
俺自身は素人相手に本気を出せないので、両手を下げたまま突っ立っていた。
その代り目の前の男の後ろにいる3人が変な動きをしないかだけ注意している。
「うん? ビビッて動けないのならこっちから行くぜ。
今さら泣き言を言うなよ」
男は右のパンチを繰り出してきたのだが、いかにもなテレフォンパンチ。
こいつ、全然ケンカ慣れしていない。どう見ても口だけ男だ。
俺が高校生だと思って甘く見たんだろうな。
俺は男のパンチをかわしついでに一歩前に出て素人には見えない速さで男のみぞおちに軽く掌底で当て身をくらわせてついでに足を払ってやった。
それだけで男は前のめりに倒れて四つん這いになり、むせながらゲロを吐いた。
男は後ろの男たちに抱えられて引き戻されていった。
本人も含めて俺が何をしたのかすら分かっていないようだ。
「勝手に倒れて自爆じゃつまらないでしょ?
次の方どうぞー」
俺はまたまた煽ってやった。
どうせ残りの3人も今の男程度だろうからまとめてやってきてくれた方が面倒なくて助かるんだが。
振り返って見たわけではないが、俺の後ろの3人はハラハラして俺のことを見ているようだ。
普通はそうだよな。




