4日目
静かな森の奥、ゲラとエリスは木々の間を進んでいた。柔らかな光が葉の隙間から降り注ぎ、地面に揺れる影を描いている。ゲラは足を止め、目を細めて周囲を見渡した。
「え、ここが精霊の集まる森?」彼女は少し不安げに声を漏らした。「なんか…静かすぎて逆にドキドキするんだけど!」
森の静寂は心地よいはずなのに、何かが違う。風は穏やかなのに、その奥に漂う不安な気配がゲラの胸に重くのしかかっていた。
エリスは真剣な表情で頷き、周囲を警戒するように見渡す。「ここは精霊の森。精霊たちは繊細な存在で、感情にとても敏感です。今は…どこか怯えているように感じます。」
エリスの言葉は冷静だったが、その声の端にも緊張が含まれているのがわかった。
「怯えてるって?」ゲラは驚いたように口を開く。「まさかー、精霊って怖がるんだね。何か幽霊でも見たのかな?」彼女は冗談交じりに言ったが、その場の静けさに自分の言葉が少し不安を掻き立てる。冗談のつもりだったのに、なんだか本当っぽく聞こえた。その瞬間、風に乗ってかすかな声が聞こえた。
「お願い…離れないで、私の話を聞いてよ…」
ゲラはビクッとして、その場で跳ねるように後ろにのけぞった。「ちょっと待って、これホラー展開確定じゃん!」彼女はエリスと顔を見合わせた。エリスもすぐに真剣な顔つきに戻る。
「行こう!」ゲラは声の方へ駆け出した。いつもの陽気さは少しだけ控えめで、好奇心と不安が混じった顔をしている。エリスはすぐに後を追った。
二人が木々の間を通り抜けると、そこには長い髪を持つ少女が立っていた。彼女は精霊たちに向かって手を伸ばしているが、その周りを取り巻く光の粒――精霊たちはふわふわと不安定に漂い、まるで彼女の手に触れるのを拒んでいるかのようだった。少女の表情には必死さがにじみ出ている。
「こっちに来て…お願い、怖がらないで…!」
「精霊にまで避けられるって、何かやらかしたの?」ゲラは無意識にそうつぶやき、すぐに後悔した。「あ、冗談、冗談!」すぐに手を振って笑顔を見せる。
エリスは少女と精霊たちの様子をじっと見つめながら、冷静に分析を始めた。「彼女の魔力が強すぎるのかもしれませんね。精霊たちは敏感ですから、力が制御できないと警戒してしまうのです。」
「よし、これは助けるしかないね!」ゲラはためらわずに少女に駆け寄り、笑顔で元気よく話しかけた。「やっほー!大丈夫、私たちは味方だから!」
少女は驚いて振り向き、ゲラとエリスを見つめた。「誰…?近づかない方がいいわ、精霊たちがまた…」
ゲラは少女に向かって大きな笑顔を浮かべ、「大丈夫、大丈夫!精霊たち、君のことをもっと知りたいんだよ。それでちょっとドキドキしてるんじゃない?」と軽くウインクしてみせた。
少女は少し戸惑いながらも、「私、アヤっていうの。精霊たち、いつも私から逃げちゃうの……」とつぶやいた。
「アヤちゃんね、OK!じゃあ、ちょっと私に任せてみて?」ゲラは自信満々にウインクをし、深呼吸をして静かに歌い始めた。歌声は風に乗って森中に広がり、優しく穏やかな旋律が響く。
その瞬間、精霊たちはゆっくりと動きを止め、まるで歌声に引き寄せられるかのようにゲラの周りに集まり始めた。光の粒が一つ、また一つとゲラの声に反応し、穏やかに輝き出した。
アヤは目を丸くしてその光景を見つめた。「すごい……精霊たちが……」
ゲラはその様子に軽く微笑み、「これからはもっと仲良くなれるよ、アヤちゃん!」とウインクを返した。
その様子を優しく見守っていたエリスも、そっと微笑みを浮かべた。「ゲラさんがそばにいれば、アヤさんも精霊たちと心を通わせることができるかもしれませんね。」