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1日目

「……まぶしい……」


目を開けると、そこには見たこともない景色が広がっていた。都会の喧騒とは無縁の、広大な森。高く伸びた木々が風に揺れ、鳥のさえずりが耳に心地よく響く。ゲラは驚きで口を開けたまま、周囲を見渡した。


「ここ……どこ? なんで、こんなところに?」


足元には見知らぬ草花が生い茂り、柔らかな土の感触が足に伝わる。彼女は思わず自分の頬をつねった。「痛い……ってことは、夢じゃない……?」


さっきまで部屋で宿題をしていたはずが、いつの間にかこの幻想的な風景の中にいる。ゲラは胸の奥から湧き上がる不安を抑えながら、とにかく行動しなければと思い、足を動かす。すると、遠くに木造の家々が並ぶ小さな村が見えた。


「とりあえず……あそこに行ってみよう」


ゲラは足元に気をつけながら、村へ向かって歩き出した。慣れない環境でふらつきながらも、なんとか村にたどり着いたが、途中で力尽きて膝から崩れ落ちる。


「だ、誰か……」


その時、ふわりとした感触が体を支えた。見上げると、青い髪をしたエルフの少女が優しい表情でゲラを見下ろしていた。


「大丈夫ですか?」


次に目を覚ました時、ゲラは木造の小さな部屋のベッドに横たわっていた。窓から差し込む朝日が、部屋を温かく照らしている。隣には、青い髪の少女――エリスが心配そうに立っていた。


「あ……気がつきましたか?」


エリスはホッとした表情で、ベッドの傍らに座り、ゲラにお茶を差し出した。


「えっと、助けてくれてありがとう。私はゲラっていうんだけど……ここって、どこなの? もしかして、異世界?」


ゲラが尋ねると、エリスは少し戸惑いながらも答えた。


「異世界……という言葉は聞き慣れませんが、確かにここはあなたがいた場所とは異なる世界ですわ」


ゲラはその答えに小さくため息をついた。現実感がなさすぎる状況に、どう反応すればいいのかわからない。


「でも、助けてくれて本当にありがとう……エリスがいなかったら、どうなってたか……」


エリスは優しく微笑んだ。「とりあえず、今は体を休めてください。無理をさせたくありませんので」


少し休んだ後、ゲラはエリスに村の中を案内してもらうことにした。石畳の道を歩きながら、木造の家々が並び、通りには市場が広がっている。村人たちはのんびりとした表情で生活を営んでいる。


「この村、なんかすごく平和でいい雰囲気だね」


ゲラは市場の賑わいに目を輝かせ、都会での日常との違いに感動していた。エリスはその様子を見て、微笑みを浮かべる。


「ええ、でも……この世界には闇が忍び寄っているのです。表面上は平和に見えても、少しずつ影が広がっています」


「闇……?」


ゲラが不思議そうに尋ねると、エリスは少し寂しげな表情を浮かべ、遠くを見つめた。


「その話は、またいずれにしましょう」


ゲラはそれ以上追及できず、気まずさを誤魔化すように、ふと足を止める。気持ちを切り替えたくて、彼女は無意識のうちにいつも自分が歌っていたメロディを小さく口ずさみ始めた。


「♪ふんふんふん……」


楽しくなってきて、つい口からこぼれた歌声が、村の広場に響く。その瞬間、エリスが驚いたように立ち止まった。


すると、広場に咲いていた花々が一斉に風に揺れ、まるでその歌に応えるように光を帯び始めた。淡い金色の光が花々から立ち上り、まるで彼女の歌に共鳴するかのように、空へと舞い上がっていく。


「え……? 何これ、どうなってるの?」


ゲラは自分の口から出た歌声が引き起こした現象に驚き、立ち尽くす。エリスもその光景を見て、目を見開いた。


「その歌……すごい……」


エリスの表情には驚きと、何かを掴んだような希望が浮かんでいる。彼女はゲラの顔をまじまじと見つめた。


「こんなにも鮮やかな光を放つ歌声、久しぶりに見ましたわ……」


エリスの反応に、ゲラは少し戸惑いつつも、気まずそうに頭をかいた。「ごめん、つい歌っちゃっただけなんだけど……」


広場のベンチに腰掛けると、エリスが改めてゲラに向き直り、静かに話し始めた。


「バズリンでは、音楽や歌に特別な力が宿ることが知られています。あなたの歌には、自然を呼び覚まし、光をもたらす力があるのかもしれません」


「私の歌が……そんな力を?」


ゲラは驚きと興味で目を丸くする。エリスはうなずきながらも、真剣な眼差しを向けた。


「実は、あなたのような人が現れることを、私はどこかで待っていたのかもしれません。今、この世界では……光を失い、闇に囚われてしまった者たちがいます。あなたの歌が、その光を取り戻す手助けになるかもしれない」


「光を失った存在……それって、どういうこと?」


エリスは少しだけ視線を伏せて、遠くを見つめるように言葉を続けた。「詳しく話すのは、まだ少し早いかもしれません。でも、あなたの歌声がこの村の人々を元気づけてくれるのを見て、私も少し希望が持てました」


エリスの声には、どこか切実な響きがあった。ゲラはその様子を見て、胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じた。


「……私、まだ何もわからないけど、ここに来た理由があるなら、それを知りたい」


エリスはゲラの言葉に静かにうなずき、手を差し出した。「ありがとう、ゲラさん。あなたがここに来てくださって、本当に嬉しいですわ」


ゲラはその手を取り、温かなぬくもりを感じた。



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