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聖罰の聖女~腹ペコ聖女は王様を殴り飛ばして従騎士と逃避行しようと思います。~  作者: みつまめ つぼみ
第1章

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6.二人の旅路

 私の前に、背中を向けてしゃがみ込んだヴァルの背中があった。


「どうした? ほら、遠慮せずに乗っかれ」


 私は高鳴る胸を押さえながら、そっとヴァルの背中に身体を預けた。

 私のお尻を、ヴァルが持つ剣が持ち上げる。


 ……直接触らないように、してくれてるのかな。


 そのままヴァルは腰を上げて、私を軽々と背負いあげた。

 私は――首に抱き着きたかったけど、身体をくっつけるのが恥ずかしくて、ヴァルの肩に両手を置いた。


「どうした? もっときちんと抱き着いておけ。

 転げ落ちたらお前が大怪我をする。

 恥ずかしがってる場合じゃない」


 うぅ……そんなことを言われたら、断れないじゃないか……。


 私は目をつぶって、自分の身体をヴァルの背中にくっつけて、両腕でヴァルの首にしがみついた。


 ――心臓、止まらないかな?! って、止まったら私が死んじゃうか! でもこのままじゃ、私の心臓の音、ヴァルにばればれなんだけど?!


 余りの恥ずかしさで、私はヴァルの首の後ろに顔を押し付けていた。


 ヴァルの明るい声が聞こえる。


「気にするな! 俺も気にはしない!

 お前は初めて父親以外の男に身体を預けて、緊張しているだけだ!

 それよりもしっかり掴まってろ! お前がバランスを崩すと、二人そろって転落だ!」


 ……楽しそうな声だなぁ。なんでだろう?


 私は小柄だから軽いと思うけど、二人分の荷物の重さがある。

 鍛えてたって、下り道は大変なはずなのに。


 ヴァルは私を大事そうにしっかりと抱えながら、山道を慎重に下っていった。





****


 ヴァルデマールは自分の鼓動がアイリスに伝わらないか、ひやひやしながら山道を下っていた。


 心を寄せる相手が、自分に恋愛感情を抱いている。なんと恵まれた状況だろう。

 そんな少女が自分の背中に張り付いている。彼女の早鐘が伝わってきて、嬉しさが喉からこみあげて叫びだしそうだった。


 だがアイリスはどうやら初恋らしい。

 自分の心に訪れる、恋愛感情という衝動に心が翻弄されて、自分を見失っているようだった。


 ヴァルは真っ直ぐアイリスを見つめ、見守るつもりで居た。

 自分が思いを伝えるのは、アイリスが自分を取り戻してからで構わない。

 ヴァルデマールが好意を伝えれば、今以上に彼女は心が翻弄されるだろう。

 今はただ、彼女の心が成長するのを待つことにしていた。


 背中に預かる、この世界で一番大切な存在を守るように、ヴァルデマールは一歩一歩、踏みしめながら山道を下った。





****


 ヴァルが告げる。


「もうここからは緩やかな傾斜だ。

 自分で歩いて行けるか?」


 私はおずおずと「うん、大丈夫だと思う」と応えた。


 ヴァルがしゃがみ込み、私はようやく、早鐘を撃つ心臓をヴァルの身体から離すことが出来た。


「少し休憩しよう。俺も喉がカラカラだ」


 石に腰を下ろして水を飲むヴァルの真似をして、私も少し離れたところに腰を下ろした。

 緊張で喉が渇き切っていた。水を半分くらい飲んで、やっと一息をついていた。


 ――ああもう! なんて心臓に悪い!


 私は火照った顔にも水を浴びせたかったけど、旅で水は貴重品だ。

 ぐっと我慢して、赤い顔を隠すようにうつむいていた。



 ヴァルが「さぁ、行くか!」と告げたので、私も頷いて立ち上がった。

 二人で再び歩いて行く。

 ヴァルの背中を、私が追いかける。


 ……あの広い背中に、さっきまで背負われてたのか。


 筋肉質で、がっしりとしたヴァルの背中の感触を思い出し、一人で顔を赤くしていた。



 不意に、ヴァルが「止まれ」と鋭く私に告げた。


 私は足を止め、眉をひそめてヴァルに尋ねる。


「どうしたの?」


「お前、ここを動くなよ」


 そう言って、ヴァルは荷物を下ろし、剣を抜いていた。


 ――剣?!


 ヴァルが大きく声を上げる。


「それでも隠れてるつもりか! 三下共! 姿を現せ!」


 その声に応えるように、あちこちの木陰から人相の悪い男性たちが、気持ちの悪い笑みを浮かべながら出てきた。


 ヴァルがふぅ、と小さく息をついた。


「野盗が八人か。まぁなんとかなるだろう」


 軽く言ってるけど、体格のいい大人が八人だよ?! 大丈夫なの?!


 野盗の一人が、何がおかしいのか、ニヤニヤとしながら告げる。


「おやおや? お姫様の前で格好つけるつもりか? 坊主一人で、この人数を相手にできるとでも?」


 お姫様? って、誰の事? そんな人、ここには居ないけど。


 ヴァルが不敵な笑みを返した。


「殺気も隠せない雑魚が八人。どうとでもなるさ」


 野盗たちが顔をしかめ、不機嫌そうに腰の剣を抜いた。


 直後、ヴァルがあっというまに野盗の一人と距離を詰め、身体を縦に切り裂いていた。


 驚く野盗たちに、次々とヴァルの剣が振るわれて行く。


 なんとかヴァルの一撃を受け止める野盗も居たみたいだけど、二撃、三撃と繰り返すうちに、やっぱり切り倒されていった。



 ヴァル、凄い強いんだな……


 感心している私に向かって、ヴァルから一番遠い野盗が駆け寄ってきた。

 その顔は必死の形相で、たぶん私を人質にして、ヴァルの動きを止めるつもりだ――そこまで考えが至った時、私の身体が勝手に動いていた。


 野盗が叫ぶ。


「女! 大人しくしろ!」


「おとといきやがれぇ!」


 私を捕まえようとした野盗の手をかいくぐり、私のぐーぱんが下から野盗の顎を捉えていた。


 殴られた野盗は空高く跳ね飛ばされ、付近の木よりも高く打ち上げられた。


 そのまま哀れな野盗は、地面に落下して鈍い音をあたりに響かせた――どうやら、石の上に落ちたらしい。



 あー、びっくりした!


 私が息を整えていると、ヴァルが野盗の状態を確認してから、私の下に戻ってきた。


「あれは駄目だな。助からん」


 そっか、ちょっと可哀想なことをしちゃったけど、盗賊に情けをかけてると、こっちの身が危ないからなぁ。


 ヴァルは剣から血を払って鞘に納め、荷物を背負い直した。


「お前、やっぱりとんでもない力があるんだな」


 私は小首を傾げた。


「なんでだろうね? 普通に力を込めても、あんなことにはならないはずなんだけど」


 私の全力がいつもあんな馬鹿力だったら、生活に困ること請け合いだ。

 でも普段はあんな力が出ることもないみたいだった。


 これは、何か特別な力なのかなぁ?


 私が小首を傾げていると、ヴァルがフッと笑った。


「エウティミア様が、それは『聖女の力』だと言っていた。

 おそらく、お前はまだそれをつかいこなせていないのだろう。

 だが陛下の時も、今も、お前の身に危険が及ぶと発揮されるように思う」


 あー、危ないときには、とっさに聖女の力が出ちゃうってことか。


 私が納得して感心していると、ヴァルが私に「行くぞ。もう山を抜ける」と告げて歩き出した。


 私はまた、その背中を追いかけるように歩いて行った。





****


 夕闇が迫る頃、私たちは村に辿り着いていた。

 ヴァルが「今日はここで一晩過ごす」と告げた。


 私は小首を傾げた。


「どこで過ごすの? 宿屋なんて、ないでしょ?」


「民宿がある。そこに夫婦として一部屋を借りる」


 そっか、また夫婦なのか。


 私は気恥ずかしくて、赤くなってうつむいていた。


「フッ、そんなに緊張するな。夫婦として宿泊するのは、二度目だろう?」


 いや、そりゃそうなんだけどさ。


 私はヴァルの背中を追って、民宿に向かっていった。



 民宿の奥さんは、とても気さくな人だった。


「あらまぁ、久しぶりの旅人ね! 食事はもう間に合わないけど、お酒で良ければ出せるわよ?」


 ヴァルは少し考えてから頷いた。


「では少しだけ、酒を頂こう」


 奥さんは喜んで食卓に招いてくれた。


 ダイニングにはテーブルが二つあって、民宿の主人と奥さんが大きいテーブルで、私たちが小さいテーブルに着いた。


 民宿の主人がヴァルに告げる。


「随分と若い夫婦だな。どこまでいくんだ?」


「モーゼンベルクだ。あそこに故郷がある」


「あ~それなら気を付けときな。最近、ここいらには野盗がうろついてるらしい。

 八人組で、手強いそうだ。もし出会ったら、大人しく荷物を渡した方が良い」


 八人組……それってもしかして……


「ねぇヴァル? それってさっきの人たち?」


 ヴァルが不敵な笑みで頷いた。


「たぶんな――おい親父、八人組の野盗なら、さっき切り捨てておいた。

 そいつらのことなら、もう心配はいらん」


 民宿の主人と奥さんは、目を見開いてヴァルを見つめていた。


「……嘘だろ。あんたみたいな子供が? 何人もの旅人が襲われて、命を落としてるんだぞ?」


「ま、これでも剣術には自信があるんでな」


 民宿の主人はとっても喜んで、おごりだと言ってヴァルにお酒を注いでいた。

 ヴァルも渋々、そのお酒を受けて飲んでるみたいだった。


 私は旅の保存食を食べながら、水を飲んで様子を眺めていた。



 食事が終わる頃、ヴァルがふらりと立ち上がった。


「俺たちはもう寝る。酒、ごちそうさん」


 部屋にふらふらと歩いて行くヴァルの肩を、私は慌てて支えた。


「ヴァル! 危ないよ! 大丈夫?!」


「あー、俺は酒に弱くてな。だがもう、あとは寝るだけだ。問題ない」


 いや、足元がおぼついてないんだけど……。


 私は部屋までヴァルを運んで、壁際に腰を下ろすのを手伝った。


 すでに半分寝ているヴァルに毛布をかぶせ、ようやく私は一息ついていた。


「ふぅ。世話が焼ける人だなぁ」


 私も寝不足で、もうフラフラだ。そのまますぐにベッドに入り、すとんと意識を手放した。





****


 翌朝、朝日で目を覚ました私の前に、ヴァルの顔があった。


 ……なにごと?


 頭が理解を拒絶するけど、目の前至近距離にヴァルの顔があった。


 ――同じベッド?!


 その朝、絶叫が村に木霊したという。


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