表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖罰の聖女~腹ペコ聖女は王様を殴り飛ばして従騎士と逃避行しようと思います。~  作者: みつまめ つぼみ
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/58

21.濃霧の脱出劇

 翌早朝、前線のあるグリュンフェルドの平原に、濃い霧が立ち込めていた。


 これでは、予定していた聖女の捜索などできはしない。

 戦闘行為も不可能なのが幸いだが、ヴァルトライヒ公爵は朝から不機嫌にパンを噛みちぎっていた。


「こんな季節に霧とは、珍しいこともある」


 この辺りでは、朝もやもあまり起こらない。

 だというのに、濃霧などどこから湧いたと言うのか。


 これではヴィルヘルミナという餌があっても、従騎士が助けに動く事もできまい。

 あの餌は不発に終わったようだ。

 ならばこのまま、餓死させてしまえばいい。

 コンラッドの受けた苦しみの分だけ、苦しみ抜いて死ねばいい。


 ヴァルトライヒ公爵は、聖女を逃した場合の戦闘再開に向け、再び戦術を練り始めていた。





****


 ヴィルヘルミナは、外の異変で目が覚めた。


 辺りには濃霧が立ち込め、視界は三メートルもない。


 牢屋の外に見張りが立っているはずだが、その気配が鈍い音と共に、突然途切れていた。


 ヴィルヘルミナが怪訝な目で牢屋の入り口を睨む――その扉が、ゆっくりと開かれて行く。


 青年と小柄な少女が一人、言葉もなく静かにヴィルヘルミナに近づいてきた。


 青年――ヴァルデマールの顔が見え、ヴィルヘルミナは驚いて目を見開いた。


 ヴィルヘルミナが小声で告げる。


「なにを馬鹿なことをしているのですか。

 アイリスを連れ、早く立ち去りなさい!」


 ヴァルデマールがニヤリと不敵に笑う。


「俺が食らいついたら諦めない事、ご存じでしょう?

 あなたは必ず連れて帰ります」


 小柄な少女――アイリスが、ヴィルヘルミナの拘束に手を触れて告げる。


「アールヴ、ドヴェルグ、これはなんとかなる?

 ……わかった、祈ってみるね」


 アイリスが何かと会話をしたように頷き、祈りを捧げ始めた。


 ピシリ、という音が走り、拘束が砕けていた。


 ヴィルヘルミナは残った力を振り絞って拘束を破壊し、手足の自由を取り戻した。


「これは何が? このように簡単に壊れるものではなかったはずです」


 ヴァルデマールが周囲の気配を探りながら告げる。


「説明は後です。今は本陣を脱出しましょう」


 ヴィルヘルミナは頷き、力の入らない身体に鞭を打って立ち上がった。


 三人は、濃霧の中を迷わず真っ直ぐ、足音を殺しながら、何かに導かれるように歩いて行った。





****


 山の中も、濃霧に包まれていた。

 視界がほとんどない森の中、迷わずに進むのは至難の業だ。


 だがヴァルデマールもアイリスも、道が見えるかのように迷わず進んでいく。



 ついには山を越え、炭焼き小屋まで辿り着いていた。


 ヴァルデマールが小さく息をついた。


「もう少し耐えてください。濃霧が残っている間に、馬車まで移動します。

 ――アイリス、持ちこたえられるか?」


 アイリスが元気な顔で頷いた。


「うん! まだ体力は残ってるよ!」


 ヴァルデマールと目で合図したヴィルヘルミナは、幌馬車を待たせている場所まで移動を開始した。



 歩きながら、ヴィルヘルミナがヴァルデマールに告げる。


「この濃霧、何をしたのですか。

 この地方で濃霧など、まず考えられません」


「聖女の力ってやつらしいです。

 祈るだけで、天候を変える力があるんだとか。

 今はこの程度の変化しか、させられないみたいですがね」


 ――この程度だと? とんでもない話だ。


 濃霧を自在に出現させられるなら、それだけで戦術の幅が広がる。

 戦況を大きく変える可能性を持っている。


 ヴィルヘルミナが、じっとアイリスを見つめた。


「あなたが、この濃霧を作り出したというのですか」


 アイリスは、はにかむように微笑んだ。


「あはは、らしいですよ。

 だけど、奇跡の代償に生命力を失います。

 私の体力が残っている間に、馬車に急いでください」


 ヴィルヘルミナは頷き、先を行くヴァルデマールの背中を追った。


 やはりヴァルデマールは、この濃霧でも迷うことなく、道を歩いているようだ。


「あなたには、何が見えているというのですか」


「妖精ですよ。それも聖女の力です。

 アイリスがヴィルヘルミナ様を信頼すれば、あなたにも見えます」


 どうやらヴァルデマールとアイリスには、妖精が見えているらしい。

 妖精が道案内をするから、迷うことが無いのだろう。


 ――信頼されれば、か。命を狙った私が信頼されるなど、あるのでしょうかね。


 ヴィルヘルミナは小さく息をついたあと、なんとか見えているヴァルデマールを見失わないように足を速めた。





****


 私たちは幌馬車に乗りこんだ。御者の人も慌てて支度をして御者台に乗りこんできて、馬車が動き出す。


 濃霧の中、ゆっくりと進む幌馬車の荷台で、私はヴァルに告げる。


「もう濃霧を消してもいいかな?」


「ああ、もうここからなら大丈夫だろう」


 私は大きく息を吐いて、胸の中で続けていた祈りを止めた。


「……祈るのを止めても、すぐに霧が晴れる訳じゃないんだね」


 アールヴがふわりと顔の前に現れ、快活に告げる。


『そりゃーそうなのです!

 ですが本来の天候に戻っていけば、だんだんと霧は消えてしまうのです!

 その間に、とっとと逃げましょうなのです!』


 ヴァルがヴィルヘルミナさんに告げる。


「このあと、どうするおつもりですか」


 ヴィルヘルミナさんが、眉をひそめて考えてるみたいだった。


「……第一軍は、もうあまり長く耐えることが出来ないでしょう。

 私は王都に戻り、援軍を出すよう奏上します。

 それで年内は持ちこたえられるはずです」


 ヴァルが頷いた。


「では、途中で別れましょう。

 俺たちは一端家に帰って、聖女の力を探ります。

 来年までにアイリスがもっと力を使いこなせるようになれば、聖王軍にも対抗できるはずです」


 ヴィルヘルミナが頷いた。


「では、この馬車はあなたたちが使いなさい。

 私は途中の町で馬を手に入れ、それで移動します」


 話が終わったらしいヴィルヘルミナさんは、鞄から保存食を取り出して食べ始めた。


 私とヴァルは朝食を済ませているので、黙って幌馬車に揺られていた。


 外を眺めてみると、だんだんと霧が薄くなってるみたいだった。

 この分だと、一時間もしないで霧は消えるだろう。


 私は奇跡で疲労感を覚え、身体を馬車の中で横たえた。


「はぁ。疲れた」


 小さな奇跡でもこんなに疲れるんじゃ、大きな奇跡を使ったら……そりゃあ寿命くらい、縮むよね。


 私は鞄を枕にしながら、馬車の振動に身を任せ、ゆっくりと目を閉じた。





****


 ヴィルヘルミナさんとは途中の宿場町で別れ、私とヴァルを乗せた幌馬車はフロストヴィルの町に戻ってきた。


 私とヴァルの生還を知ったディートリヒさんとベルタさんは、とても喜んで私たちに抱き着いていた。


 ディーとリットさんがヴァルに抱き着いて告げる。


「生きた心地がしなかったぞ。

 よく無事に戻って来てくれた」


 ベルタさんが私に抱き着いて告げる。


「あなたが無事で、本当に良かったわ」


 私とヴァルは、照れながら抱きしめられていた。


 ヴァルがおずおずとディートリヒさんに告げる。


「父上、私が不在の間、変わったことはありませんでしたか」


「ああ、そのことだがね。

 お前たちに会いたいという旅商人が来ていたよ」


 ヴァルが真剣な目でディートリヒさんを見つめた。


「旅商人……まさか、タレイアですか?」


 ディートリヒさんが肩をすくめた。


「名乗ってはもらえなかったが、『何でも屋』を自称する老婆だった。

 可能性は高いと思う。

 町に滞在しているらしいから、すぐに呼び寄せよう」


 ヴァルが頷き、私を見た。


「これで何か、わかるといいんだがな」


 私も頷いて、覚悟を決めた。


 千年前に聖女が着ていたという聖女の法衣、そんなものをどこで手に入れたのか。

 その情報次第で、私たちはまた、旅に出なきゃいけないかもしれない。



 私たちは旅の疲れを癒やすため、ベルタさんの勧めでリビングに向かって移動していった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ