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聖罰の聖女~腹ペコ聖女は王様を殴り飛ばして従騎士と逃避行しようと思います。~  作者: みつまめ つぼみ
第1章

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13.レッスンツー

 午後になり、私はまたサロンにやってきた。


 人払いがされたサロンには、ヴァル以外にもディートリヒさんとベルタさんがソファに座っている。


 ディートリヒさんが私に告げる。


「では早速、見せて欲しい」


 私は頷いて告げる。


「アールヴ、ドヴェルグ、出てきて!」


 ふわり、と私の顔の前に、白い少女――アールヴと、黒い少女――ドヴェルグが浮き上がってきた。


 アールヴが元気に告げる。


『はい! 何のご用ですか!』


 私はディートリヒさんとベルタさんを見た。


「どう……ですか? お二人には、アールヴとドヴェルグが見えますか?」


 ディートリヒさんとベルタさんは、呆然としながらアールヴたちを見ているようだった。


「ああ、見えている。

 これが『聖女の力の一端』か」


「私にも見えてるわ。

 可愛らしい子たちね」


 アールヴが照れるようにスカートを両手で掴んでもじもじしていた。


『そんな、可愛らしいだなんて当たり前な事……もっと言ってくださいです! 自尊心が満たされますです!』


 この子、良い性格してるな?


 ドヴェルグが穏やかに告げる。


『私たちは妖精の一種です。

 人間の美的感覚で美しいと感じるのは至極当然、驚くべきことではありません』


 この子も、良い性格してるな?


 まぁともかく、私がこの場に居る三人を信頼してる、というのは理解できた。


 従者たちには見えてないみたいだったから、それなりに信頼してないとダメってのもわかった。


 ディートリヒさんが告げる。


「それで、この子たちはなにができるんだ?

 今の状況を打開することができるのかい?」


 ドヴェルグが静かに告げる。


『今の状況、というのをお知らせください』


 ディートリヒさんが頷いた。


「まず喫緊の課題がヴィルヘルミナ様だ。

 町に滞在し、陛下のめいでアイリスを狙っている。

 二つ目が陛下。

 この国を守るため、アイリスの命を狙っている。

 これは聖王軍を撃退できるなら説得は可能だと思う。

 三つめが聖王軍――これが本命だね。

 聖女を狙い、我が国を滅ぼす勢いだ」


 ドヴェルグがうつむいて少し考えこみ、それから顔を上げて告げる。


『どれも、アイリス様が聖女の力を使いこなすことで対処できるでしょう。

 聖王軍を退ける力があると示すだけで、事態は好転します』


 ディートリヒさんが頷いた。


「そんな力が、聖女には備わっているのかね?」


 アールヴが快活に告げる。


『聖女の力の源泉は、人を愛する心なのです!

 今の私たちはアドバイザーにしかなれませんです!

 もっとアイリス様が、心にある温かな気持ちを育てる必要があるのです!』


 私はおずおずと告げる。


「えっと、まずどうしたらいいの?」


『簡単なのです! その気持ちを、想い人に伝えてみてくださいなのです!』


「簡単な訳あるかぁああああっ!」


 アールヴがきょとんと小首を傾げた。


『ですが、それができないと全てが始まりませんですよ?

 千年前の聖女は、聖王と愛を通わせ合いましたです!

 彼女は聖王を愛し、聖王も彼女を愛しましたのです!

 聖王の力は聖女の力なのです!』


 ディートリヒさんが右手を上げてアールヴを制した。


「ちょっと待って欲しい。

 それはどういう意味なんだ?

 聖女の力が、聖王の力?」


『聖女が持つ最大の力、それは生命力と引き換えに奇跡を起こすことなのです!

 千年前の聖女は、自分の命と引き換えに聖王に千年を生きる力を授けたのです!

 おそらく今の聖王は、再びその奇跡を起こそうとしてアイリス様を狙っていると思うのです!』


 その言葉に、私は愕然とした。


 生命力と引き換え? 前の聖女は、それで命を落とした?


「ねぇアールヴ、教えて。

 私が聖王軍を退けるには、命を捧げる必要があるってこと?」


『そこまで大きな力は必要ないと思うのです!

 ですが寿命を削る覚悟はして欲しいのです!』


 明るい声で、シビアなことを言ってくれるなぁ。

 死にたくないけど、寿命を削る必要があるのか。


 ドヴェルグが落ち着いた声で告げる。


『聖女の力を完全に覚醒させるには、神の洗礼を受ける必要があります。

 それまでは、それほど大きな力は使えないでしょう。

 いまはまず、アイリス様が気持ちを相手に伝えるところからはじめてください』


 ベルタさんがドヴェルグに尋ねる。


「その洗礼というのはどういうことなの?

 神って、聖王教の洗礼を与えればいいのかしら」


『聖王はまがい物の神、その洗礼でも目覚めることは可能ですが、本来の神の洗礼が望ましいです。

 蒼穹神様の洗礼を受けるのが、もっとも望ましいと言えるでしょう』


「蒼穹神? 聞いたことが無い神様ね……いえ、最近耳にした単語ではあるわ。

 どこでだったかしら……」


 私はおずおずと告げる。


「えっと、もしかして、この聖女の法衣に宿ってる力の話じゃないですか?

 アグライアさんが、『蒼穹神の力が宿る服だ』って言っていました」


 ベルタさんが手を打ち鳴らした。


「ああ! そうそう、アグライアが言っていたわね。

 ということは、彼女なら蒼穹神の洗礼を与えられるのかしら」


 ヴァルが真面目な顔で告げる。


「ならば再びアグライアに会う必要があります。

 ですが今、町にはヴィルヘルミナ様が滞在しています。

 むやみに外出する訳にも行きません」


 ディートリヒさんが頷いた。


「そういうことであれば、私がもう一度アグライアをここに呼ぼう。

 それで何か、分かることがあるかもしれない。

 ――アイリス、君は想いを相手に伝える努力をしておいてくれないか?」


「ええ?! ヴァルのお父さんまでそんなことを言うんですか?!」


 自分を認めることはできたけど、ヴァルに『好きだ』って伝えられるかというと……


 私は横目でヴァルの顔を盗み見た。


 想いを伝えることを考えるだけで、心臓がうるさくて、怖くて、逃げ出したくなってくる。


 私が赤くなってうつむいていると、ベルタさんの声が聞こえてきた。


「どうやら、レッスンツーの時間みたいね。

 男性はこれで解散してもらえるかしら。

 ここからは、女だけの秘密の時間よ」


 私は顔を上げ、小首を傾げてベルタさんを見つめていた。





****


 ディートリヒさんとヴァルがサロンから立ち去り、部屋には私とベルタさんだけが残った。

 アールヴとドヴェルグも、今は姿を消していた。


 ベルタさんが優しい微笑みで告げる。


「ではまず、あなたの心を教えて頂戴。

 自分の気持ちを、言葉にする事はできたのかしら」


 私はおずおずと頷いた。


「まだ、心の中だけですが、できました」


「じゃあ今度は、嘘でもいいから『私はヴァルが好き』って、言えるかしら? どう?」


 私は唾を飲み込み、ベルタさんを見つめた。


「……私は、ヴァルが好きです」


 顔が熱い。火照ってしょうがない。

 心臓がやかましいくらいに胸を叩く。


 そして思った通り、私は言葉にするだけで、想いが強まっていくのを感じていた。


 私はヴァルが好きだ! もっと傍に居たい! ヴァルにも、私を好きだと思って欲しい!


 ――なんてあさましい想いなんだろう。


 私は自己嫌悪で肩を落とし、ベルタさんに尋ねる。


「ねぇヴァルのお母さん。人を好きになる気持ちって、こんなに自分が嫌になるものなんですか?」


 ベルタさんの声が聞こえる。


「あなたは自分の気持ちを確かなものにできた。

 淡い恋心が、次のステップを欲しているのね。

 ――じゃあ、レッスンツーよ。

 どうやったらその気持ちを、ヴァルに伝えられると思う?」


 私は首を横に振った。


「そのことを考えるだけで、私はヴァルの前から逃げ出したくなるんです。

 怖くて仕方がないんです。何故なんですか?」


 私は顔を上げてベルタさんを見た。そこにあるのは、私を包み込むような微笑み。


「自分の脆い心を相手にさらけ出すのは、とっても勇気が必要な事なの。

 だから、怖いと思ってしまうのは、仕方がないわ。

 でも考えてみて?

 その想いを伝えられるなら、あなたは次のステップに進める可能性が生まれる。

 伝えなければ、あなたは立ち止まったままよ?

 あなたは立ち止まる自分に、我慢ができる女の子だったかしら」


 ベルタさんの微笑みを受け止めながら、私は考える。


 私はアイリス、笑いながら真っ直ぐ前に進んでいく女の子だ。


 立ち止まるなんて、私らしくない。


 だけど、ヴァルに想いを伝えるのは、とっても恐ろしくて、前に足を踏み出せる気がしなかった。

 断られたら、私の心はどれだけ傷付くのだろうか。


 私がその恐怖と戦っていると、ベルタさんが優しく告げる。


「ヴァルは、あなたの想いを踏みにじるような人かしら?

 私はあの子を、そんな男の子に育てた覚えはないわ。

 あなたが心を寄せる男性の事を、もう一度考えてみてごらんなさい」


 私が好きなヴァル――いつだって誠実で、優しくて、包み込んでくれる人だった。


 私の事を『好みの女だ』と言い切ってくれる人だ。


 だけど、それと私の想いを受け止めてくれるのかは、別問題な気がした。


 傷付くのが怖い。ヴァルに拒絶されたくない。


 また、ベルタさんが私を諭すように告げる。


「誰だって傷付くのは怖いわ。

 好意を持った相手に拒絶されたら、多かれ少なかれ傷付いてしまう。

 だけど、それを恐れていたら何も始まらないの。

 その想いを相手と共に育むにせよ、相手に断られて想いを忘れるにせよ、前に進むためにはまず、気持ちを伝えなければならないわ。

 あなたが相手とどんな関係になりたいのか、よく考えてごらんなさい」


 私はベルタさんの言葉を噛み締めながら、ゆっくりと頷いた。


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