ぼくが王様にだってなれる場所
ぼくは眠ることが大好きだ。
おにいちゃんはまだ遊びたいとなかなかお布団に入らないけど、ぼくは違う。
だって、夢の中のほうが、いっぱい遊べるでしょ。
壁にクレヨンで絵を描いても怒られないし。
ずーっとテレビを見てたっていいし。
好きなお菓子はいっぱい食べられるし。
空だって飛べる。
何でもできるし、何をしたっていい。
夢の中って、最高におもしろい。
くまとおともだちになったり。
イルカと海を泳いでみたり。
恐竜と探検だってできるんだよ。
きれいな星もかわいいお花もかっこいい虫だって、ぜーんぶひとりじめ。
おにいちゃんにだって負けないし。
ママにも叱られないし。
パパだって何でも言うこと聞いてくれる。
ずっと夢の中だったらいいのに。
って思ってたら、神様があらわれた。
さすが夢の中。
ぼくの願いごとは何でも叶えてくれる。
「ずっと夢の中にいたいんだ」
それからはずっと楽しい。
ずっとずっと楽しい夢の中。
ぼくは夢の中で王様になった。
王様の言うことは絶対だ。
王様はおいしいものをいっぱい食べるし、かっこいい馬にも乗って、大きなお城に住む。
みんな僕のためになんだってしてくれるんだ。
──だけど。
ぼくの言うことを聞くおにいちゃんとママとパパは、ちょっときもちわるい。
ぼくがいたずらしたって、ウソをついたって、誰かを叩いたって、にこにこしてて怒らない。
まるでニセモノみたいな。
そう思ったとたん、急にこわくなった。
王様のぼくも、おともだちのくまも、きれいな星も──これは全部夢の中。ニセモノの世界。
そう気づいてしまったら、全部がこわれはじめた。
お城はくずれ、おともだちのくまはとけて、きれいだった星は落ちてきた。
夢の中は全部ぼくの思い通りだ。
ぼくがつい思ってしまった通りに、ニセモノは消えていく。
とうとう足元がガラガラとくずれてきた。
たすけて!
ぎゅっと目をつむると、優しい声が聞こえてきた。
「おはよう」
早く起きなさいとママの声だ。
ゆっくり目を開けると、呆れたようなおにいちゃんに、パパもいる。
ぼくはほっとした。ホンモノだ。
ホンモノのママはよく怒るし、パパは話を聞いてくれないし、おにいちゃんとはケンカするけど。
いつもどおりのみんなだ。
夢の中は楽しいことばかりじゃない。怖くて悪い夢だってある。
夢なんてもうこりごり。みんなホンモノがいい。
なんて思ってたけど。
この日の夜、ぼくは怖い夢を見ませんようにと願ってから、お布団に入った。
やっぱり楽しい夢は最高だからね。