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第三話 護衛と暗号




曲者を倒した後、皇貴妃が住まう朱花宮(しゅかきゅう)に向かった皇貴妃と鈴明は、用意された部屋で向かい合ってお茶を飲んでいた。

鈴明はとても居心地が悪そうにしているが、皇貴妃はとても優雅にお茶を飲んでいる。


「……あ、あの。私を護衛にするとは、本気なのですか?」


「ええ、本気よ。すでにあなたのいた部署には通達したわ。今日からあなたは私の護衛ね。……嫌だったかしら?」


不安げな皇貴妃の顔を見て、鈴明はブンブンと顔を横に振る。


「滅相もないです! ただ、私なんかでいいのかと……」


「あら、あなたがいいのよ。これから一緒にいるんだもの、気を遣わないでね」


(つ、使いますー!)


内心ヒィヒィしている鈴明だが、とある希望が見え始めたことに高揚もしていた。


(もしかしたら……蘭皇帝陛下にお会いできるかも……!)


「皇帝陛下ならもうすぐ来るわよ」


「ひぇ!?」


心を読まれた!? と驚愕の顔をする鈴明をみて、皇貴妃はふふふと笑った。


「ごめんなさいね、あなたのこと、麗麗さんという方から少し聞いたの。聞いたのは私の女官ですけれど。皇帝陛下にお会いするのが夢なんですって?」


「は、はい……実は。昔からの夢でして……」


「そう。とても良い方よ、皇帝陛下は。こんな私を大切にしてくれるしね」


「そんな……愛しい女性を大切にするのは当たり前だと思います!」


皇貴妃なキョトンとした後、クスクスと笑う。


「あらあら、私と陛下はそんな関係じゃないのよ? 姉と弟みたいな感じよ。だから、あなたがもし陛下のことを好きなら、全力でぶつかっていいわよ」


「へ? ……い、いや、それは──」


コンコンコン


「皇貴妃、入るが良いか」


「はい、どうぞ」


声を聞いた瞬間、鈴明は全身に雷が走ったかのような感覚に襲われた。


(この声──間違いない、あの方だ!)


すっと戸を開けて入ってきたのは、銀髪碧眼の美青年。

鈴明は混乱した。

声はたしかにあの方、なのに入ってきたのは若い美青年。どういうことか分からず、鈴明は固まった。

そんな固まった鈴明に目を向けた奏明は、じっと見つめてからハッとした顔をする。


「君は……鈴明?」


「えっ! あ、は、はい、鈴明です!」


その返答を聞いた奏明は、破顔する。


「そうか、あの時の……! 父は息災か?」


「は、はい。おかげさまで、今も元気です」


「そうか。それは何よりだ」


美青年かつずっと憧れていた皇帝陛下に微笑まれ、鈴明は顔から火が出そうなくらい真っ赤になった。


「あらあら、陛下と鈴明は知り合いだったの?」


「ああ、昔な。あんなに小さかった子が、大きくなったものだ」


「う、あの……そ、そうだ! その節は、本当にありがとうございました! 私で出来ることはなんでもします、お礼をさせてください!」


その発言を聞いた奏明と皇貴妃は、顔を見合わせる。

奏明は暫し考えた後、こう言った。


「ならば、皇貴妃の護衛と、朕に1日の出来事の報告をして欲しい」


「承知いたしました! 全力で皇貴妃様をお守りします」


目をキラキラさせながらやる気に満ちた鈴明を見て、奏明はフッと笑った。


「ああ、宜しく頼む」





それから、鈴明は常に皇貴妃について回るようになった。

そして夜になると、奏明と皇貴妃と一緒にお茶を飲みながら(固辞したが飲むよう言われた)一日の報告。

そうした日々を過ごすうちに、分かったことがある。


何故奏明は若いままなのか──それは自分でもわからないらしい。ただ、歴代の皇帝は即位すると外見の衰えが止まり、愛する人と子供ができると外見も歳を重ね始めるのだとか。不思議な力が使えるのは、一族がその力を持ってして国を統一したため、受け継がれた力なのだろうとのことだ。

何故あの時、母ではなく鈴明の頭の中に話しかけたのかは、何故か子供にしか話しかけることができないのだそうだ。

頑張ったな、と頭を撫でられた鈴明は卒倒しそうだった。


そんな日々を過ごすにつれ、鈴明は奏明への気持ちが憧れだけではないことに気づいた。

だが身分もなにもかも違う関係性で恋仲になれるはずもないと思い、諦めてもいた。

毎日話ができるだけ、幸せだ。



そんなある日、宮廷である事件が起きた。


いつものように皇貴妃の護衛をしながら後宮を歩いていると、ふと傷ついた小鳥が目についた。こんなところで死んでしまうのも可哀想だと、治療してやろうとした時。


(この傷……人為的なもの?)


かすかに残る、痺れるような匂い。

あの皇貴妃を攫おうとした女官と同じような匂い。

すぐに皇貴妃に伝え、奏明へと伝達してもらった。

鳥を傷つけた者がいるかもしれないので注意せよ、と。



奏明はすぐに皆に周囲を警戒するよう通達を出した。

残虐な事をする者は、まずは小さな動物から始めることが多い。


奏明の力には、遠い場所の状況が視えること、またその場所に遠隔で力を使えること、そして子供の頭の中に話しかけられることがある。

だが、過去の出来事までは分からない。

奏明は警邏隊に定期的な巡回を指示し、妙な事が起きたらすぐ報告するようにと伝えた。

すると、次の日も、また次の日も傷ついた鳥が見つかった。



夜、いつものように皇貴妃と鈴明と奏明はお茶を飲んでいた。

奏明は浮かない顔をしながら鈴明達の話を聞く。

その様子に、鈴明は悩みがあるならば話してはどうかと声をかけた。

奏明はしばし悩んだ後、犯人を見つける手掛かりが欲しい、と呟いた。

鈴明はその発言に、ある種の使命感のようなものを感じた。


(犯人の手掛かり……どうしたら見つかるかしら?)


鈴明は匂いには敏感かつ身体能力も高いが、それ以外は普通の少女だ。

必死に思考を巡らせた結果、あることに気づく。


「皇貴妃様、地図はありますでしょうか?」


「ええ、そこにあるわよ」


「なにか思いついたのか?」


「まだ分かりませんが、もしかしたら……」


鈴明は鳥の見つかった場所を地図で確認する。


宮廷は四つの宮に別れており、それぞれ東の青蓮宮(せいれんきゅう)、西の白葵宮(はくききゅう)、南の朱花宮(しゅかきゅう)、北の黒楓宮(こくふうきゅう)とある。

傷ついた鳥が見つかったのは、今までに4回。初めに朱花宮、次に青蓮宮、次に黒楓宮、最後に白葵宮。

鈴明は唐突に昔の遊びを思い出した。

それは両親と暗号を作って遊ぶというもの。

その中の一つに、漢字の読みが同じで違う漢字に変換し、違う意味を潜ませた四字熟語を作ったのを思い出した。

例えば、酒深酩酊(しゅしんめいてい)は漢字を変えると主心明定……すなわち心がはっきりしている、という隠し文になる。

それを元に鳥が見つかった順に四字熟語を作ると、朱青黒白(しゅせいこくはく)、または花蓮楓葵(かれんふうき)

このままでは意味もなにもないが、漢字を変えてみると……主政酷薄、彼恋封姫。

皇帝の政は酷薄だ、彼の恋は姫を封じている。

ただの言葉遊びだが……何故だか鈴明にはこれが合っている気がした。


説明を受けた奏明は、自分の政治に不満を持つ者、かつ皇貴妃を慕っている者が犯人ではないかと考えた。

そして秘密裏に調査した結果、一人の男にたどり着いた。


その男は文官長長官。

齢70になるというが、背筋も伸び、白髪の髭を生やした好々爺といった風姿。


そんな人物がまさか、と皆が思ったが、彼にはどうやら裏があったらしい。


いつものお茶会のあと、鈴明は奏明に引き留められ、犯人を見つけるきっかけをくれた鈴明には話をしておこうと説明を受けた。


「裏ってなんですか?」


「そうだな……まずは皇貴妃への恋情だな。ことあるごとに恋文を出していたらしい。通常ならば朕の皇貴妃に恋文など御法度だが、彼奴が長官なものだから誰も咎めなかったようだ」


「周知の事実だったのですね……」


「うむ。次に朕の定めた勅令に不満があったようだ」


「皇帝陛下の勅令……たしか『朝廷に務める者は身分を問わず』でしたよね。今までに無い試みに、民衆はとても沸いたとか」


「ああ。だが文官長長官はそれが気に食わなかったようで、時たま『皇帝は我ら貴族を馬鹿にしている』と漏らしていたそうだ。決してそのようなことはないのだがな。それにしても、文官長長官が驚いていたぞ。よく隠し文が分かったな、と。……小鳥を傷つけた理由については、朕の能力で治してみせろ、という腹立たしいものであった。朕は傷つけることはできても、癒すことはできぬ」


そう言って奏明は悲しい顔をした。

それを見た鈴明は、すぐさま訂正する。


「そんなことはありません! 陛下は私の父を、私達の心を救ってくださいました。民も皆、陛下の政策に助けられています。陛下の力は、陛下は、皆の希望です!」


そう言い切り、はぁはぁと息切れを起こす鈴明を見て、奏明は瞠目したのち、泣きそうな顔で笑ってこう言った。


「ありがとう……鈴明」


鈴明は、改めて奏明のことを支えたいと、心の底から思った。













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