表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

第二話 皇貴妃との出会い




時は戻り現在。


鈴明はいつものように洗濯を終え、お昼を摂りに食堂へ向かっていた。

本来ならとっくに食堂に着いてる時間なのだが、洗濯に時間がかかり今この道を歩いてるのは自分一人だ。


(今日は薬膳料理か……いや、今日も、か。蘭皇帝陛下は官吏や後宮の方々と同じ食事を召し上がると聞く。陛下は薬膳料理が好きなのかしら)


そんな事を思いながら歩いていると、前方から華やかな二人の女性が歩いてきた。


(あれは……皇貴妃様! 何故このようなところに……!)


鈴明は慌てて道の端へ行き頭を下げる。


蘭皇帝陛下は皇后が存在しない。その代わり、側室の最高位である皇貴妃がいる。皇后の代わりに後宮を束ね、蘭皇帝を支える才女。齢65になる。


鈴明が頭を下げ続けていると、目の前を華やかな香りが通り抜ける。


(わっ、いい香り……。なんの匂いだろう、甘くてお花のような……)


「ねぇ、あなた」


鈴明がひっそりとニマニマしていると、唐突に声をかけられて驚愕する。


「は、はい!?」


鈴明は慌ててひっくり返った声で返事をする。


「あなた……不思議な匂いがするわね。顔を上げてちょうだい」


「は、はい!」


下女は基本的に下働きだ。後宮の、ましてや皇貴妃などという立場の方に話しかけられることはない。


鈴明は緊張しながら恐る恐る顔を上げる。


そこには、穏やかな顔をした白髪の方が居た。目元や口元に皺はあれど、決して衰えを感じさせない。凛とした姿が素敵だな、と鈴明は思った。


「ねぇ、あなた。ここで働いて何年になるの?」


「は、はい、4年になります」


「あら、結構長いのね。得意なことはある?」


「得意な事……裁縫は得意です。あとは……」


鈴明は少し逡巡した後、こう答えた。


「少しなら、闘えます」


そう言った瞬間、皇貴妃の後ろに立っていた女官が殺気立つのを、鈴明は見逃さなかった。


鈴明は女官へとつけていた簪を投げ、間一髪で女官はそれを避ける……が、その一瞬の隙に鈴明の姿は消えていた。

女官が焦りながら探していると、頭の上に影がかかった。

女官が上を見ると、鈴明が上から降ってきて──女官の顔を蹴り飛ばした。


「うぐっ!」


「おっと失礼、女性の顔を蹴ってしまった」


蹴られた女官はその場に倒れ、痛さに悶絶している。その隙に鈴明は髪紐を取ると、女官の腕を拘束するように縛る。

解かれた黒髪が、サラリと顔にかかる。


解けないようにキツめに縛り終えると、辺りがやけに静かなことに気づいた。


「あ、皇貴妃様! ご無事ですか?」


ようやく鈴明が顔を上げると、皇貴妃が目を丸くしながらこちらを見ていた。


「……あなた、強いのねぇ」


「あ、いえ、少しなら闘えますが……大人数とかですと、流石に無理です」


「それでも十分よ。それにしても、何故私が助けを求めていると分かったの?」


「ええと、その理由は2つあります。1つ目が、皇貴妃様が向かわれる先には女官や下女の出入り口しかないこと。お昼のこの時間に向かうのは不自然かと思いました。二つ目は、匂いです」


「匂い?」


「はい。皇貴妃様の甘くてお花のような香りの後に、あの女官からは少し痺れるような……言うなれば、毒のような匂いがしました。私は、色々なことが匂いで分かるのです」


皇貴妃は少し目を見開くと、何かを考え始めた。そして暫くしたのち、ふいににっこりと笑ってこう言った。


「ねぇ、あなた。私の護衛にならない?」


「……え?」







********




ところ変わって王宮。


蘭皇帝陛下──奏明は多忙であった。

故に、皇貴妃の異常に気づくのが遅れた。


「皇帝陛下! 皇貴妃の姿が見えないと後宮から連絡が」


「なんだと?」


奏明は筆を止め、皇貴妃へと意識を集中させる。すると奏明の眼には、今まさに皇貴妃を攫おうとした女官を蹴り飛ばす少女の姿が視えた。


「……この少女、どこかで見た覚えが……?」


皇貴妃の無事に安堵しながら、奏明は思考を巡らせる。

顎に手を当てて考えるその姿は、とても齢60には見えない──見かけは25歳程の美青年であった。

髪は綺麗な銀髪であり、眼は碧く、一見この世の者ではないのかと思うほど顔面も整っている。


奏明は皇貴妃という存在はあれど、実際は姉と弟のような関係であった。奏明が即位する折、妃や側室をあてがわれることは明白であった。だが奏明はそういった存在はいらないと考えていたため、苦肉の策として姉のように慕っていた女性を皇貴妃に据えた。

恋愛も何もかも自由にしてよい、ただその地位にいてくれるだけでよいと言って。

皇貴妃はそれに是と答えた。

だが、後宮を纏め上げるその手腕は、見事なものであった為、奏明は皇貴妃に頭が上がらないのであった。



「……曲者が居たようだな。後宮の食堂への道に転がっている、回収するように。皇貴妃は朱花宮(しゅかきゅう)に向かうようだ。朕も向かおう」


「承知いたしました」


奏明は書類を整え、席を立った。

──これからなにが起こるかは、流石の奏明でも分からなかった。

















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ