7.世界を愛して side:エレシア
ーーーー長いこと、ふわふわとした意識のなかに埋もれていたように思う。
そこから助けてくれたのは、やっぱりラーシャさまだった。
導きを受けて教会へ来てからは聖女としてのお役目を果たそうと、世界を愛する祈りを捧げてきた。
ひとりぼっちで寂しくても、楽しくなくても虚しくても、そんなこと、思っちゃいけない。
わたくしは、世界を愛する特別な聖女なのだから。
ただひとりだけ、そう言わないでいてくれる人がいた。
ラーシャさまだ。
わたくしは世界を愛する聖女だから、彼の婚約者になっていずれは妻となるのに、彼だけを愛することは出来ない。
だからわたくしのことを愛さないで良いと、そう思っていたのに。
わたくしが彼を愛せなくても、わたくしを愛してくれると、その言葉にどれだけ勇気づけられたか。
彼が連れて行ってくれた久しぶりのお外は本当に楽しかった。
わたくしは聖女に相応しくない振る舞いをしたし、普通の少女としても子供っぽすぎて幻滅されるかもしれない。
それなのにラーシャさまは笑って許してくれたし、わたくしと一緒に楽しんでくれたの。
とってもとっても嬉しかったし、ラーシャさまと出会えたのなら、聖女になって良かったとも思えた。
……それなのに。
帰ってきたら、ものすごく怒られた。
聖女としての義務とか威厳とか、そういうものはとても大切だから。
国を、そこに住む人々を護るために、聖女の祈りは欠かせないものだから。
だから、聖女は何者にも心動かされることなく、真摯に祈り続けるのだ。
世界を、愛し続けなければならないのだ。
延々とそう言われ続け、いつしか心を閉ざしてしまった。
わたくしは聖女なのだから、【心を動かされることなく】【真摯に祈り続ける】【世界を愛する】
……それが出来ればいいんでしょう?
気が滅入るまで、あなたたちの言葉を聞き続けなくても、よくなるんでしょう?
決められた時以外には、水を飲むことはおろか、身動ぎすることさえ許されないのなら、それに慣れてしまえばいい。
何もせずに、何も感じずに……。
「わたくしは、せかいを、あいしております」
ただ、そう唱えるだけ。