ハンカチ
時は流れ俺たちは22歳の春を迎えた。
「おーい。若造お前へ王宮から王宮騎士団への推薦状が来てるぞー。」
隊長が気だるそうに朝から話しかけてきた。
ロザルディンに配属されて5年。
程々に実績は残してきたつもりだ。
「いやぁ、王宮騎士に入ったら彼女と会えなくなるんで。」
毎日付きっきりで王族の護衛に回る騎士団は簡単に休みなんて取れなかった。
「ふっ。まぁいい断っといてやるよ。
あとこの資料、貴族中央支部まで届けてきてくれ。」ひとつの茶封筒を渡された俺は馬で9時間ほど走ったところにある貴族中央支部へ向かった。
貴族が住む街の中央支部だけあって中はきらびやかな装飾に理解が追いつかない芸術作品が並べられそれはそれは優雅な場所だった。
「それでは失礼致します。」
そう言って届け物を提出し俺には似合わない豪華な廊下を歩いているとラァが大きな扉の部屋へ入っていくのを見かけた。
今は地上へ向けて訓練期間のはずだったのでこんなところで出会えるなんて、、。
嬉しさで少し浮かれてしまった。
偶然を装って少し言葉をかわそうと曲がり角で彼女を待つという姑息な手段に俺は出たのだ。
「失礼しました。」彼女の声が聞こえる。
足音的にこっちに向かってきていた。
すると、
「やぁ、ラーナー。久しぶりだね。調子はどう?」
よく知らない男の声が聞こえた。
「あら、スフィンあなたこそ元気にしてた?」親しい間柄なのだろうかラァもかなり嬉しそうに彼に返していた。
「なぁ、ラーナーもし良かったらだけどこの後一緒にご飯でも行かないか?いい店知っててさ。ご馳走するよ。」
ここで男なら確実に分かる筈だ
こいつは確実に下心でラァを誘っていると。
「あら、ごめんなさい。今訓練中で、直ぐに戻らなきゃダメなの。」
そう彼女が断ってくれて胸がホットした。
「そうか、忙しい時に誘っちゃったね。
じゃあ、これだけでも受け取ってくれるかな。」
もう我慢できなかった。
「…やぁラァこんなところで会うなんて奇遇だな。ほら、この前ピアス忘れてたぞ。」
そう言って相手の男に気がついてないふりをして彼女の腰に手を回した。
「ねぇ、ちょっとジャス、人が見てる」
案の定、言葉にしなくても俺たち二人の関係がただならないことを物語る赤面した顔で俺に彼女は文句を言った。
「…あ、またねラーナー。、」
男はそそくさとその場を去っていった。
見たところ貴族養成員出身者だろう。
綺麗な身なりに整った顔だったなぁと思った。
「何?いきなり?人前はさすがに、しかもピアスなんか忘れてないし」
照れを隠すように彼女は怒ってきた。
彼女を見つめ返すと手に箱を持っていた。
(やられた。)おそらくプレゼントを受け取ったのだろう。
「ねぇ、その箱何?」
少し冷たく言いすぎたか、
「ん、あぁこれさっき貰ったの。中なんだろう…」
そう言って箱の中を見つめた。
そこにはとても繊細で美しいレースに縁取られた絹のハンカチが入っていた。
中央にはRの文字が入っており明らかに高そうなものだった。
「まぁ、素敵。私がガーゼ素材ばかり使ってるから心配したのかも、」
うっとりハンカチを見ながら微笑む彼女がどうしても許せなかったが、きっと俺では買えない代物なんだろう。
…そんなん早く捨ててくれよ。なんて言えなかったから、彼女の腰をもう少し強く抱いた。近づくほど香る暖かい匂いが花をくすぐった。
ジャスは独占欲がかなり強めなんです。