久しぶり
「少し寄りたいところがあるんだ。いいかな。」
「えぇ、大丈夫。」
ゆっくり彼女は頷いて、俺の差し出した手に指を絡めてきた。
様々な花が咲き乱れる庭園を歩いていくと全く花の咲いていない庭に着いた。
少し奥まったところで人が全く居ないその場所は養成員の霊園だった。
「なぜこんなにも沢山の花がここにはあるのに、霊園には花が咲いてないんでしょうね、」
疑問そうに彼女がそう言った。
たしかにさっき居た隊員達の小高い丘にある霊園にも、端に追いやられたかのようにひっそりと存在する養成員達の霊園にも花は1本も咲いていなかった。
「まぁ、お化けが出るからじゃないか?」
ただテキトーに何も考えずにそうやって答えると彼女はふと
「お化けでももう一度だけ故人に会えるのなら大歓迎よ。」と目を細めて言った。
「俺たちが見えてないだけで案外そばにいたりするさ。」
そう返すとまた穏やかな沈黙が流れた。
きっとお互いまた会いたい人を思い出しているんだろう。
少し歩くと目的地に着いた、
「ここだ。君に会わせたかったんだ。
この2人、俺の兄貴なんだよ。血は繋がってないけど、俺を弟の様に可愛がってくれたんだ。」10歳の頃に2人とお別れをして7、8年が既に経とうとしている。
「…ごめんなさい。てっきりあなたのお兄さんがまだ生きてると思ってて、その。無神経なこと言ってしまったかも…。」
時間的に花屋も終了していて、花も何も持たずに訪れたからだろうか。
申し訳なさそうに彼女は眉を潜めた。
「いいんだ。俺が2人に君を紹介したかったから、」
そう言って2人の石碑に視線を下ろした。
何故かカミエルの石碑がほかの人より少し大きくて豪華な気がした。
それほど期待されていたんだろう。と思った。
「手を合わせようか。」優しい陽だまりの声で俺たちは手を合わせた。
(なぁ、兄貴たち。俺あの時2人がどんな関係で、どんな思いを抱いていたのか分からなかっけど、今ならなんとなくわかるよ。
俺にも大切な人ができたんだ。守りたくて、それでもその子は強くてさ。きっと俺が守られてるんだ。来るの遅くなっちまってごめんな。ずっとずっと会いたかったよ。俺頑張るからさ。)
長年伝えたかった思いが頬を伝っていった気がした。
帰り道、手をつなぎながらお互いのもう会えない大好きな人の話をした。
いつかこの手の温もりが消えてしまうことなんて知らずに。
カミエルの石碑が少し大きかったのは僅かではありますが王族の血を引いていたからです。