悲劇をかき消す音楽
忙しかった捜索の日々が落ち着き、普段通りの仕事が戻ってきた頃ようやくラァが地上から帰ってくる時期に移り代わっていた。
「おい、小僧。お前帰還式に我が国最高の逸材を迎えに行け。その日は休暇をやる。」
隊長が静かに俺に語り掛けた。
「いや、でも前回もお休みを長いこと頂いてしまいましたし…」
「迎えに行ってやらないといつかきっとお前が後悔するぞ。」
一瞬隊長が寂しそうな顔をしたような気がした。いや、あれはもしかすると何かを懐かしんでいる顔なのかもしれない。
「わかりました。せっかくいただけるのならお休みさせて頂きます。ありがとうございます。」
俺はなかなか見せない閑散としたお辞儀を隊長へすると、
「へっ、若輩が」
と返された。
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討伐隊帰還の日俺は解散式まで彼女を迎えに行くことにした。
式の会場となる少し大きめの広場にはたくさんの人が来ていて、おそらく戦士たちの家族や恋人、友達だろうと思った。
街の音楽隊の陽気な音楽が近づいてきた。
隊列がもうすぐでここへ来ることを示しているのだろう。
鳴り止む事を知らない音楽隊に続いて戦士達が迎えに来た人々の前を通り過ぎて言った。
先頭には5年前異名を授かった
我が国最大の誇りタムエル・ガーデリアン
次に
3年前に異名をさずかった
我が国最高の戦士ナタリア・ルーザス
そして、ずっと会いたかった
我が国最高の逸材ラーナー・アッシリア
が続いた。
英雄が通り過ぎるのを見てワクワクしていると、隊列が通り終わった時周りからたくさんの悲鳴と涙を流す音が聞こえた。
耳が壊れるほどの音楽の音量はこれをかき消すためなのだろうか。
ずっと会いたいと願っていた想い人が隊列にはいなかったんだろう。
ずっと陽気に聞こえてた音楽がもう悲劇をかき消すための空元気な音にしか聞こえなくなった。
帰らなかった人も沢山いると思うんです。
その人たちにも一人一人また会う日を楽しみに待っていた相手が沢山いたと思うんです。