番外編 幸せな夢
隣に彼女がいたからだろうか。
とても幸せだった夢を見た。
昔カイアルと喧嘩をして、カミエルが探しに来てくれた雨の日。
オレはどうしても謝りたくはなくてずっとロウストーンを抜け出し街の酒屋で手伝いをしていたのだ。
「おいっ小坊主!手伝いはありがてぇんだが、お前帰らなくていいのか?先生に怒られちまうぞ。」
「いいんだ。もう帰らないから。」
「おう、もったいねぇこの国でエリートになれるかもしれねぇんだろお前。」
「エリィートォ?なにそれ。そんなん誰に聞いたんだよ。信じねぇからオレ。」すると酒屋のマスターはガハガハと笑い
「お前の先生だよ。ほら、あとかっこいい顔のにぃちゃんもよくお前の話をしてるなぁ。」
「オレかどうかわかんねぇじゃん。おっさん酔ってんじゃねぇの?オレ酔っ払い大っ嫌いなんだよ。」
そう言うとまたガハガハ笑いだした。
「あぁ、俺もどんな奴かあってみてぇと思ってたがまさかこんな出会い方をするとはな、」
そう言ってオレにぶどうジュースを出してくれた。ジュースなんか飲んだことなかった俺は
「酒なんか飲んだら怒られちまうよ。」
とすっとんきょんな返答をし、また酒屋にいた客を盛り上げてしまっていた。
「坊主、ジュース飲んだことないのかい。やっぱりお前さんは噂に聞いた次期エリートさんだな」そう言ってガシガシと俺の黒い髪を撫でたマスターは満足そうにぶどうジュースを勧めてきた。
「なぁ、さっきからみんなが言うエリィートォってなんだよっ!」
「んぁ?エリートっちゅうもんははなぁ大物ってことだ。みんなお前がいつか大物になるって噂してるんだよ。」
そう言いながら8番テーブルに肉料理を出てこいと言われ肉料理を運んだ。
その時ガチャりとドアが開き
「すみませんマスターっこのくらいの身長の男の子が来てきませんか!?」
勢いよく入ってきたのはカミエルだった。外が雨だから服装はびょっしょりで、いつも綺麗な髪もボサボサで取り乱していた。
俺はマスターにシィ!と黙っているようにポーズを出したが、8番テーブルの客が
「おいっ!兄ちゃんこいつだろ!」
と言って俺をつまみ上げた。最悪だった。
「ジャスっ!!ダメじゃないか外出届けもなしに外に出たら。もう門限もとっくに過ぎてるだろ!!!」カミエルは急ぎ足で俺の方に向かってきた。
逃げるにも摘みあげられてるので絶対逃げられない。
「帰らないっ!どうせ教官にも怒られるし悪いのは俺じゃなくてカイアルだっ!!!」
そういうと、マスターが
「おい、坊主帰る場所があるって言うのはな幸せな事だ。探しに来てくれるっていうのはもっと幸せな事だと思うぞ。今日はもう帰れ。手伝ってくれてありがとな。また来てくれよ。」
そう言っておれに親指を突き立てた。
「すみませんマスター。お騒がせしました。」カミエルがそういうと、
「その愚弟とまた店に来い。ジュースも知らない青二才にはまだ早いかもしれないがな」とガハガハと笑った。
ロウストーンへ戻ると教官にはこっぴどく怒られ心配をもうかけないことを約束させられた。
自室へカミエルと入っていくと中には因縁のカイアルがソラスのベットに座って泣いていた。
「ほら、カイアル謝れよ。どんだけ悪いと思っていても言わないと伝わらないんだぞ?」
そう言ってカイアルの隣に座っていたソラスが謝罪を促した。
「お前の作った自信作のコップダサイって言ってごめん」
泣きながらの謝罪を受けいれた俺は、
なんだか今日一日で自分の小ささに気がつけた気がした。
その日は今、思い返すとそれは幸せな思い出だった。