体には気をつけてね。
「にぃちゃん、にぃちゃんってば
どうかしたの?」
その言葉でやっと我に返れた俺はおもむろに、
「あ、いえ、本当に良かったです。」
そう返すしかなかった。
そんな時先輩が俺を探しに来てくれたようだった。
「おーい。ジャス!隊長が集まれってさ。…お前何してんの?」
「あ、お疲れ様です。
報告ありがとうございます。
只今迷子のお子さんと保護者の方が接触出来ました。」とかしこまって言うと、
「良かったな、坊主。
お母さん。わかっていると思いますがここでお子さんの手は決して離してはいけませんよ。」と営業スマイルを添えて先輩は母さんに対して注意していた。
「家まで送ります。坊主ブリキの馬に乗ってみるか!」対応の仕方に慣れている先輩は子供をブリキの馬へ跨らせた。
「おい、ジャスお前はお母さんと一緒に来い。」
そう冷たく突き放された。
先輩と迷子だった子供は少し前を歩いていたため、俺は母さんと2人で歩くことになった。
「…あなた、ジャスだったのね。」
そう言われ、昔見上げていたはずの母親を見下ろして母親を見た。
「私、あなたが居なくなってからお父さんと別れたのよ。あの人あなたを送り出したお金をもって夜逃げしたの。」
俺の家族は俺があの家を出た時にもう崩壊したようだった。
「あそこまで、子供を愛せたんですね。」気がついたらそんなことを口走っていた。
自分が受けられなかった愛を羨み、弟に当たるであろう10個ほど離れた子供に嫉妬をしていた。
「そうね。あの時は自分のことで精一杯だったのかも。
あそこが最貧と呼ばれているのは経済面だけではなく、心の余裕の意味も入っているのかも…。」
そんな流暢な言葉を返され、悔しかった。
「…俺、俺みたいな不幸な子供を助けるために警備隊に入ったんです。あの時本当は誰かに助けてもらいたかったから。」
ずっといえなかったことが溢れてきた。
兄貴の正義感に憧れたのも、自分がどこまでも正義を貫きたいと思ったのも、全部過去の自分を救いたかったから。
「ごめんなさい。ジャス。
私は本当に母親失格ね。」
悲しかった。
母さんを責めたいわけじゃなかった。
ただ、愛されたかった。親父が家を出たんなら迎えに来て欲しかったし、
犬を拾うくらいの余裕があるなら俺よ安否くらい調べて欲しかった。
そう思っていると、家らしいところに着いたようだった。
「…もう、子供の手を離すことは絶対にしないでください。
ここは最果て地と呼ばれる危ない場所です。たとえ治安が安全な王宮でも決して子供の手は離していいものではありません。いいですね?」母さんに最後の別れとして挨拶をしている時、先輩が横で頷きながら聞いていた。
「今回は大変なことをしてしまったわ。手を離してしまったら子供は二度と戻ってこないと知っているのに。
ご迷惑をおかけしてしまい申し訳なかったです。」
そう母親が言ったところで
「いえいえ、これが仕事ですから。
ではまた。」と先輩がいいその場から離れていった。きっともう会うことは無いだろう母親の顔に背を向けた時
「体には気をつけてね、」
最初で最後に母親からの愛に触れた気がした。
俺は先輩が前で俺を呼んだから何も言わずにその場から走り去った。
これはどうしても書きたかった!
ジャスの人生の中で母親という存在に少し嫌悪感があり、愛されたいという強い思いがあったと思うんです。
全く恋愛関係ないですが…。