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ミューゼルが泣いた日  作者: 月ノ葉森羅
第二章 君と一緒に迷路の中
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第ニ章 君と一緒に迷路の中(2)

「というわけで、今日から私がこのクラスの担任になりました。夢木ソラです。よろしくねー」

「・・・はあ」


 というのが、教壇に立つソラに対する、生徒達の返事だった。

 ソラの宣言により、星廻は、ただちにクラス編成がなされ、それぞれに個別の教室が与えられた。

 三十人でひとつのクラスとなり、突然のことに、生徒達は動揺を隠せなかった。

 そして、ソラのクラスの生徒達は動揺を通り越して、言葉を失っていた。


 ーークラス分けっていうだけでも、よく分からないのに。理事長が担任ってどういうこと? その理事長が、まるで理事長らしくない、何処にでもいるフツーの・・・いや、やってることはフツーじゃないから、フツーに失礼かもしれないけど。とにかく、何も考えてなそうな、お気楽なこのねーちゃんが、星廻学園の理事長で、おまけに私達の担任って・・・ねえ、もう一体どういうこと!?


 ソラが担任となったクラスの教室は、船の倉庫部分だったのか、がらんとした灰色の空間だった。それでもピンク・ゴールドに輝く教壇(こんなもの何処から出てきたんだと、生徒達は首を傾げた)が置かれ、それぞれに椅子と机が与えられた。困惑しつつも席に着いた生徒達を見ながら、ソラは、にこにこと話を始めた。


「で、まず今月ね。今月4月の行事を何にするかは、まだ決めてないんだけどね。何をするにしても、みんなで力を合わせてがんばろうね、ってことでね。それでね・・・ねえ、ちょっと、ミューゼル。ねえってば、おーい。聞いてるの、ミューゼル。あたし、あなたがいるから、このクラスの担任になったんだよぉー。少しは反応したらどうなのー」

「反応する義務なんかない。このクラスの担任になってくれなんて、俺は一言も頼んでない」


 教室の最後列に座ったミューゼルは、けんもほろろに言い返した。

 彼は、甚だ不機嫌だった。不機嫌になるのも当たり前だった。


 ーー俺は、ゾイア教授の研究所に入るため、この学園に来たんだぞ。生徒として来た覚えなんかない。なのに、教授は学生をやれというし、うるさい女には、あれこれかまわれる羽目になった。俺にはこんなことしてる暇はないのに。・・・それに、あの笑顔。人のパーソナルスペースに、ずかずかと踏み込んで来るような、この女の笑顔。俺をイライラさせること、この上ない!


 ミューゼルは、ソラの笑顔に対抗するように、肩をいからせて、


「ったく、ガキじゃあるまいし。みんなで力を合わせがんばろう〜、なんて、クソ馬鹿馬鹿しくて、やってられるか」

「でも、力を合わせなきゃどーしようもない時だって、あるかもよ」

「今のとこ、ねえよ。大きなお世話だ」

「・・・ふむ」


 ソラは、天井を見上げて、しばし考え込んだ。それから、ふふっと笑って、「じゃあ、ゲームしましょうか」と、言った。


「ゲーム?」

「そう。ねえ、あなた、ゾイア君の研究所に行くルートを解除することが出来るんですってね」

「・・・それがどうした」

「じゃあ、簡単なゲームよ。明日、クラス全員を、ゾイア君のところまで連れていって頂戴。朝九時に出発して、午後三時までに辿り着けたら、あなたの勝ち」

「随分時間をくれるんだな。途中に何か仕掛けるつもりか」

「うふふー」


 ソラは、ほくほくとした様子で、ミューゼルを見た。その邪気のない笑顔は、ますますミューゼルをイラつかせた。


「それはナイショ。教えちゃったら、つまんないでしょ。その代わり、無事に辿り着けたら、あなたをクラスからはずしてあげる」

「あぁ?」

「毎月の行事になんか参加しないで、好きにすればいいわ。その代わりあたしが勝ったら、ミューゼルはこのクラスの委員長になるのよ」

「誰がなるか、そんなもん!」

「じゃあ頑張って、みんなと一緒にゾイア君のとこまで辿り着いてね。・・・待ってるから」


 と、ソラが急に、本気で微笑んだ――ように、生徒達には見えた。

 彼女の腰までの長い黒髪が、突然艶めかしく光ったような気が、した。


「明日あたしは、ゾイア君の研究室で、みんなが来るのを待っているわ。・・・いーい? 一秒だって遅れたら、ミューゼル、あなたの負け。この学園にいる間は、あたしと本気で遊んでもらうわよ」


 ーーなんだ、この女。


 気圧されたのが悔しくて、だけど何も言い返せずに、ミューゼルはソラを見た。


 ーー生意気だ、おせっかいだ、うっとおしい、うるさい。なのに、どうして俺は、いや俺だけじゃない、クラスの奴等だって。俺達みんな、蛇に睨まれたカエルみたいに、動けなくなって・・・この女のことを、綺麗だと思っているんだろう。Tシャツにミニスカート、冗談みたいにラフな格好の、こんな女の何が。・・・何がそんなに綺麗だって言うんだろう。


 心の中で呟いたけれど、ミューゼルは答えを見つけることが出来なかった。

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