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24.中庭と不良

 愛海まなみは中庭の花壇のふちに腰掛けていた。こうしていると翔子しょうこのことを考えてしまう。

 (翔子さんて、優くんの昔のこととかどう思ってるんだろう)

 優磨ゆうまの過去はおそらく愛海の想像では追い付かないほど激しい。しかもその相手をほとんど知っているうえに、今でも同じ学校にほぼ全員がいるはずだ。その中の一人くらいは優磨のことが忘れられずにいてもおかしくないのではないだろうか。

 (翔子さんなら勝てる気はするけど、でも、もし優くんのことを追いかけてくるような子がいたら・・・。離れてるしわからないよね)

 自分と二人は世界が違うのだからと思っていたが、こうして少しでも重なるところがあると急に近くに感じてしまう。翔子の偉大さがまぶしい。対する優磨も今では翔子以外には見向きもしない感じだし、二人の間にある強い信頼関係のようなものが愛海にはうらやましかった。

 (なんでみんな平気なの?私が弱いだけ?)

 思考がぐるぐる回りだして、愛海は勢いよく頭を振った。こんなのは自分じゃない。ホーリーナイトの相手はもっと他にいるんじゃないかと思っていた昔の自分が、他の誰とも何もしないでほしいと思っているなんて、信じられない変化だった。

 「あぁっ、もう」

 「何やってんだ、お前」

 思わず声に出した瞬間、斜め後ろから声をかけられた。頭を振ったせいで乱れた髪のまま、愛海は振り返った。おかしなものでも見るかのような顔で立っていたのは明良あきらだった。

 「な、なんであんたがいるのよ」

 「偶然歩いてたら見えたから。それより髪、すごいことになってるけど」

 「え?あっ」

 急いで整える。どの辺から見ていたのだろう。無意識におかしな動きをたくさんしていたのではないだろうか。考えると恥ずかしい。

 「明良くんてさ、ちゃんと学校来るんだね」

 「来ちゃ悪いかよ。姉貴に毎朝追い出されるんだ。それに、ここに来れば少しは情報も得られるだろうしな」

 「まだ諦めてないの?」

 「当たり前だ。お前らが口を割ればすぐに解決するのに」

 言いながら明良は愛海の横に腰を下ろした。すぐに立ち去ると思っていた愛海は少しびっくりする。

 「なんだ、その不思議そうな顔は。なんかあったんだろ。話くらい聞いてやるよ」

 「・・・なんで?私たちそんな仲じゃないよ」

 明良とはあれ以来何度か話してはいる。とにかく冴子さえこのことを知りたがっている彼は鈴子と愛海に何度か会いに行っているのだ。その度にあしらわれているわけだが、屋上仲間になったわけでもないし、ホーリーナイトとしても誰ともつるんでいない明良がいきなり相談にのると言ってきたことに驚きを隠せない。

 「そんなことわかってる。ただ、その、話聞いたら見返りがあるかもと思ってのことだ」

 明良は慌てているようだった。少し顔が赤い。

 「そういうこと先に言っちゃったら、話す気なくなるじゃん」

 言いながら愛海は笑ってしまった。見た目は悪そうでも中身はどこかかわいい。冴子もかわいがっていたのかもしれない。それが彼をシスコンにしたわけだが。

 「そんなにおかしいかよ。さっきは死にそうな顔してたくせに」

 「・・・もしかして心配で来てくれたの?」

 「ちがっ。うぬぼれんなっ」

 「顔赤いよ」

 「うるせぇ。話すことあるならさっさとしろ」

 そんな格好やめてしまえばいいのに。愛海は改めて明良を眺める。目にかかるくらい長い金髪も、ネクタイをしめようともしない制服の着方も、相手を威嚇いかくするようなしゃべり方も、全部いらないものに思える。冴子に抱く憧れのような感情が今の明良を作り上げたのだとしたら、もう必要ないんだと教えてあげたかった。ありのままの、硬派で実は照れ屋な彼がホーリーナイトにふさわしい。

 「どうした?」

 「ううん。あのさ、明良くんて彼女いる?」

 「なんだよ、いきなり。今はいないけど・・・」

 「じゃあ、いたことある?」

 「バカにしてんのかよ。お前よりはもてるんだぞ」

 (そんなのわかってるってば)

 「じゃあ彼女がいたときって、その人の過去のこととか気になったりした?」

 「そりゃ気にならないっていったら嘘になるけど・・・」

 「じゃあその人の元カレが現れたらどうする?」

 「どうするって・・・・。ちょっと待て。俺は自分のことを告白するためにここにいるんじゃねぇぞ」

 はっとする愛海を見て、明良もあっとなる。

 「なんだよ。そういうこと?」

 ため息をつかれ、愛海は居心地悪そうにうつむいた。

 「笑いたきゃ笑いなさいよ。私にとっては大変なことなの」

 「誰もおかしいなんて言ってねぇだろ」

 「でも・・・」

 顔を上げたら涙がこぼれてしまった。悲しいわけではない。悔しいわけでもない。

 「な・・・んで・・・涙?」

 「不安、だからだろ」

 明良は愛海の涙をぬぐう。その動きは実に紳士なものだった。やっぱりこの人は冴子の弟であり、ホーリーナイトと呼ばれておかしくない人だと、愛海は心の片隅で思う。

 「お前もそれだけそいつのことが好きってことだ」

 「そうなのかな」

 「好きでもない奴のことで泣いたりするかよ。お前のつき合ってる奴って、海人とかいうすごい奴だよな、確か」

 なんともおおざっぱな説明だが、合っているはずだ。

 「そりゃいつ他の女にとられるかわかんねぇし、ましてや元カノがより戻したいとか言ってきたら不安にもなるよな。でもお前はそいつが好きで、向こうも今はお前が好きなんだろ?だったら今やることはこんなとこで泣くことじゃないだろ」

 「明良くん」

 「なんだよ」

 「まともなこと言えるんだね。なんか心に響いた」

 「お前なぁ・・・」

 「ありがと」

 愛海は目一杯の笑顔を向けた。

 明良の目には今まで知らなかった愛海が映る。

 (たちの悪い女だな・・・)

 明良は無邪気に笑う愛海に悟られないよう、赤くなった顔を背けた。


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