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カビの痒いとこ  作者: ヘルベチカベチベチ
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 痛いほど浸透し、徐々に奪われていく熱はついにカビの根っこで最後となった。こうして目が清潔を取り戻すと、閉じた瞼の隙間から涙が、不潔の生き残りを連れて這い出てきた。

 ここ何日か悩まされていた症状も、目薬さえ使ってしまえばどうということはない。気持ちのいい間にかゆみは改善、あすには万全、効きすぎちゃってマジさーせん。ふざけたキャッチコピーだが、現にこの目薬にはあなどれない効き目があるようだった。

 私はいまだにドラッグストアの駐車場から出ないでいた。店から出てきて、そのまま車内ですぐに目薬を使ったのだ。カーラジオからは、聞き馴染みのないアイドルソングが流れている。ただ流れている。

 目薬を差してしばらくの、目の疼きも抜けてきたころだった。どのくらいの時間が経ったのかは知らないが、すでに曲はアイドルソングから変わっており、いまどきお目にかからないほどの熱苦しいパンクロックがかかっていた。ギターとドラムが盛り上がっていき、ボーカルの叫びが、車のショボいスピーカーから小さく聞こえると、私はやっと家に帰ることを思いついた。なんだか呼び覚まされた気分だった。

 帰りの運転中でもラジオは変えなかった。このラジオは一体どの層に向けてやっているのか、流れる曲のジャンルはとどまることを知らず、パンクの次はレゲエ、ファンク、シティポップ、ブルース、ヴェイパーウェーブ。家に到着するまでに聞いたものだけでも、これだけ多種多様な音楽がかかっていた。しかも、おそらくではあるが年代もバラバラである。シティポップの曲では確かに今風な感じを受けたが、ブルースでは演出とは思えないノイズがかかって埃っぽい音がしていた。これはラジオで流れていたどの曲でも同様であり、音の端々に年代のしっぽが聞こえていた。

 家の前まで帰ってくると、私の家の玄関に向かって立っている男がいた。インターホンに手を伸ばして、空き巣かしらと不審に思ったが、そのあと諦めた男の振り向きざまに見えた顔は、間違いなく私の友人、羽毛の男であった。そして彼は、なぜだか右目に眼帯をつけていた。私は駐車をすませ、こちらに寄ってきた友人に声をかけた。

「おはよう。その眼帯、どうしたんだい。」

「おはよう。そうなんだ。この右目の話をしたくて、朝からはるばるお前のとこにやって来たんだ。さあさあ、早く僕を家にあげてくれ。」

 冗談交じりではあるが、彼は何か焦っているようだった。私はさっさと家のカギを開けてやった。

「僕はコーヒーね。砂糖もミルクもいいや。今はそれどころじゃないんだ。」

「分かったけど私もそれどころじゃないんだ。まず手洗いうがいをさせてもらうよ。」

 宣言通りに手洗いうがいをすませ、二つのマグカップにインスタントコーヒーを淹れた。片方はブラックで、もう片方はありありだ。

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