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Space Sights  作者: 津辻真咲
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無限

スペース・シャトル内に血液のにおいが漂っていた。負傷者が2名いる。幸いにも、止血の作業で出血は治まっている。

「ちょっといいですか?」

そんな空気の中、スペース・シャトルの操縦士がエリカたちに話しかけてきた。

「アンドロメダ支部の研究員たち全員がエリダヌス本部へ出向していることはご存知ですか?」

「え? 何で?」

一一・ロボロフスキーは操縦士の方を向いた。

「Space Soldiersの皆さんは、あの惑星の調査中で知らなかったと思うのですが、この宇宙はあと数週間でBig Freezeを迎えるそうです」

「え?」

「本当か!?」



研究員の声でざわめき立っているエリダヌス本部。その中にあの二人もいた。が、パソコンのキーボードを打つ手が止まっていた。

「……」

「どうしたの?」

サラ・ブラウンは李四の様子に気付く。李四は無言のまま、サラ・ブラウンにUSBフラッシュメモリを手渡した。

「分かった。見てみる」

サラ・ブラウンはパソコンにそれを接続してファイルを開いた。そして、そこに書かれている仮説を読む。

――なるほど。

「可能かも」

サラ・ブラウンは表情を明るくして李四を見た。

「でも、反粒子の残った宇宙へ行かないように気を付けないと」

「四!」

サラ・ブラウンは李四に笑顔で抱きついた。



アンドロメダ支部にスペース・シャトルが到着する。エリカたち6人が調査を終え、帰還して来たのだ。

扉が開く。

「皆」

開いたドアからアンドロメダ支部長、アイシイ・コーハが入ってきた。

「どうかしましたか?」

村崎葵は尋ねた。

「エリダヌス本部へ出向していたサラ・ブラウン研究員と李四研究員がほかの宇宙へ移動する方法を発見した。だから、今から全宇宙連合加盟国が一斉にエリダヌス本部へ向かう。私たちも行くぞ」

「はい」

それぞれ返事を返した。



「移動する宇宙は決まりましたか?」

エリダヌス本部の巨大な研究室でたくさんの研究員が働く中、研究開発部長は、近くにいた研究員の男性に尋ねた。

「はい。今までの重力子によるほかの宇宙の観測データを参考に決めました。この宇宙に隣接していて、年齢もあまり変わらない宇宙です」

「そうか、分かった。あとは、この宇宙全生命体と宇宙コロニーをスムーズに移動させるだけだな」

「はい」

その返事を聞くと、彼はまた研究員たちの間を抜けて歩いていった。



「これからどうなるんだろう?」

「……」

本部へ移動するスペース・シャトル内では、一一・ロボロフスキーが脚を投げ出す。座るのに疲れてきたのだ。そこへ、ちょうどスピーカーからアナウンスが流れた。どうやら、到着したようだ。

 ドアが開いてエリカは驚いた。

――こんなにたくさんの人たち?

出国ターミナルにはたくさんの生命体たちが出国を待っていた。

「時間がないから、一斉に移動するのかもしれないわね」

――そっか。

エリカは村崎葵の横を歩き出す。

「エリカ!」

サラ・ブラウンが李四と共に走って来た。

「あ!」

「エリカ、みんな、行くわよ!」

サラ・ブラウンはエリカの手を握り、走り出した。

「どこへ!?」

「第一便の宇宙コロニーよ」


出国ターミナルの先に、巨大な宇宙コロニーが幾重にも並んでいた。サラ・ブラウンは、そのうちの一番手前のものを指差す。

「あれが第一便の宇宙コロニー」

――わぁ。

エリカの表情が明るくなる。

「さすがだな。本部は仕事が早い」

灰崎博嗣はつぶやいた。

「さ、乗って!」

サラ・ブラウンは皆を中へ誘導する。

宇宙コロニー内は、コンサートホールのような開けた空間が続いていた。皆はそこへ誘導された。もちろん、他の宇宙生命体の方々も。そして、それぞれ各自適当に席につく。耐衝撃のベルトを装着して。

エリカはちらっと横を見る。そこには、巨大な一面窓があった。手前には手すりもついている。

――わぁ。

その窓からは手前から奥へと数珠つなぎに、先ほどの宇宙コロニーが並んでいるのが見えた。それを見て、エリカは少しドキドキした。

ずっと前からそうだったのだが、人類に帰る場所などない。もちろん、今回の出来事で全宇宙生命体に帰る場所がなくなった。だからだろう。こんなにも希望であふれている。これでやっと次へ進めるのだ。


宇宙コロニーの搭乗者数が100パーセントになり、各搭乗空間にアナウンスが流れだした。

《第一便出発まで残り10秒》

「え!? もうカウントダウン!?」

一一・ロボロフスキーはスピーカーを見上げる。

《5.4.3.2.1.0…》

轟音が響き渡る。

エリカは座席の手すりにつかまる。衝撃で目を閉じて。

「……」

5秒ぐらいあとだろうか、エリカはゆっくり目を開けた。すると。

「!」

――これが、宇宙の外!?

宇宙から宇宙へ移動している。だから自然とそう思った。しかし。

――そうか、光子は宇宙と宇宙との間を通り抜ける性質を持っていなかったんだった。

その景色は宇宙の外の景色ではなかったが、エリカは期待で胸がドキドキした。

月面から続いてきた、生命体たちの夢。自分たちはいつも一歩を踏み出して成長する。これからも。


《ワームホールの通過完了。ワームホールの通過完了》

アナウンスが流れた。そして、少しの沈黙のあと、生命体たちのざわつく声が聞こえだした。一方、エリカはずっと窓の外を見ていた。

――あれって、もしかして。

「あ! たくさんの宇宙コロニー」

誰かがはしゃいだ声をあげる。

「どうやら、すでに〈宇宙連合〉が存在しているみたいね?」

サラ・ブラウンは座席の手すりに肘をつく。彼女は、エリカの向かいの席に座っていた。

「どうなるんですか?」

「うーん……」

サラ・ブラウンはエリカの問いに少し困った。

「サラ」

「何?」

李四の方へ振り返る。李四はサラ・ブラウンの左隣。

「今、広報担当からメールがあって、向こうの宇宙コロニーから、〈連合へ加盟しませんか?〉だって」

「上に報告しに行きましょう」

サラ・ブラウンは少し微笑んで席を立つ。それを見て、李四は慌てて耐衝撃ベルトを外す。

「どうせ、OKだろ?」

通は走っていく二人の背中を見ながら手すりにもたれる。

「そうだね」

エリカは笑顔になった。


新しい価値観に再び出会う。

今度こそ、同じ時空そらのもと。

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