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Space Sights  作者: 津辻真咲
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Big Freeze

「エリカ」

研究室が並ぶ廊下を歩いていたエリカは、通の呼ぶ声に振り返った。

「須木君?」

「名字以外」

「え」

驚くエリカだが、通は表情を変えずにエリカを見ていた。研究室の窓ガラスは、すりガラス。エリカたち二人の姿は見えない。エリカは顔を赤くした。

「え……っと」

「エリカ!」

サラ・ブラウンがいきなり声をかけたので、エリカはものすごく驚いた。

「どうしたの? 顔が赤いね?」

「な、何でもないです」

エリカは下を向いて答えた。

「?」

サラはきょとんとしていた。

「あ」

下を向いたとき、エリカにはサラ・ブラウンが右手に持っていた資料が見えた。

「今回の惑星ですか?」

「そう。今回もSpace Soldiersのみんなと行ってもらおうと思って」

サラ・ブラウンがぱちりと片目を閉じる。

「はい」

エリカは普通に返事をした。


今回の惑星は、はくちょう座の網状星雲の方角にある、自転の速い岩石惑星である。その惑星には衛星が一つもなく、そのために自転が約8時間と速くなっていた。ちなみに人工惑星である。



「サラ」

李四がサラ・ブラウンを呼び止める。ちょうど彼女がエリカたちに資料を渡したあとのこと。皆は出国ターミナルから現地へ出発していた。

「どうしたの? 四?」

サラ・ブラウンが振り返る。

「復旧したエリダヌス本部から今、連絡が入ったんだ」

「何?」

「ここ数週間で、この宇宙がBig Freezeを迎えると」

李四はうつむき加減で言う。そんな李四の伝言にサラ・ブラウンは驚いた。

「なぜ!? 今までの計算で行くと、あと数億年は3Kケルビンが続くっていわれていたのに。宇宙の膨張が加速しているからって、そんなに早く?」

「今までの数値は、すべて真空のエネルギーの値が間違った状態で示されていたことが分かったんだ。だから……」

――真空のエネルギーの値が?

「計算ミスで済まされる事ではない。こんな重大な事」


Big Freeze。それは、宇宙内の温度が0Kゼロ・ケルビンになり、すべての粒子が振動をしなくなり、宇宙が終焉を迎えるというものである。その他に宇宙の終焉には、宇宙がある一点で潰れるBig Crunch、そして急激な膨張により構造がバラバラになるBig Ripがある。


「今までに誕生した4つの力、重力相互作用・強い相互作用・弱い相互作用・電磁相互作用。その分岐によって、真空のエネルギーが4段階の相転移で減っていった」

「えぇ」

「その時、真空のエネルギーの値を間違えていたんだ」



《はくちょう座網状星雲惑星系第9惑星に到着》

アナウンスが、皆の搭乗しているスペース・シャトル内に流れる。

「着いた」

村崎葵がみんなに目配せをする。

「はいはい」

一一・ロボロフスキーは二度の返事。

「よし、行こう」

藍原瑠璃は颯爽と立ち上がる。そして、全6名はスペース・シャトルから飛び降りた。皆それぞれ大地に不時着するが、着地した途端、それぞれ少しずつだが地面を流されていく。

――わっ、すごい風。

エリカが暴風に驚き、体勢を崩しかける。

「大丈夫か?」

通はエリカのいる方を見て言うのだが、そこにはただ彼女の曖昧なシルエットしかない。この岩石惑星の風速300キロメートルの暴風がそうさせる。

――この風の中に、生命体がいるの?

エリカは、耐えながら考えていた。


《お前らは誰だ!》

突然、宇宙連合の公用語が全員の脳内へ流れ込んできた。

6人は振り返る。

そこには、暴風の中、岩石の大地にこの惑星の生命体と思われる者が佇んでいた。声で分かる。調査員ではない、第三者。

「もしかして」

――公用語。この惑星は、宇宙連合に加盟済みだったな。

通は6人の一番後ろからその宇宙生命体の小さなシルエットを見ていた。すると、その宇宙生命体、ザザ・ジュリンは全てを察したようだった。

《対話などするものか! 出て行け!》

ザザ・ジュリンはその言葉を叫ぶと、黙って6人を見ていた。



 一方、アンドロメダ支部では全職員がBig Freezeの話で仕事が手についていなかった。もちろん、全宇宙に散らばっている宇宙連合加盟国の生命体全員も同じである。

すると、アンドロメダ支部の緊急対策センターのドアが開く。

「支部長」

アンドロメダ支部長のアイシイ・コーハだった。

「アンドロメダ支部、全研究員の皆。エリダヌス本部の応援開発へ来てほしいと今、連絡がありました」

アイシイ・コーハ支部長は全員を見渡して話を続ける。

「この宇宙から脱出し、別の宇宙へ移動できる。その研究と開発をしようと決定しました。凍らずに済む方法を皆で探そうということだそうです」

用件はそれだけなのだが、まだ少し続けた。

「あと数週間ある。生命体は宇宙環境に振り回されるだけではいけない。生きることを諦めたくはないでしょう」

センター内が少しざわつく。

「必ず、生きて。そして、全宇宙の方々を守って。違う宇宙へ脱出しましょう」

「……」

研究員が息をのむ。

「では、出発の準備を。各支部も支部長だけを残して、研究員が皆、本部へ出向するようですよ」

ドアが閉まった。



 暴風が吹き荒れる。

はくちょう座網状星雲惑星系第9惑星の風の中、宇宙生命体ザザ・ジュリンは6人に襲いかかって行く。ザザ・ジュリンには、先端に刃の付いた触角がある。なので、それを使用し攻撃をするのである。

彼は、この暴風に耐えられる重量と空気抵抗の低さを持っている。それにより、移動は得意ではない。が、しかし、その代わり触角による攻撃は、皆の想像以上だった。


すると、エリカには一瞬見えた。藍原瑠璃が攻撃を避けきれずにザザ・ジュリンの刃が頭部をかすめるところを。それにより、藍原瑠璃の頭部から、少量の血液が滴り落ちた。

「瑠璃!」

滴り落ちた血液が村崎葵にも見えた。

「危ない!」

ザザ・ジュリンの刃が今度は村崎葵の大腿部をかすめる。

――このままじゃ、らちがあかねぇ!

藍原瑠璃の救出をと焦る一一・ロボロフスキーをよそに、灰崎博嗣は冷静に宇宙生命体ザザ・ジュリンの攻撃パターンをじっと見ていた。

ザザ・ジュリンの攻撃は、収まらない。

しかし、次の瞬間……。エリカは驚いた。ザザ・ジュリンが吹き飛び、暴風の中を転がっていく。

「……」

灰崎博嗣が無言で地面に着地する。

「もう大丈夫」

灰崎博嗣がザザ・ジュリンの隙をつき、蹴りをいれたのだった。

「ひとまず、こんなところでしょう。エリカ調査員、スペース・シャトルへ連絡を」

「はい」

エリカの返事を受け取った灰崎博嗣は、地面に倒れたザザ・ジュリンを見た。

――この子もこの惑星保護活動にうらみがあったのだろうか。

「……すまない」

灰崎博嗣はザザ・ジュリンの近くに寄り、しゃがみ込んだ。

――どうして、共同生命体を保護してくれなかった? あの惑星の生命体たちとはずっと一緒だと思っていたのに。保護どころか、宇宙連合にまで加盟させてもらえなかったなんて。

ザザ・ジュリンは、積年の想いを涙として流した。

 共同生命体は、保護してもらえなかったために、失ったのだ。自分たちは知的生命体と判断され宇宙連合に加盟できたのに、相手は何も認めてもらえなかったのだ。

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