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Space Sights  作者: 津辻真咲
12/14

ダウン・サイキバ

「ジェッ・ト長官、お連れしました」

一介の調査員であるシ・ミードがダウン・サイキバを連れてきた。このエリダヌス本部の首閣府の一室へ。

「手間をかけたな。もういいぞ」

ジェッ・ト長官は、シ・ミードの方を見て言った。

「はい」

シ・ミードは返事をすると、部屋を出て行った。

「よく来てくれたね」

「はい」

ダウン・サイキバは、視線を下へ落としていた。

「来て早々だが、君の能力を分析させてほしい」

「はい」

ダウン・サイキバは視線を上げた。

「それでいいかな?」

「はい」

ダウン・サイキバは虹彩を開き、ジェッ・ト長官を見た。



 アンドロメダ支部の一室。

沈黙が続いていた。そこでエリカは必死に考えていた。上層部への抗い方を。

――せめて理由だけでも。

エリカは制服の裾を握りしめる。

「私たちSpace Soldiersも連れて行くこと」

強い瞳の藍原瑠璃が後ろから声をかけた。それにエリカは驚いて振り返った。

「皆さん?」

「ダメかもしれないけど、逆らってみましょうか?」

村崎葵が優しく苦笑した。

エリカは瞳を大きくした。とても嬉しかったのだ。

「そうと決まれば早く行くぞ!」

一一・ロボロフスキーは開いた自動ドアへ手をかける。

――相変わらずだな。

灰崎博嗣は、少し遠くから微笑んだ。



 皆は、ある場所の廊下を歩いている。

――どこにいるんだろう?

エリカ、通、そしてSpace Soldiersの皆は、宇宙連合のエリダヌス本部へ乗り込んだのだ。

「正面突破しかないかもな」

一一・ロボロフスキーはにやりと笑う。

「え?」

「後ろを見てみろ」

エリカは振り返る。すると警備ロボットが並んでいた。

「走るぞ!」

一一・ロボロフスキーが叫び、走り出す。皆もあとに続く。

エリカは、前からの警備ロボットに気づく。

「任せろ!」

一一・ロボロフスキーは、そう言うとひとつ飛び出た。

そして、Space Soldiersたちは、一撃で警備ロボットたちを破壊していく。

「二人とも行くよ!」

村崎葵がエリカと通に言う。

二人は、戦う一一・ロボロフスキーの横を通り過ぎ、村崎葵と共に走る。すると。

――後ろからも来た。

一番後ろにいた灰崎博嗣が後方で止めに入る。

「それで、どうやってダウン・サイキバを見つけるんだ?」

通は藍原瑠璃に聞く。

「そんなの簡単! ダウン氏はもうすでに、アンドロメダ支部の職員として働いていたんだ。職員は皆、調査員同様のバッジを持っている。だから、探知機能を追って行けばダウン氏に行き着く!」

「それで、肝心のバッジの場所は?」

 通は後方から追い上げて来た一一・ロボロフスキーに尋ねた。

「ここから3時の方向にある。行くぞ!」

一一・ロボロフスキーは、再び先頭に立ち、先へと急ぐ。

しかし。

《侵入者、止まりなさい! 侵入者、止まりなさい!》

簡易な人工知能しか搭載していない警備ロボットが警告音を流し、立ちふさがっていた。

「そうはさせるか!」

一一・ロボロフスキーと藍原瑠璃が警備ロボットを蹴り壊していく。真後ろでは、灰崎博嗣が後方からの警備ロボットを破壊する。だが、一向に数が減らない。

「ロボロフスキー、今のダウンの位置は?」

通が警備ロボットへの回し蹴りの後、尋ねる。

「ちょうど、12時の方向だ。この廊下を行けば着くはずだ」

一一・ロボロフスキーはそう言うと、Space Soldiersのメンバーと共に走り出す。エリカと通もあとに続く。

――確か、この廊下の先の部屋は。

つい最近まで本部勤務だった通はある事に気づいた。

「着いた……」

エリカは扉の前で佇む。

――ここは、首閣府長官室。

……ヒュン。

ドアが開いた。

すると、ダウン・サイキバの姿が目に入って来た。その姿を確認したエリカは彼に駆け寄ろうとした。しかし。

「待て」

通は部屋の奥を見つめ、エリカの腕を掴む。

「一番奥の椅子に座っている奴を見ろ。宇宙連合エリダヌス本部ジェッ・ト長官だ」

――あの人が?

「俺たち調査員の最高峰だ」

エリカは黙ったまま、その人物を見た。


「どういう経緯でここへ来たのかな?」

ジェッ・ト長官は腕を組んで座っている。

「このダウン君は自らここへ来ることを決めたんだ。今更君たちが来たところで何かが変わるとは思わないが」

 すると、ダウン・サイキバが口を開いた。

「エリカ、通、今までありがとうございました。私は少しだけれども、あなたたちと共に仕事が出来て嬉しかったです。私は今日から本部で新・言語改革のお手伝いをいたします。それでは……」

ダウン・サイキバは申し訳なさそうな顔をして目を伏せた。

「言いたいことはそれだけのようなので、君たちはこの部屋から出て行ってもらおうか。外には警備ロボットたちが君たちの確保を待っているぞ」

ジェッ・ト長官は、淡々と言い放つ。

――どうすれば、いいのだろう。

エリカは立ち尽くす。彼が不本意にここへ来ていることを証明しなくてはいけない。しかし、彼が言葉にしなければ意味がない。

すると、後ろのドアが開いた。

そこに立っていた人物を見て、ジェッ・ト長官は少したじろいだ。

「セラン・ヘキレキ地域連合長、一体何のご用でしょうか?」

すると、セラン・ヘキレキ地域連合長は、少し笑みを浮かべて言う。

「私の大切な支部の一つ、アンドロメダ支部の職員を籠絡しようとしているとのうわさを耳にしたので、来てみたんだ。まさか、地域連合部の管轄である地域支部の職員に手を出すとは私に宣戦布告だろうか?」

宇宙連合の職員(エリダヌス本部のみ)のトップは宇宙連合長官だが、宇宙連合の各支部(例えば:アンドロメダ支部)は、地域連合部が管理をしている。よって、権力の度合いが同等なので、よくもめているのだ。

「そうとらえられても仕方ないですね。しかし、あなたも組織の人間なら分かるはずだ。この新・言語改革を完成まで本部で密かに進めるべきだということが」

ジェッ・ト長官も組織や保身のためだけではない。皆と同様、世界を平和にしたいのだ。だが、この人のやり方が称賛されないだけである。

現在のセラン・ヘキレキ地域連合長と同じく、まだ若かった頃、正義と大義という葛藤を彼は、血と涙と共に捨てた。しかし、それらすべてを忘れてはいなかったことは確かである。

「新・言語改革は、完成してからが始まりではない。完成までの過程も含まれているのだよ。一時的だが、本部になったアンドロメダ支部とこれから本部へと元に戻るエリダヌス本部なら、前の言語改革の時より何倍も早く出来る。もう協力しましょう」

――歩み寄られたのか、私は……。

ジェッ・ト長官は、黙ったままで顔をしかめた。

「さ、皆さん。この子を連れて、アンドロメダ支部へ」

「ありがとうございます」

エリカは少しぎこちなくお礼を言った。

「平気だよ。外の警備ロボットの緊急体制も解除しておいたから。もう大丈夫だ」

「はい」

エリカは、笑顔になった。セラン・ヘキレキ地域連合長も笑顔になった。



「あー。今日は疲れたー」

一一・ロボロフスキーが背伸びをした。

「今日は、あと地球時間で25時間あるぞ」

「な……」

藍原瑠璃が一一・ロボロフスキーに少しいじわるをした。

「はいはい、そこまで」

村崎葵が二人のじゃれ合いを止める。それを、灰崎博嗣は微笑んで見ていた。そんな中、エリカは違うことを考えていた。

――どうして、須木君は自ら手を放したのかな。

「……」

通は隣のエリカの元気がない様子に気付く。

「……」

すると、通はそっと左手を伸ばし、エリカの手を握った。恥ずかしいのか、進行方向の斜め下を見ながら。

――え?

皆は先に歩いていて、後ろのエリカと通の二人は視界に入っていない。エリカも通の顔が少し赤くなっていることに気付かない。

「なんとかつなぎ……忘れた」

――恋人つなぎ?

エリカも顔を赤くした。やっと通の気持ちに気付いたのだ。

「返事は?」

通がエリカの方をちらりと見る。

「嬉しい」

エリカは顔を赤くしたままで微笑んだ。

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