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今日も昨日だった  作者: 千田弥代
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七月十日  二回目  気づいたこと

目覚まし時計の音が鳴った。

機械音に起こされた私は眠い目を擦り、のそのそとベッドから起き出した。

なんだか怖い夢を見た気がするけど、内容は思い出せないからいいや。

リビングに行くと、お父さんとお母さんと弟が朝食を食べていた。


「おはよう……みんな起きてるなら起こしてよー」

「もう高校生なんだから自分で起きなさいよ。社会人になった時は誰も起こしてくれないんだから」

「全然先の話じゃん」

「そんなことないわ、高校生で一人暮らしの人もいるでしょう」


なんとなくこの会話に違和感を覚えた。でも、私にはこの違和感の正体がわからない。


「はいはい、次は自分で起きる努力をしますー」


私はそう言い、違和感を無視して食卓についた。

そしてやっぱり、違和感を感じる。

私の視界の中にあるものは、朝食のパンとヨーグルトとスムージー。別に何かが映り込んでいるわけではない。

何だろう……。

疑問に思った私は、弟に共感を求めた。


「ねえ数冴かずさ。なんか今日、変じゃない?」

「は? 莉茉りま姉どうしたの? なんか変なことあるか?」

「えーと……数冴は何も感じない? なんか、おかしい……みたいな」

「悪いけど、俺は何も感じないよ。精神疾患かもしれないなら病院に行ったら?」

「冷たっ。いいよいいよ、私の頭がおかしくなっただけだもん、きっと」


この会話には違和感を感じなかった。

精神疾患を指摘されたので無意識の精神疾患が治ったのだろうか。

まあ、治ったならいいや。

私は朝食を食べ、学校に行くための最寄駅に向かって歩き出した。



「おはよう莉茉! あ、寝癖ついてるよー」

「えっ! 嘘、どこにある!? 」

「はいっと。これで一応直ったかなー」

「ありがとう! 」


高校に着き、仲がいいクラスメートと顔を合わせた瞬間、また言いようのない違和感が頭の中をぐるぐるし始めた。

治ったと思ったら違ったらしい。

これは一体、何なの?

そんな疑問は顔には出さず、私は友達と話を続ける。


「あ、そうだ、私の推しが主演の映画が今日公開されたんだ! よかったら放課後見に行かない?」

「ごめん、遠慮しとく」

「了解! 莉茉は芸能人興味ないもんねー」

「別に興味がないわけではないけど……ん? 」

「どしたの?」


あれ? なんか今までで一番強烈な違和感が……。

私は記憶を反芻して違和感の正体を探る。

芸能人。放課後。映画……。


「ああっ!! 」


私はやっと違和感の正体に気がついた。

この会話を、私は昨日もした。映画の誘われて、断って。全く同じだ。

……でも、そのくらいで違和感なんて感じるかな? 同じ会話をしただけなら、今日も誘うなんて懲りないな、と思うくらいのはずなのに。

それに、今は違和感は感じない。それは、なんで?

やっと違和感の正体に気づいたと思ったら、数倍の疑問がさらに湧き上がった。

とりあえず私は、疑問は置いて校舎の中に入り、教室に入る。

何気なく黒板を見て、私は全てを理解した。


「……嘘でしょ?」


理解をしても、受け入れられない事実というものはある。私は、信じられない事実に戦慄する。

今日は、七月十日。それがどうした、と思うだろう。

昨日も七月十日だったのだ。

黒板の日付の変え忘れという可能性は無い。

ついさっき自分のスマホのカレンダーを見たが、七月十日だった。

それに、朝から感じていた違和感は、昨日も同じことを繰り返していたから起こったのだ。

違和感がなかった時は、昨日と違う行動をしていたのだろう。

このことを知っているのは私だけ? クラスがパニックになっていないことから、きっとそうなのだろう。

私は確認のために、隣の席の人に質問する。


「ねえ、昨日も今日だったよね?」

「どういうことだ?」


クラスメート数人に聞いてみても、反応はこの人と同じようなものだった。

冷静になれ。今わかっていることを整理しよう。

今日は昨日を繰り返している。そのことを知っているのは私だけ。

……いや、意味わかんないわ。

なんで私だけ知ってるの? なんで昨日を繰り返しているの? 明日も昨日なの?

もちろん答えなんか出てこない。理由なんか知らない。

絶望、という言葉をこれほど切実に使ったのは初めてだった。

テストで赤点取るくらい大したことなかったなぁ、と今更思う。


「おい、朝礼始めるぞー、席座れー」


担任の言葉を聞いて、動きを見て、また違和感が仕事を始める。

確かに昨日の朝礼の始め方もこんな感じだった。ということは、確か今日は体育がバトミントンで、私は一回戦で負けて、数学の小テストは二十点なはず……。



結果から言って、全て私の予知(?)した通りだった。

特に驚きはしないが、代わりに微妙な気持ち悪さと恐怖を感じる。

これからどうなるんだろう。そう思いながら、私は昨日とほぼ同じ今日を終えた。




目覚まし時計の音が鳴った。

機械音に起こされた私は眠い目を擦り、のそのそとベッドから起き出した。

なんだか怖い夢を見た気がするけど、内容は思い出せないからいいや。

リビングに行くと、お父さんとお母さんと弟が朝食を食べていた。


「おはよう……みんな起きてるなら起こしてよー」

「もう高校生なんだから自分で起きなさいよ。社会人になった時は誰も起こしてくれないんだから」

「全然先の話じゃん」

「そんなことないわ、高校生で一人暮らしの人もいるでしょう」


違和感がフル稼働している。

私はテレビをつけた。朝の情報番組の右上には、七月十日、六時五十五分と書いてある。

思わずへたりこんだ。物凄い吐き気が私を襲う。

今日も昨日……いや、一昨日? 

どうやら私は、七月十日に囚われたようだった。

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